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 宿屋ファミリアを出たはいいが、コレといった目的はない……訳でもない。

 もちろん。思うところがあっての事。


 事前に様子見というか、確認しておきたい場所があるのだ。

 なので、そこに向かいながら、お昼が近いという事もあって、買い食いしながらのんびりと進む。


 向かった先は、フォードの町の河川港。


 まず、騎士団の動きの中で一番おかしいのは、町の外の脅威には力を入れたのに、町の中はそれほどだという事だ。


 まずやるべきは、ここでエイリール王女と王子が合流するのだから、町の中の脅威の排除だろう。

 なのに、外から始めるとか……関心や注意を町の中に向けさせないためとしか思えない。


 その上、町の中に対しては残った騎士たちで治安維持?

 それが今更なんの役に立つ。


 町の外の脅威を先に排除すれば、町の中の脅威は身を潜めるに決まっている。

 なのに、町の外の脅威を優先したのだから……町の中の脅威とは、町の中で事を起こすにあたって、ある程度の渡りをつけていてもおかしくない。


 その場合、何かあるとすれば、河川港だろう。

 何しろ、何かあった時の逃げ道として使えるだけではなく、たとえば……人を攫って連れ去る時のルート、とか。


 俺ならそう利用する。


 なので、河川港の確認が必要なのだ。

 そう考えている内に辿り着く。


 大型船も停泊出来るくらいに立派な河川港だ。

 上流側と下流側に、同じくらい立派な水門もあった。


 実際、かなりの人の出入りがあって賑わっている。

 対岸にも似たような河川港があり、二つの町の物流の一つなのは間違いない。


 出来れば対岸の河川港も確認したいが、俺の身は一つ。

 どちらかにしか居る事ができないが……まあ、どちらも同じような行動を取っているのなら、片方の確認だけでも充分だろう。


 そうして確認して……いくつかある倉庫の一つが気になった。

 ぼろぼろで長年放置されているように見えるのだが、人の出入りがあった痕跡が僅かだが残っている。


 それと、大部分にその痕跡を消した跡も。

 上手く隠したと思っているようだが、目ざといんだよね、俺。


 まあ、騎士たちがこれをやったと判断すれば、そういうのは畑違いだろうし、残っていても仕方ない部分はあるだろう。


 無様、と笑ってやりたい。


 あとは、このままどっかに行くか。

 長居した結果、誰かに見られて怪しまれても困るし。


 フォードの町を適当にぶらついて、宿屋ファミリアに戻った。


     ―――


 それから数日間は、特にこれといった動きはなく、俺も目立った動きはしなかった。

 偶にセイギちゃんに無理矢理連れ出されて、依頼を受けた程度だろうか。


「あんまりお仕事をしているようには見えませんけど、大丈夫なんですか?」


 食堂で一人のんびりしていると、従業員のイナちゃんに声をかけられる。

 相変わらず、アナちゃんにそっくりだ。


「ああ、大丈夫大丈夫。それなりに蓄えがあるから。それに、英気を養っているの」

「でも、ここ何日もそうしていると、駄目な大人にしか見えませんよ」

「違うよ、イナちゃん。出来る大人だから、こうして休めるんだ」

「言い訳にしか聞こえないのは、私だけでしょうか?」

「いや、アナちゃんも同じような感性を持っていると思うよ。血筋かな?」


 そこで少し誇らし気な笑みを浮かべるイナちゃん。


「そうですか。そうなると、アクニンさんは見たまんま駄目な大人という事になりますけど?」

「いやいや、そう結論付けるのは早いよ、イナちゃん。大事なのは、今のところそう感じているのは、イナちゃんとアナちゃんの二人だけ。つまり、視野を大きくして大勢の人から見れば、別の結論を出すかもしれない」

「出るんですか?」

「可能性は限りなく低いけど、諦めなければ奇跡は起こると思う」

「奇跡レベルなんですね」

「奇跡レベルじゃないかな」


 ある意味、結論は出た。


「つまり、見たまんまという事ですね」

「これが俺だからね」

「開き直りですか?」


 それだけ言い残して、イナちゃんは仕事に戻った。

 うーん。手厳しい。


 これが宿屋ファミリアクオリティだったら怖いな。

 いや、きっと忙しいからだろう。


 何しろ、エイリール王女がギアの町に、王子がフォードの町に来る予定日は明日だ。

 遅れているという情報はないので、予定通りに来るだろう。


 つまり、二つの町は多くの人が来訪し、最高潮に盛り上がっている。

 さすがに来て早々会い、そのまま出発とはならないと思っている。


 お披露目というか、集まった人たちからの祝福の言葉を受け取る催しでもするだろう。

 王族なんてそんなモンだ。


 ……そこが狙い目だと、考えている。


 今問題なのは、そこで何が起こるかの確証を得られていない、という事だ。

 せめて取っ掛かりでもあれば……いや、ここまでくると、あとはエイリール王女と王子が来てからの騎士団の行動で判断するしかない、か。


 面倒な……と思っていると、むさくるしいヤツらがこちらに来た。

 どことなくピリついているように見える。


「……報告に来た」

「報告?」

「………………」

「………………ああ! 報告ね! うん。聞こう」

「お前、忘れていただろ?」

「金払ったんだぞ。忘れる訳ないだろ」


 まあ、本当はのんびりし過ぎて忘れていたんだが。

 しかし、こうして報告に来るって事は……。


「期待していいんだよな? 報告内容に」

「そうだな。こちらとしても、こんなモノが出るとは思っていなかった。正直に言って扱いに困っているのと、狙いを知りたい」

「随分と期待を持たせてくれるじゃないか。何が出た? 見せろ」


 むさくるしいヤツが、テーブルの上に袋を丁寧に置く。

 ……割れ物注意か?


 そこから先は俺任せのようなので、袋を手に取り、中身を確認。

 中に入っていたのは、回復薬が入っていそうな小瓶がたくさん。


 小瓶の一つを取り出して、中を確認。

 中に入っていたのは……粉。


 蓋を開け、まずは鼻を近付ける。

 ……独特の臭い。


 粉を少しだけ取り出し、舐める。

 ……ピリッとした刺激。


「『誘引香』か」

「ああ。特殊な香りで、魔物を引き寄せるヤツだ」

「国管理の禁止物だろう? それがこんなにたくさん、ね。……これで全部か?」

「さあな。いくつか回り、昨日行ったところで、持ってたヤツを見つけただけだ」

「ふ~ん。全部回った訳じゃない辺り、まだまだ出る可能性はあるな。それで、これを持ってたヤツってのは……ああ、聞くまでもないって顔だな」


 まず、いい結末にはなっていないだろう。

 むさくるしいヤツが、真面目な表情で続きを促してくる。


「それで?」

「それで? 何が?」

「わざわざ俺たちに調べさせたんだ。ある程度の予測はついているんだろ? この町で何が起きるのか教えろ」

「どうして? 教える義理はないと思うが?」

「……この町は生まれ故郷で、弟が居る。当然、こいつらも俺と似たようなモンだ。家族が居る。確かに、俺たちはロクなヤツじゃない。そんなのは言われなくてもわかってる。だがな……むざむざやられるのを黙ってみてるつもりはねえ」


 その通りだと、他のやつらも真面目な表情だ。


「……はあ。馬鹿かお前ら。こんな誘引香なんて禁止物を使うんだ。結果なんて一つしかないだろ」

「そんなのは俺たちだってわかってる。知りたいのは、時期だ」

「それこそ一つしかないだろ。人の数だけじゃなく、それこそ二国の王族が来るんだからな」

「王族狙いだと?」

「さあな。これは俺の推測であって、合ってるかはしらん。だが、目立つ事は間違いないな」


 むさくるしいヤツらが黙る。

 エイリール王女と王子は明日には来て、滞在しても数日だろう。


 なので、事が起こるとしたら明日以降の短い期間のため、町の中に誘引香がこれ以上残っているかも怪しい。

 何しろ、数日中に魔物を招き寄せないといけないのだから。


 そんな僅かな時間で何が出来る? と、むさくるしいヤツらは黙ったのだろう。


 だが、これで相手の手は大体見えた。

 ここからこちらが打てる手は少ないが……ない訳ではない。


「それじゃあ、もうちょっと、俺に付き合わないか? この町を守りたいなら」


 俺は笑みを浮かべる。


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