16
宿屋ファミリアを出たはいいが、コレといった目的はない……訳でもない。
もちろん。思うところがあっての事。
事前に様子見というか、確認しておきたい場所があるのだ。
なので、そこに向かいながら、お昼が近いという事もあって、買い食いしながらのんびりと進む。
向かった先は、フォードの町の河川港。
まず、騎士団の動きの中で一番おかしいのは、町の外の脅威には力を入れたのに、町の中はそれほどだという事だ。
まずやるべきは、ここでエイリール王女と王子が合流するのだから、町の中の脅威の排除だろう。
なのに、外から始めるとか……関心や注意を町の中に向けさせないためとしか思えない。
その上、町の中に対しては残った騎士たちで治安維持?
それが今更なんの役に立つ。
町の外の脅威を先に排除すれば、町の中の脅威は身を潜めるに決まっている。
なのに、町の外の脅威を優先したのだから……町の中の脅威とは、町の中で事を起こすにあたって、ある程度の渡りをつけていてもおかしくない。
その場合、何かあるとすれば、河川港だろう。
何しろ、何かあった時の逃げ道として使えるだけではなく、たとえば……人を攫って連れ去る時のルート、とか。
俺ならそう利用する。
なので、河川港の確認が必要なのだ。
そう考えている内に辿り着く。
大型船も停泊出来るくらいに立派な河川港だ。
上流側と下流側に、同じくらい立派な水門もあった。
実際、かなりの人の出入りがあって賑わっている。
対岸にも似たような河川港があり、二つの町の物流の一つなのは間違いない。
出来れば対岸の河川港も確認したいが、俺の身は一つ。
どちらかにしか居る事ができないが……まあ、どちらも同じような行動を取っているのなら、片方の確認だけでも充分だろう。
そうして確認して……いくつかある倉庫の一つが気になった。
ぼろぼろで長年放置されているように見えるのだが、人の出入りがあった痕跡が僅かだが残っている。
それと、大部分にその痕跡を消した跡も。
上手く隠したと思っているようだが、目ざといんだよね、俺。
まあ、騎士たちがこれをやったと判断すれば、そういうのは畑違いだろうし、残っていても仕方ない部分はあるだろう。
無様、と笑ってやりたい。
あとは、このままどっかに行くか。
長居した結果、誰かに見られて怪しまれても困るし。
フォードの町を適当にぶらついて、宿屋ファミリアに戻った。
―――
それから数日間は、特にこれといった動きはなく、俺も目立った動きはしなかった。
偶にセイギちゃんに無理矢理連れ出されて、依頼を受けた程度だろうか。
「あんまりお仕事をしているようには見えませんけど、大丈夫なんですか?」
食堂で一人のんびりしていると、従業員のイナちゃんに声をかけられる。
相変わらず、アナちゃんにそっくりだ。
「ああ、大丈夫大丈夫。それなりに蓄えがあるから。それに、英気を養っているの」
「でも、ここ何日もそうしていると、駄目な大人にしか見えませんよ」
「違うよ、イナちゃん。出来る大人だから、こうして休めるんだ」
「言い訳にしか聞こえないのは、私だけでしょうか?」
「いや、アナちゃんも同じような感性を持っていると思うよ。血筋かな?」
そこで少し誇らし気な笑みを浮かべるイナちゃん。
「そうですか。そうなると、アクニンさんは見たまんま駄目な大人という事になりますけど?」
「いやいや、そう結論付けるのは早いよ、イナちゃん。大事なのは、今のところそう感じているのは、イナちゃんとアナちゃんの二人だけ。つまり、視野を大きくして大勢の人から見れば、別の結論を出すかもしれない」
「出るんですか?」
「可能性は限りなく低いけど、諦めなければ奇跡は起こると思う」
「奇跡レベルなんですね」
「奇跡レベルじゃないかな」
ある意味、結論は出た。
「つまり、見たまんまという事ですね」
「これが俺だからね」
「開き直りですか?」
それだけ言い残して、イナちゃんは仕事に戻った。
うーん。手厳しい。
これが宿屋ファミリアクオリティだったら怖いな。
いや、きっと忙しいからだろう。
何しろ、エイリール王女がギアの町に、王子がフォードの町に来る予定日は明日だ。
遅れているという情報はないので、予定通りに来るだろう。
つまり、二つの町は多くの人が来訪し、最高潮に盛り上がっている。
さすがに来て早々会い、そのまま出発とはならないと思っている。
お披露目というか、集まった人たちからの祝福の言葉を受け取る催しでもするだろう。
王族なんてそんなモンだ。
……そこが狙い目だと、考えている。
今問題なのは、そこで何が起こるかの確証を得られていない、という事だ。
せめて取っ掛かりでもあれば……いや、ここまでくると、あとはエイリール王女と王子が来てからの騎士団の行動で判断するしかない、か。
面倒な……と思っていると、むさくるしいヤツらがこちらに来た。
どことなくピリついているように見える。
「……報告に来た」
「報告?」
「………………」
「………………ああ! 報告ね! うん。聞こう」
「お前、忘れていただろ?」
「金払ったんだぞ。忘れる訳ないだろ」
まあ、本当はのんびりし過ぎて忘れていたんだが。
しかし、こうして報告に来るって事は……。
「期待していいんだよな? 報告内容に」
「そうだな。こちらとしても、こんなモノが出るとは思っていなかった。正直に言って扱いに困っているのと、狙いを知りたい」
「随分と期待を持たせてくれるじゃないか。何が出た? 見せろ」
むさくるしいヤツが、テーブルの上に袋を丁寧に置く。
……割れ物注意か?
そこから先は俺任せのようなので、袋を手に取り、中身を確認。
中に入っていたのは、回復薬が入っていそうな小瓶がたくさん。
小瓶の一つを取り出して、中を確認。
中に入っていたのは……粉。
蓋を開け、まずは鼻を近付ける。
……独特の臭い。
粉を少しだけ取り出し、舐める。
……ピリッとした刺激。
「『誘引香』か」
「ああ。特殊な香りで、魔物を引き寄せるヤツだ」
「国管理の禁止物だろう? それがこんなにたくさん、ね。……これで全部か?」
「さあな。いくつか回り、昨日行ったところで、持ってたヤツを見つけただけだ」
「ふ~ん。全部回った訳じゃない辺り、まだまだ出る可能性はあるな。それで、これを持ってたヤツってのは……ああ、聞くまでもないって顔だな」
まず、いい結末にはなっていないだろう。
むさくるしいヤツが、真面目な表情で続きを促してくる。
「それで?」
「それで? 何が?」
「わざわざ俺たちに調べさせたんだ。ある程度の予測はついているんだろ? この町で何が起きるのか教えろ」
「どうして? 教える義理はないと思うが?」
「……この町は生まれ故郷で、弟が居る。当然、こいつらも俺と似たようなモンだ。家族が居る。確かに、俺たちはロクなヤツじゃない。そんなのは言われなくてもわかってる。だがな……むざむざやられるのを黙ってみてるつもりはねえ」
その通りだと、他のやつらも真面目な表情だ。
「……はあ。馬鹿かお前ら。こんな誘引香なんて禁止物を使うんだ。結果なんて一つしかないだろ」
「そんなのは俺たちだってわかってる。知りたいのは、時期だ」
「それこそ一つしかないだろ。人の数だけじゃなく、それこそ二国の王族が来るんだからな」
「王族狙いだと?」
「さあな。これは俺の推測であって、合ってるかはしらん。だが、目立つ事は間違いないな」
むさくるしいヤツらが黙る。
エイリール王女と王子は明日には来て、滞在しても数日だろう。
なので、事が起こるとしたら明日以降の短い期間のため、町の中に誘引香がこれ以上残っているかも怪しい。
何しろ、数日中に魔物を招き寄せないといけないのだから。
そんな僅かな時間で何が出来る? と、むさくるしいヤツらは黙ったのだろう。
だが、これで相手の手は大体見えた。
ここからこちらが打てる手は少ないが……ない訳ではない。
「それじゃあ、もうちょっと、俺に付き合わないか? この町を守りたいなら」
俺は笑みを浮かべる。




