15
翌朝。今日はワックスのノリがいい。
いい事があるかもしれない。
今日の朝食は、ロールパン、オムレツ、ソーセージ、サラダ、カボチャスープ。
あと、珍しくフルーツがあったので、リンゴをチョイス。
今日は特に予定はないので、のんびりといただく事にする。
「おはようございます」
「おはよう」
漸く起きてきたセイギちゃんに、軽く挨拶を返す。
「……アクニンさんがまともに挨拶を返すなんて、今日は雨でも降るんですか?」
「雲一つない晴天だったな。だから、傘は持ち歩かなくても大丈夫だぞ」
「そうですか。晴れているのはいい事ですね」
「そうだな。雨だと出かけるのが億劫になるし」
「アクニンさんはいつもの事だと思いますけど?」
「動かないといけない時にしっかりと動くために、普段はだらけているんだよ」
そんな事もわからないとは。
セイギちゃんもまだまだだ。
そんなセイギちゃんの朝食は……相変わらず俺の三倍くらいの量がある。
毎度不思議な事だが、これだけの量がどこに消えているのか不思議だ。
「それで、セイギちゃんは今日どうすんの?」
「冒険者ギルドに行って、盗賊の一団退治にどうにか参加出来ないか交渉してみます!」
「ランクが足りないでしょ?」
「だから、どうにかです!」
「でも、それだと王子の出迎えに間に合わないんじゃなかったっけ? その場面を見学するために来たのに」
「そうですけど、盗賊の一団も放置できないじゃないですか! それに、盗賊の一団をささっと倒して戻れば間に合うかもしれないし」
それは無理だと俺は思うが、まあセイギちゃんみたいな考えをしている高ランク冒険者は居るだろう。
ただ――。
「まあ、多分ランクで断られるとは思うけど、やめといた方がいいと思うよ。大人しく見学する方がいい」
「どうしてですか?」
「勘」
「……そうですね。私が離れてしまうと、アクニンさんはどうしたらいいか困惑するでしょうし」
「いやいや、セイギちゃんが俺に付いてきているだけでしょ。困惑するような事は一切起こらないから」
そんな感じで話している内に朝食は終わり、セイギちゃんは当日中に終わる依頼を受けに冒険者ギルドに向かった。
俺はそのまま食堂で待つ。
……コーヒーでも飲むか。
セルフなので自分で用意。
まだまだブラックの良さはわからないので、ミルクと砂糖を入れる。
かき混ぜて……一口。美味い。
食堂でぼーっとしながら待つ。
偶には頭を休める事も必要だ。
……来ないな。
このまま来なかったらどうしてくれようか。
華麗なる報復計画を頭の中で組み立てていると、声がかけられる。
「待たせたか?」
視線だけ向ければ、そこに居たのはむさくるしいヤツらのリーダー格っぽいヤツ。
「……他のはどうした?」
「ちっ。別に全員で来るような事でもねぇだろ」
「まあ、俺としては、報告さえしっかりしてくれれば文句はねぇよ」
「……わかってんだろうが、あの店に手を出したら」
「俺から一つ忠告しといてやるよ。過剰反応し過ぎ。弱みを見せてどうする」
「……うるっせえ」
まっ、本人もその自覚はあるようだが、抑えられないって感じだな。
悪態を吐きながら、俺の対面に座る。
「じゃ、報告よろしく」
話を聞く。
俺の思っていた通り、騎士団はあの店をよく利用していたそうだ。
もちろん、騎士団長も来ていた。
基本は問題ない。
騎士らしく、下手に問題を起こさずに利用して、労いの一環として来ていたようだ。
金もきちんと払い、騒ぎも起こさず、俗に言う良いお客様たちだったらしい。
だろうな。と思う。
情報としては、それだけでも気にしなかった。
労いは労いだろうが、気を遣っていたのは間違いないだろうし。
それはそれで警戒しているかもしれないと判断できるからだ。
ただ、世の中、思いがけない人物が時に鋭い事がある。
今回もそうだった。
それに気付いたのは、むさくるしいヤツの表情が物語っていたから。
言っていいのかどうか、判断がつかないような感じ。
「……はあ。いいから全部言え。重要かどうかはこっちで判断する」
「……いや、なんというか、本当かどうかはわからんが」
話はこうだった。
情報提供は、新人の子。
その日は、騎士団が周辺の盗賊や魔物を事前に掃討した日。
フィルフィート国の騎士団とグロウリア国の騎士団が一同に会したそうだ。
今後の友好を願って……というお題目で。
大多数は大いに賑わっていた。
そんな中、新人の子は見た。
二国の騎士団長が自分たち以外は誰も席につけず、笑みを浮かべながら内緒話をしているのを。
普通であれば、これからの友好に関しての話だと思うのだが、その新人の子によると、妙に親しげで嫌な印象がしたそうだ。
で、一度そういう印象を持ってしまうと他も気になるのは当然。
すると、一部の騎士たちからも、同じような印象がしたそうだ。
ただ、むさくるしいヤツによると、感性の話だから信憑性もなく、その新人の子も勘違いか思い過ごしだと思っていたらしい。
なので、伝えるべきか迷っていたそうだ。
「いや、これだけ騎士団が歓迎されている場所で、そういう意見が出たのはいい事だぜ。面白くなってきやがった」
「……何を考えていやがる」
「何かを考えているのは俺じゃなくて向こう側。俺は調べているだけさ」
「意味わかんねぇ」
「まあ、そう気にすんな」
俺は充分満足している。
それに、グロウリア国の方の騎士団と一緒だったってのはデカいな。
他にも同じような行動を取っていた以上、二国が協力して、と言ってしまえば終わりだが、そんな建前とは別の繋がりがあってもおかしくない。
そもそも、治安維持で騎士が残っているのも、秘密裏に連絡を取り合うためという可能性だってある。
そこら辺も調べておかないとな。
「それじゃ、もう一つ聞かせてくれよ」
「何をだ?」
「どうしてあの店にこだわる? 確かにこの町一番の高級店かもしれないが、そう過敏に反応するような事じゃないと、俺は思うんだがな」
「……何故知りたがる?」
「ただの興味だ。それ以上でも以下でもない」
いや、本当に。
「……弟が店長なだけだ」
むさくるしいヤツがボソッとそう言う。
ふ~ん。なるほどね。
家族が関わっているってんなら、過敏に反応してもおかしくないか。
俺は懐から財布を取り出し、銀貨を三枚取り出して、むさくるしいヤツに向けて放り投げる。
「働きにはきちんと対価を支払わないとな。実際、随分と手間が省けたし、あの店に行ったらそれ以上の金がかかっていたかもしれない。正当な対価としてもらっとけ。口止めも兼ねてる」
「……随分と裕福なこって」
「どっかの馬鹿たちが絡んできたからな、と言いたいが元々だ」
その返しが癇に触れたのか、むさくるしいヤツは、チッと舌打ちを打つ。
「ついでにだが、お前らはこの町に詳しいか? たとえば、裏の方に」
「………………」
「隠し事が出来ないな。表情が物語っているぞ」
財布から銀貨を二枚取り出し、もう一度放り投げる。
「……なんの金だ?」
「俺からの依頼だ。ちょっとばかりこの町の裏を調べてくれ。ああ、別に事を荒立てる必要はないぞ。何かがあるかどうかを調べてくれればいい。それなら、片手間でも出来るだろ?」
「……期限は?」
「王女と王子が来るまでには知りたいな」
「……騎士団が出張ってんのに、何か起こると思ってんのか?」
「寧ろお前は何も起こらないと思ってんのか?」
その一言が聞いたのか、むさくるしいヤツは銀貨を懐にしまい、去っていく。
このまま食堂に居ても仕方ないと、俺も宿屋ファミリアを出た。




