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 まずは適当にぶらつく。

 フォードの町の雰囲気を知るためだ。


 やはり、これからこの場でこの国の王子が隣国の王女を迎えるという事もあってか、全体的に盛況な雰囲気。


 店舗から屋台まで、どの店も今が売り時だとわかっているようだ。

 これからもっと人が集まるのだから間違いない。


 だからだろうか。

 この国の王子だと思われる人形フィギュアや、「王子様と王女様の間に架かる橋饅頭」という、橋型の饅頭が売られていたりしている。


 ……元々橋饅頭はあったと思う。二つの町の間にある象徴のようなモノだし。

 王子様と王女様って文面はまず間違いなくあと付けだろう。


 でもまあ、その文面があるかないかで売り上げは大きく変わる。

 これから起こるのは、そういうイベントだ。


 ただ、そういう様子を見ているだけでは、満足する情報は集まらない。限界がある。

 なんだって、必要な情報を持っているのは大体人だ。


 ぶらつきを適当なところで切り上げ、餃子スープの屋台があったので、そこで小腹を満たしつつ、店主の男性と会話する。


「店主。ここ最近この町で……美味っ! 餃子もそうだが、このスープが絶品だな!」

「だろ! 兄ちゃん、わかってんな! 俺の自慢のスープだ!」

「ああ。大いに自慢していいスープだ。ところで、随分と人が集まるようだけど……ああ、理由は知っている。俺も見物しに来た一人だからな」


 まっ、本当に見物するかはわからんが。

 それよりも、ここのスープは本当に美味い。


 これはアレだな。セイギちゃんにも教えてやろう。

 ちょっとこれだけは情報共有して、感想を語り合いたい。


 紹介ついでに、奢ってもらおう。


「それで、こんなに人が集まって大丈夫なのか? ほら、なんつうの、治安的なことでさ」

「ああ、そこら辺は大丈夫だ。何しろ、王子様が来る訳だしな。この国の騎士団長様が、騎士団を率いて直々に治安維持を行うそうだ」

「へえ、騎士団長が自らねぇ……そりゃ安心安全だな」

「その通りよ! しかも、だ。ついこの前も騎士団長様が騎士団を率いて来られてな。町周辺の盗賊と魔物を倒してくださったんだ。こりゃ一体どういう事だと思っていたら、今回の発表よ! 周辺の脅威を気にせず、人がこの町に来るってもんだ!」


 事前に町周辺の盗賊と魔物を、ね。

 ご苦労なこった。


「それじゃ、騎士団長と騎士団は、今は町で治安維持を?」

「いや、一部の騎士たちが残って治安維持はしているが、騎士団長様と大部分の騎士団は王都に戻っているよ。今度は、王子様と共に来るご予定だ」

「なら、安心安全が約束されたようなモノだな」

「こっちも安心して商売ができるってもんだ」


 それはよかったと、店主と一緒に笑い合う。

 中々面白い話が聞けた。


 あまり深く追求すると逆に怪しまれるからな。

 ここはこれまでにして、別のところに向かう。


     ―――


 食べた分を消化するように町の中をぶらつき、次に入ったのは酒場。

 陽も落ちておらず、時間的には早いが、夜は夜で向かうところがあるので、開いてるところへ適当に入った。

 店の名は……入った時点で忘れた。


 カウンター席で安酒をもらい、ちびちびと飲みながら店主のおっさんと話す。


「この時間から開けるなんて珍しいな」

「今だけだ。その分、早く閉めている」

「今だけ? どういう事だ?」

「わからないのか? それじゃ、商人にはなれんな」

「冒険者で満足している」


 商人になるつもりはないが、俺の答えが気に入ったのか、店主のおっさんは小さく笑った。


「ふっ。簡単な話だ。これからフォードギアの町に王子様と王女様が来るだろう?」

「みたいだな」

「その場に人は集まるが、王子様と王女様が出会う時間はいつだと思う?」

「そりゃ、まあ……こうして宣伝している訳だし、大勢に見せるために昼の可能性が一番高いかな?」


 いくらなんでも、陽が落ちてからはないだろう。

 夜にやるなら秘密裏だし、そもそも秘密裏なら宣伝なんかする訳ないしな。


「その通りだ。で、出会った場にいつまでも居る訳もないし、集まった人もはける。そうなると、集まった人が次に向かうのは?」

「……なるほど。祝うために酒場へ、か。賢いな、おっさん」

「商人なら商機を逃す訳にはいかないからな」


 そりゃそうだ。

 商機を逃すなんて、商人として死活問題だしな。


「……それで、わざわざこんな時間に来たんだ。何か聞きたい事があるんだろ?」

「聞いたら答えてくれんの?」

「そうだな。内容によっては、沈黙か嘘で答える」

「そんな内容じゃないから、安心して答えてくれ。情報に聡い商人に、聞きたい事があっただけだからな」

「そう言われると、正直に答えたくなるな」


 仕方ねぇな、と笑みを浮かべる店主のおっさん。

 乗り気になってくれて何より。


「いや、本当に大した事じゃないんだよ。この国の騎士団長や騎士たちが一度来て、色々掃除していったんだろ? それでちゃんと平和になってるか知りたくてね」

「もちろん。かなりの数の盗賊と魔物が居なくなった。一時的だろうがな」

「まあ、盗賊にしろ、魔物にしろ、どこからでも湧いて出てくるしな」

「ああ。実際、既に新しいのが来ているという噂が流れている」

「……もう?」

「それが本当に他所から来たのか、元々居て掃討を上手く避けたのかはわからんがな」


 でもまあ、噂が流れているって事は、居ると想定して動いた方がよさそうだ。


 これ以上は特に聞く事は思い付かなかったので、もう一杯安酒を頼み、飲みながら酒についての談義で時間を潰す。


     ―――


 酒場を出ると既に陽も落ち、空は暗闇とキラリと光る星だけ。

 曇っているのか、月は見えない。


 町中も街灯と家の中から漏れ出る光が辺りを照らしている。

 さすが国境で栄えている町なだけはあると、大通りは夜でも輝いていた。


 大通りを進み、今日最後に向かうのは、この町一番の高級店だ。

 なんの? と問われれば、女性に酌をしてもらうお店と言えばわかるだろう。

 間違いなく、セイギちゃんと一緒だと入れなくて、そもそも行けない店だ。


 知られると口煩く言われるのは間違いない。

 だから連れて行けないのだ。


 高級店は、大通りに堂々とあった。

 周囲の建物とはどことなく格が違うので、一目で高級だとわかる。


 また、この付近では一番明るい場所のようなので、ある意味治安的にも貢献しているのかもしれない。

 下手な騒ぎを起こせば、この町の闇を垣間見る可能性も高いが。


 ただ、俺はこの高級店を見て確信もしていた。

 騎士団長なんて階級のヤツが利用するなら、必ずこういう店だろうと。

 違っても悪い気分にはならないだろうし。


 という訳で、情報収集の前に美味しい酒でもいただこうと、高級店に向かう。

 高級店の扉の前に立つ、全身黒服のヤツにとめられる。


「……ここは予約制ですが、予約は?」

「ない」

「なら帰れ。小物が」

「……あっ? 誰が小物だ?」

「その顔はどう見ても小物だろうが?」

「見かけで判断すると痛い目みるぞ」

「やれるもんならやってみな」


 全身黒服のヤツの筋肉がモリモリと膨れ上がっていく。

 ボキボキと指を鳴らしながら俺を見ていた。


 ……う~ん。

 全身黒服のヤツの黒服の皺を直すように少しいじる。


「そう怒るなよ、旦那。今のはアレだろ? コミュニケーションってやつだ。わかった。もう行くから。なっ」


 手は出しませんよ、と軽く両手を上げてこの場を移動する。

 別にやれなくはないが、下手な騒ぎを起こして注目されるのは困るし、話が聞けなくなるのはもっと困る。


 さて、どうしたものか。


 今日はもう無理だと判断して宿屋に戻った。


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