11
「いらっしゃいませ!」
宿屋「ファミリア」に入ると、受付カウンターに居る従業員の少女に元気よく声をかけられた。
それは構わない。普通のことだ。
問題なのは……。
「ん? お客さんたち。私の顔をジッと見て、どうかしましたか?」
「「………………」」
俺とセイギちゃんは、なんとも言えなくなった。
その原因は、従業員の少女。
元気一杯な印象を与える金髪がとてもよく似合う、可愛らしい顔立ちの少女。
ファミリアの従業員であることを示す給仕服を着ているのだが、その顔立ちが……アナちゃんにそっくり。双子だと言われても素直に納得するレベルだ。
「……いや、宿を取りたいんだが、部屋は空いている?」
「同室ですか?」
「違う」「違います」
「なら二部屋ですか? 運がよかったですね、お客さんたち。なくなく行商に出なければいけなくなった商人さんたちが居まして、空いたばかりですよ」
「なら頼む」
「それでは、こちらにお名前をお願いします。期間は?」
「十日ほど頼む」
サラサラと名前を書きながら答える。
「十日となると、お客様たちも王子様と王女様を見に来たんですね」
「そうそう。今んところ、予定日通り? 延期はなし?」
「はい。あと五日くらいの予定ですね……アクニン? え? これが名前ですか?」
「そう。俺の名前」
宿帳をセイギちゃんに渡し、懐から冒険者ギルドカードを取り出して見せると、従業員の少女が「ほわぁ~」と大口を開ける。
なんというか、アナちゃんでは見られない表情で新鮮だ。
「……酔狂な方が居るモノなんですね。でも、自ら名乗るくらいだから、逆に清々しい感じでしょうか?」
「アナちゃんと違って好意的に受け取るんだね」
「……ん? アナ? もしかして、ラフールのファミリアのアナですか?」
「え? 知り合い?」
まあ、ここから一番近い町がラフールの町だし、知っていてもおかしくはない。
「アナは私の従姉です。あっ、しかもですね、私の名前は『イナ』なんですよ。似ていると思いません?」
「「従姉! イナ!」」
あっ、セイギちゃんと被った。
いつの間にか書き終わっていたようだ。
「いや、似ているも似ている」
「名前だけじゃなくて、顔も」
うんうんと、セイギちゃんと揃って頷く。
「顔もですか? ……全然違いますよ。アナの方が可愛いです」
うん。そう言われても、違いが全くわからん。
わかる? とセイギちゃんに視線を向けると、わかりませんと首を振られた。
……まあ、二人揃ってここに居る訳じゃないし、呼び間違えるなんて事は起こらないから気にしないでおこう。
「こっちは……普通に名前ですね。アクニン様のあとだと、インパクトに欠けますね」
宿帳に書いたセイギちゃんの名前を見て、イナちゃんがそう言った。
セイギちゃんは、ガーン! とショックを受けている。
「インパクト……インパクトに欠ける……」
そんなにショックだったのかい? セイギちゃん。
ちょっと面白かった。
十日分を払い、部屋の鍵を受け取る。
「あっ、アクニンさんの隣なんですね」
「……聞き耳立てるなよ」
「そんなことはしません! 寧ろ、それはアクニンさんに言いたい事です!」
「安心しろ。それは絶対にない」
「真顔で力強い否定! それはそれでなんかモヤッとします!」
言われたから答えただけなのに。理不尽だ。
とりあえず、諸々の行動開始は明日からにして、今日は晩飯を食べて寝るか。
「イナちゃん。今日の晩飯は何? いつ頃?」
「本日は、オーク肉の生姜焼きがメインです。夕食開始は……あと三十分くらいですね」
「それは美味そうだ」
部屋に荷物置いて、少し休めば時間だな。
「それじゃ、これからしばらくよろしく。イナちゃん」
「お世話になります」
「ごゆっくりお過ごしください」
夕食を食べてから、部屋で休んでいる内に寝た。
―――
翌日。朝。
「……今日は完璧だな」
髪が綺麗に決まった気がするので上機嫌。
朝食時、セイギちゃんにその事を言うと。
「……いつもと変わりませんよ」
「………………」
「ちょっ! なんでそんな残念そうな子を見るような目で、私を見るんですか!」
残念な子だからだ。
朝食は、宿屋「ファミリア」共通でバイキング形式。
なので、パン、ソーセージ、サラダ、タマゴ、スープを取り、パンにサラダとソーセージを挟んで食べる。
セイギちゃんは、俺の三倍は食べていた。
どこに入っているのか、本当に不思議。
「それで、アクニンさん。フォードの町に着きましたけど、これからどうするんですか? 王子様と王女様が来るまでまだ時間はありますし、冒険者ギルドに行って依頼でも受けますか?」
「え? 好きにすれば?」
「アクニンさんは、誰かと行動を共にできないんですか?」
「え? できるけど?」
セイギちゃんの頬が膨らむ。
「なら、どうして行動を共にしないんですか」
「セイギちゃんは勘違いしている」
「勘違いですか?」
「そう。別に俺とセイギちゃんはパーティを組んでいる訳じゃない。言うなれば、ソロとソロ。というか、そもそもなんでもかんでも行動を共にするような関係性じゃないでしょ」
「じゃあ、パーティを組」
「まない」
セイギちゃんの頬が更に膨らむ。
私不機嫌です! と体現している。
仕方ないな。
「いいか、セイギちゃん。俺は、わざわざパーティを組む必要はないと思っている。セイギちゃんなら、俺がフォローしなくても大丈夫だとわかっているからだ。だからこそ、パーティで行動するより、それぞれソロで動いた方が何かと都合がいいと思わない? で、必要に応じて協力し合えば」
そう言うと、セイギちゃんは胸を張って、自慢気な表情を浮かべていた。
恐らく、フォローしなくても大丈夫、という部分が琴線に触れたんだろう。
認められている、と思ったのかもしれない。
……まあ、セイギちゃんの好きなように解釈すればいいさ。
「うんうん。確かに、アクニンさんの言う通り、私は一人前です。なので、ソロでも大丈夫です。それに、アクニンさんが必要に応じて協力すればいいなんて言葉が出るとは………………私のアクニンさんへの更生が上手くいっている証拠ですね! ここで無理強いはよくない! うんうん。あとはアクニンさんが私に協力を求めてくる時を待てばいいのです!」
……えー、なんだろう。自分で言っておいてなんだが、セイギちゃんは大丈夫だろうか?
まあ、セイギちゃんがそれで納得するのなら、別に困らないので訂正はしないが。
朝食を食べ終われば、俺とセイギちゃんは別行動を取る。
セイギちゃんは冒険者ギルドに行くようだ。
視線だけで見送ったあと、俺も行動に移る。




