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――三日後。昼過ぎ。フォードの町の外壁が見えるところまで無事に着く。
この間、護衛なんて必要ないだろ? と言いたくなるくらいに、何もやることがなかった。
要は、何も起きなかったのだ。
普通なら、魔物とか盗賊辺りが出て来てもおかしくないのだが、何も出て来なかった。
何も起こらなかったことを推測するのなら、フォードの町に向けて何台もの馬車が移動している今、予めそういうのが掃討されたか、どこかの馬車の護衛が片付けたか……もしくは、狙いの馬車があるか。
いくつか考えられるが、そんなところだろう。
「無事に着いてよかったですね、アクニンさん」
「そうね」
だが、今の推測は主に盗賊というか人に対してだ。
魔物まで現れないのは……何かが起こる前触れか?
……まあ、何かが起こるだとうと踏んでここまで来た訳だから、何か起こってもらわないと困るが。
「アクニンさん。笑うと更に悪い顔になるんですから、気を付けてください」
「セイギちゃんは、偶に人にグサッと刺さる事を言うよね」
「刺さったんですか?」
「いや、一般論」
俺にはちっとも刺さっていないから。
そうこうしている内に、フォードの町に着く。
といっても、直ぐに入れる訳ではない。
特に今は、次々と馬車が到着しているため、まずは入るための列に並ばなければならなかった。
「面倒。横入りは一悶着が起こって更に入るのが遅くなりそうだから、貴族門とかに行こうぜ」
町に入るための門には通常、一般門と貴族門がある。
違いは言葉通りで、わかりやすく言えば、貴族門は貴族が通れる門で、それ以外は一般門だ。
貴族門ならすんなり入れるだろう。少なくとも、ここよりは。
「アクニンさんは、堪えるという事が出来ないんですか?」
「出来るか出来ないかで問われれば、出来る。だけど、今の問題は堪える気があるかないかだから、ないと答える」
「……アクニンさん。子供ですか?」
「少なくとも、セイギちゃんよりは大人だよ」
セイギちゃんと睨み合った。
すると、前方から並んでいるヤツらを無理矢理どかせながら、騎馬集団が駆けて来る。
「どけえ! 道を空けろ! どかんか!」
先頭で駆けているヤツが、偉そうな声でそう言っていた。
大体一部隊くらいだろうか。
騎馬部隊はそのまま俺たちの前を通り過ぎ、町の壁沿いに沿ってどこかに消えて行く。
……あっちにあるのは……貴族門を利用するつもりか?
「なんというか、アクニンさんの嫌いなタイプな気がします」
「そうね。ああいうのには屈辱を味合わせてやりたくなる」
「私は?」
「徹底的におちょくりたくなる」
べー、と舌を出して見せる。
セイギちゃんが頬を膨らませて怒り顔。
そんな感じでセイギちゃんを時間潰しに使っている間に列が進み、フォードの町の一般門に辿り着く。
中に入るためには本人照明が必要なので、俺とセイギちゃんは冒険者ギルドカードを門番に提示する。
「……悪人面で、名前もアクニン。………………正気か?」
「当然」
「なんでそこで堂々としているのかわからんが……まあ、手配されている訳でもないようだし……問題起こすなよ。場合によっては一発処刑だからな」
「わかってるって」
門番から冒険者ギルドカードを返してもらい、フォードの町の中へ。
「どうしてそれでアクニンさんが入れるのか、わかりません。ラフールの町も普通に入れましたし」
「この身から溢れて隠せない人徳だよ、人徳」
ちなみに、ラフールの町とは、前まで居た町の名だ。
乗り合い馬車乗り場は直ぐあり、そこで解散。
セイギちゃんと二人だけになる。
「まずは宿だな」
「そうですね」
意見が合ったようで何より。
この町に住んでいる者なら知っているだろうと、乗り合い馬車乗り場の売り子の女性に、宿の場所を尋ねる。
「ども。こんにちは」
「いらっしゃいませ。どこまでご利用ですか?」
「いや、ここに着いたばかりなんだが、初めてでな。この町に宿屋『ファミリア』はあるか?」
「もちろんありますけど……もしかしてアレですか? どの町に行こうが、宿屋『ファミリア』にしか泊まらないとこだわっている『ファミリマニア』ですか?」
……「ファミリマニア」? 何それ?
「いや、そうでもないけど……え? そんな言葉があるの?」
「『ファミリマニア』はみんなそう言うんですよね。でも、ありますよ。割と有名だと思いますけど?」
そうだったのか。全然知らなかった。
……そこら辺の情報も手に入れておこうかな。
「まあ、有名かどうかは今どうでもいいんで、宿屋『ファミリア』がどこにあるのか教えてくれる?」
「あっ、失礼しました。場所はですね……」
売り子の女性に教えてもらう。
ただ、セイギちゃん。俺を指差して、「ファミリマニア」って言葉にウケて笑わないように。
教えてもらったので、宿屋「ファミリア」に向けて歩く。
そうして進んでいく中、俺は頭の中で、この町について調べた内容を思い出す。
フォードの町。別名、橋繋ぎの国境の町。
今居るこの国・フィルフィートと、隣国・グロウリアの国境の一部は、広大な川で遮られている。
それこそ、その川幅は町一つ分くらい簡単に入るほどに幅広い。
その川に建てられた橋で、フォードの町と繋がっているのが、グロウリア国側の国境の町「ギア」だ。
また、このフォードの町とギアの町はかなり発展している。
それはそうだろう。
何しろ、両方とも国境の町だ。
国と国の間で行われる物流の場な訳だから、商人たちが放っておく訳がない。
どこのどんな商人が力を持っているのか……あとで調べておかないと。
そんな訳で、かなり発展していれば、当然人も集まる。
それだけじゃなく、近くに山と森もあるので、資源もある。
となれば、魔物も居て、仕事を求めて冒険者も集まる。
聞いた話では、二つの町の人口を合わせれば、王都並らしい。
集まるところには集まるものだ。
ただ、それだけ人が集まれば、その分仄暗い部分も生まれる訳で……そこが俺の狙いである。
儲かる情報が手に入れば、喜んで相手に感謝するんだけどな。
それと、この二つの町には、ある問題があった。有名らしい。
それが、どっちの名を先に言うか問題。
要は、大体のヤツが、この二つの町をくっ付けて言うそうだ。そこで。
「ギアフォード」と呼ぶか。
「フォードギア」と呼ぶか。
正直、どうでもいい……のだが、このことをセイギちゃんに教えると。
「むむむ……ギアフォード……いや、フォードギア……うぬぬ……」
真剣に悩み出した。
結果。
「決められません。アクニンさん」
「まあ、どっちにもいいところはあるし、住民の気持ちを考えるとな」
「ですよね! そうなんですよ! どっちもよくて!」
気持ちとしてはどっちでもいいと思っているが、試しに肯定してみるとこうである。
セイギちゃんは目をキラキラさせて、うんうんと何度も頷く。
偶に、セイギちゃんの将来が不安になるな。
俺もうんうんと頷いておく。
そうこうしている内に、宿屋「ファミリア」に着いた。




