別章 ローレン
フィルフィート国の王都から、フォードの町まで行くには、いくつもの町を経由していかなければならない。
その内の一つ。中継都市・ダルペ。
ここは、フィルフィート国全土の物流の中継地なのだ。
「フィルフィート国はダルペから始まる」とまで言われているほどに発展している。
一番は、やはり王都なのだが。
ここには、当然のように近隣を治める領主が居る。
中継都市・ダルペがここまで発展出来たのはこの領主だからこそと、やり手として有名だった。
その領主が用意した、この中継都市・ダルペの中で最も品が良く、格式が高い部屋に一人の男性が居る。
その男性の名は、ローレン・フィルフィート。
精悍な顔付きで、青空のような青い髪が良く似合う十代後半の男性。
仕立ての良い服を身に纏い、見るだけで品の良さがわかる。
ローレンは、窓から外を眺めていた。
眺めている方角を辿っていくとあるのは、フォードの町。
「……もう少しで、エイリール王女に会える」
女性を虜にしそうな、柔和な笑みを浮かべるローレン。
新聞に情報があがる前から、ローレンは護衛の騎士団を伴って移動を開始していた。
この中継都市・ダルペからフォードの町までは、街道を進めば七日で着く。
漸く、これから結婚するという実感が伴ってきたのだ。
ローレンの中で去来するのは、エイリールに助けられた日の事。
死を覚悟したローレンは、自身を助けてくれたエイリールが女神に見えた。
その日から今日までを、長いと感じているか、短いと感じているか。
ローレンがどちらか感じる前に、遮られる。
室内に響くノック音に。
「どうぞ。お入りください」
現在、この部屋に入れる者は限られている。
領主か。執事か。それとも――。
「失礼致します」
室内に入り、ローレンに向けて臣下の礼を取るのは、護衛として共に行動している騎士団の長。
名は、ルイド・バリッシュ。
白髪交じりの黒い短髪に、雄々しい顔立ちの五十代の男性。
鍛え上げらえた肉体は、真紅の鎧で隠されている。
「ローレン様。兵は休息を取り、補給も完了しました。直ぐにでも出発できますが、如何致しますか?」
「バリッシュ騎士団長。いえ、出発は明日で。これは時間を合わせた待ち合わせのようなモノですので」
「かしこまりました。では、明日朝出発で構いませんか?」
「それで構いません。ああ、金銭は私が出しますので、今日は存分に飲み食いして英気を養ってください」
「兵たちも喜び、ローレン様を称えるでしょう」
バリッシュがローレンに向けて一礼する。
ローレンからは見えない位置で、バリッシュは笑みを浮かべる。
ほくそ笑み。邪悪さを感じさせるモノを。




