別章 エイリール
グロウリア国内。
馬車の一団が、国境の町であるギアの町に向けて進んでいた。
その目的はのちのち世間も知る事となった、隣国の王子と結ばれるエイリール王女を無事に送り届ける事。
対象が自国の王女となれば、当然万全を期して護衛につくのは騎士団である。
完全武装で馬上している騎士も居るため、もし野盗などがこの一団を見れば、襲おうとは露ほども思わないだろう。
となると、懸念は理知なき魔物の類いだが、そこは事前に粗方間引かれているので、襲いかかられるような事はなかった。
故に、この一団の進行はスムーズだと言える。
そんな一団の中央で駆ける一台の馬車。
外部にグロウリア国の紋章が描かれ、乗車しているのが誰なのかを明確に示していた。
グロウリア国の王女。
エイリール・グロウリア。
絹のような金髪に、慈愛を感じさせる整った顔立ちの十代後半の女性。
身に纏う純白のドレスが非常によく似合っている。
エイリールは、馬車の中から流れる景色を楽しんでいた。
その対面に座っているのは、鎧姿の紺色の短髪女性。
名は、バーネット・ハイン。
エイリール直属の騎士である。
「まさか、あの時救った男性が隣国の王子で、エイリール様と結婚する事になるとは」
「あら? バーネット。ローレンはいい方だと、私は思うけど?」
「そうですね。それは否定しません。真面目で優秀、エイリール様と同じように民からの人気も高く、非の打ちどころもない人物である事は調べがついています」
「調べる必要があったの?」
「当然です。エイリール様の相手として相応しくない判断すれば、処断していましたので」
「ふふっ。処断していないって事は、大丈夫だったって事ね?」
「でなければ、こうなっていません」
そうね、とエイリールは微笑む。
「それにしても、いくらお父様が許可したとはいえ、あなたまでフィルフィート国まで付いてくる事はないのよ? バーネット」
「いいえ。私の忠義はグロウリア国ではなく、エイリール様に捧げられていますので。それに、私が居た方が心強いでしょう?」
「頑なね。でも、バーネットの言う通り。すごく心強いわ。でも、安心して。私が危なくなったら、ローレンも助けてくれると思うから」
「そうですね。ローレン様は、エイリール様にベタ惚れですから」
「私も好いているわよ」
それも知っています、とバーネットは力ない笑みを浮かべる。
「そういえば、ローレン様の話で思い出しましたけど、それよりも以前に」
バーネットの言葉は馬車内に響くノック音で遮られた。
瞬時に反応したバーネットが馬車の小窓を開けると、馬車と並走している馬に跨っている男性が顔を覗かせる。
茶色の短髪に、髭が似合う整った顔立ちの三十代後半の男性。
立派な鎧を身に纏っているが、鍛え上げられた肉体は隠しきれていない。
この男性の名は、カイル・ディザイン。
グロウリア国の騎士団長である。
「先を進んでいる者からの報告で、少し先に魔物が居るようです。騎士団の中から何名かを選抜し、先行させて駆除にあたらせますので、この場で少々お待ちください」
「わかりました」
「よろしくお願いします」
返答を聞いたディザインは、騎士団に指示を出すために馬車から離れる。
ただ、離れるその一瞬、ディザインはエイリールを見た。
欲に濁った目で。




