091, 4-10 旅立ちと暴力
前回のあらすじ
壁ドンする俺
俺は今、カナリッジと王都を繋ぐ街道にある中継村にいる。
中継村には壁があり、入り口では自警団が小型モンスターの侵入を防いでいる。
街では衛兵が待機していたが、中継村では自警団が担当しており、装備は槍と石。
近づかずに追い払える布製のスリングを使った投石が有効で、ちょっとした訓練はするらしいが、魔法は使えない。
行政関係の仕事は村長が引き受けている。
村の中の畑はやはり穀物中心らしく、外の畑は手入れが必要ない野菜を適当に育てており、収穫時以外は村から出ないらしい。
たまに騎士がやってきては畑に栄養を送る魔法を使ってくれ、行政書類の受け渡しや税の徴収、投石用の石を持ってきてくれるそうだ。
肉は狩人が獲ってきたものを分け、足りない食料は旅人から得られる宿泊代で購入する。
街に比べると少ないが魔法具もいくつかあり、村民専用の公衆浴場まである。
宿屋は街の宿屋と同じ程度の魔法具があり、サービスも充実しているが、一泊金貨1枚と高く、旅人相手の食堂は一食銀貨1枚ほどする。
ボッタクリではなくこれぐらい取らないとやっていけなそうだ。カナリッジ冒険者ギルドの酒場は街の中なのに一食銀貨1枚だったが・・・。
建物は木造だが開拓村と比べると中継村もずいぶん文明的に見える。
開拓村はこの世界で最低レベルの生活水準だったようだ。
20年に一度、血が濃くなりすぎないように周辺の村の若者が集まってお見合いをするらしい。
当然、移動には護衛が必要なのだが、騎士団が無料でやってくれるという。騎士忙しすぎだろ・・・。
この村の人口は現在432人。皆顔見知りで家族のようなものだと教えてくれた。
誰が教えてくれたのかと言えば村長の孫娘が教えてくれた。
ちょっとふっくらとしたソバカス顔だが、笑顔が大変素敵な癒やし系の村娘だ。
街で見かける美人のお姉さんとは違った魅力がある。
う~ん、癒やされる。凄い癒やされる。
ギュッと抱きしめたくなる。抱きしめていいかな・・・。なんか笑って許してくれそうだな・・・。
土下座すればエッチなこと出来るんじゃないか?
土下座してみるか・・・、どうする俺?!
とりあえず妄想でもしてみるか・・・、と思ったところで家出令嬢に殴られる。痛い。
身体強化を使っている俺が痛みを感じるという事は、身体強化を使って殴ってきているという事であり、完全に頭おかしい。
「暴力は最低だぞ!」と常識的に抗議する俺。
「また変な事を考えていたな!」と言いがかりをつけてくる家出令嬢。
「言いがかりはやめろ!!」と正論を言う俺。
「妄想をしようとしたのはわかっている!!」と何故か言い当ててくる家出令嬢。
何故バレたのかわからないが、仮に俺が妄想したとしても誰に迷惑をかけるわけでもない。特に家出令嬢には全く関係ない。
家出令嬢の暴力に怯えソバカス娘は逃げていってしまった。
妄想できそうだったというのに・・・。
「欲求不満ならアタシが相手してやるぜジョニー」と胸をグイグイ背中に押し付け抱きついてくる痴女銀狼。
「やめて下さいお願いします」と丁寧に頼む俺。
痴女銀狼のセクハラを回避し宿屋に泊まる。
もちろん別々の部屋だ。
宿屋の主人にこっそり「娼館はありませんか?」と聞いたら「子作りしたいなら結婚するしかねぇな」と笑われてしまった。
次の日の朝、馬車に乗って開拓村を出発し、昼過ぎに王都に到着する。
カナリッジとは比べ物にならないほどデカく、畑も広大だ。
畑自体も日の光を遮らない低い壁で覆われており、護衛は馬に乗った騎士が担当している。
王都で作られた食料は王都だけでなく、国にある全ての中継村に販売されるというのだから驚きだ。
前世は田舎で食料作って都会が消費するイメージだったが、この世界では国の要たる王都が食料生産を担っているらしい。
今回の目的地は王都ではなく列車だ。王都近くにはルービアス大陸をぐるっと一周する列車が停まる駅がある。
ファンタジー世界なのに発想が一気にオーバーテクノロジーだが、これは異世界転生者が作ったものだ。
800年ほど前にドワーフの国に生まれた異世界転生者が作った魔石を燃料にした魔法具列車。
レールの自動修復機能や大型モンスターの討伐機能、ボスモンスターの探知機能まで備えている。
『鉄道マニアの俺が異世界に転生したので魔法の列車を作ってみた件』という本に書かれていた。
かなり人気の本なのだが、専門用語やオタク用語ばかりで正直全てを読む気にはなれなかった。
この世界の人間には異世界の話というだけで人気がある。
技術者ではなくただの鉄道マニアなので製作に人生を捧げても結局完成せず、実際には死後に研究を引き継いだドワーフ達が完成させたらしい。
昔は8両編成の右回り列車だけだったが、今では10両編成の列車が右回り2本、左回り2本で計4本走っている。
異世界転生者の存在は特に隠されておらず、冒険者ギルドを作ったり、列車を作ったりと、なんだかすごい人達と認識されている。
俺も異世界転生者だが、特別な知識や技能など持っていないので名乗り出る気はない。
そんな異世界転生者が作った列車に乗るのはエルフの国に行くためだ。
ルービアス大陸は北にエルフの国、東にドワーフの国、南に普人の国、西に獣人の国、と大雑把にこんな感じで、大国の間に小国がある。
人間の生活圏は基本的に街の中なので国境もかなり曖昧であり、領土争いもない。
ドワーフの国かエルフの国かで迷ったが、エルフに決めた。
エルフのエッチなお姉さんで童貞卒業したい。エルフはやっぱり美形種族だしな。
左回りのルートでドワーフとエルフの国境沿いの街に行く。
何日か王都で列車を待つ必要があるかと考えていたのだが、ちょうど停車中だった。
童貞卒業したらドワーフの国に引き返し魔剣を買おう。
美人のエロいエルフとエロいことするぞ!エロフだぞ!!
そんな強い思いで席に座る俺。
向かいの席には家出令嬢と痴女銀狼が・・・。
「お前達はどこに行くんだ?」
「ジョニーはどこに行くつもりなんだ?」
「エルフの国だな」
「じゃあ我々もエルフの国だな」
(じゃあってなんだよ・・・)
国外に行けばお別れだと思ったやばい女達は、どうやら付いてくる気らしい。
(まぁ、エルフの国までの辛抱だ)
しかし、このときの俺はまだ知る由もなかった。
エルフの国では小さきエルフに纏わり付かれ、やばい双子に崇められることになるなんて・・・。




