089, 4-08 イケメン貴族との決闘
前回のあらすじ
わけがわからないよ
騎士は忙しい。
普人の国の騎士は準貴族という扱いで、騎士に叙任されると名字がつく。
準貴族の家系でも騎士になって初めて家名を名乗れる。
そして、準貴族の家系でなくても試験に合格すると騎士になれる。
つまり平民でも準貴族になれる。
この世界で冒険者の評価が低いので別の職業を探した時、成り上がりっぽいな、と思って調べたが、騎士はとにかく忙しい。
冒険者は適当にモンスターを狩ればいいお手軽な仕事であり、モンスターを相手にしない採取専門の冒険者までいる。
訓練するかどうかは人それぞれなので死亡率は高いが、一定の技量があれば安全にそこそこ稼げる。
冒険者の評価が低いのも当然だ。
衛兵は街の治安を守り、街周辺の小型モンスターをちょっと間引いたり、申請書なんかを受け付けたりと公務員みたいな感じだが、仕事は基本的に安全な街の中であり、衛兵になる時に訓練をするので死亡率も低い。
騎士は街だけでなく村も守る。
周辺を探索し、大型モンスターを発見すれば倒し、ボスモンスターの監視、時には誘導をする。
領地で問題があれば現地に赴き調査する。
未攻略ダンジョンが近くにあればモンスターが溢れてこないように管理する仕事まである。
多くは騎士の家系出身であり、子供の頃から厳しい訓練をしているのでかなり強いらしい。
騎士になった後も部隊単位の連携訓練がある。
死亡率は高く、領地の安全を守っているので皆に尊敬されている。
『みんなの憧れ騎士のお仕事~なれる準貴族~』という本に載っていた。
給与はいいが仕事内容は完全にブラックであり、常に人手不足で休みなど殆どない。
俺の中でなりたくない職業ナンバーワンである。
平民の結婚は、家族や知り合いに挨拶して一緒に住めば成立するが、流石に貴族は国に許可をもらう。
平民はそもそも公的記録がないので、貴族と結婚するならまずは準貴族になる必要がある。
だから貴族からしても準貴族は平民側ではなく貴族側であり、貴族がモンスターを相手にするなら冒険者ではなく騎士を目指す。
貴族も騎士になると尊敬されるらしい。
家出令嬢はなぜか冒険者になっているが、あいつは変人なんだろう。
そして今、俺の前で名乗りを上げているイケメン貴族は騎士らしい。
イケメン貴族の後ろ、ちょっと遠くで牛が草をはんでいる。
騎士は忙しく、訓練場は訓練時以外は放牧地として利用される。
土地が少ないので当然だ。
だからなんか、すごい間抜けに見える。
「準備はいいか冒険者よ!」と大鬼将軍の角で作ったラメラーアーマーを着て、大型モンスターの骨で作ったロングソードをこちらに向けてくる。
あの構えになんの意味があるのか・・・。
間合いを計っているのか・・・。
ラメラーアーマーは貴族が買っていたのか・・・。
なぜボーンソードなのか・・・。
ボーンソードは魔法で強化しても破損率は高くならないが、ミスリルの剣のほうが切れ味がいい。
ボーンソードは、作るのに金がかかる芸術品と武器関係の本で読んだことがある・・・。
これは、あれだな。準貴族の騎士が頑張って弱らせた大型モンスターに止めを刺して、その骨から記念に剣を作ったのだろう。
身体強化を使っているが、魔力感知で魔力の流れを把握するとなんか不安定だし、正直全然強そうに見えない。
ナイフを投げたら即終わりそうだが・・・、決闘ってナイフ投げていいのか?
攻撃魔法とか使っていいのか・・・、ルール説明とか一切ない。
とりあえず剣を抜こうとすると、立会人とおぼしき騎士が殺気を放ってくる。
普通に強そうであり、怖い。
素手で戦えというのか・・・。
というか見覚えある顔だな・・・。
こいつ、うっかり騎士だな。
そういえば昔、領主の娘の護衛をしてるとか言ってたな。
家出令嬢はじゃじゃ馬娘だったのか・・・。
うっかり騎士はうっかりなくせに相当強そうだ。
仕方がないので剣を抜かずにイケメン貴族に近づく。
イケメン貴族は「くらえっ、魔斬剣」と剣を横に振る。
俺は普通に避ける。
「ふっ、まさか僕の必殺技を避けるとはな・・・」
(必殺技だったのか・・・)
俺も子供の頃に必殺技を使いたいと主張したが、イケメン師匠にうざい嫌がらせをされたな。
剣を振り抜いたタイミングに合わせてイケメン貴族の背後に回る俺。
ここで殴れば終わりそうだが、殴ろうとするとうっかり騎士が殺気を放ってくる。
決闘とはなんだったのか・・・。一対一とは言っていないとかそういう罠なのか・・・。そもそも何故決闘をしているのか・・・。
「くっ、ちょこまかと逃げ回るだけ・・・、卑怯者めっ!!」
(ぶん殴りたい・・・)
まぁ、背後にくっつかれると、かなりうざくてイライラするからな。
俺が背後に付かれたら前に走って逃げる。
追ってきた時のことを考えてナイフを投げるのもいいだろう。
ショートソードなら脇の間から背後を突く事もできる。
だが、イケメン貴族が持っているのはロングソードだ。
回転しながら背後を斬りつけてくる。
俺も一緒に回るので当然あたらない。
剣を背後まで振りかぶってくる。
大振りなので避けようと思えば避けられるが、背後に斬りつけた後どうするのかわからないので距離を取る。
斬りつけた後、普通に剣を戻した。隙だらけである。
何故あんな無駄に大振りをするのか・・・。
もし俺がロングソードを持っていたら地面を斬りつける。
土や石を飛ばしてやればかなりのダメージだ。
でもまぁ、こいつは大型モンスター相手の剣術を学んだのだろう。
仲間と連携しながら隙きを見つけてはロングソードで攻撃力の高い一撃を当てていく。
そんな感じの動きをしている。
うっかり騎士が怖く、こちらから攻撃できないので、適当に近づいて攻撃を避け続ける。
30分ほどすると、イケメン貴族はゼェゼェと息を切らし、剣を地面に突き立てる。
(早すぎだろう・・・)
適当に避け続けていれば身体強化が切れるだろう、という狙い通りの結果だが、冒険者以下の実力である。
うっかり騎士が判定してくれるのかと視線を向けると、睨んでくる。
(お前なんのためにいるんだよ・・・)
仕方がないのでイケメン貴族に近づく。
「僕の負けだ・・・。彼女を・・・頼んだっ」
何を言っているのかよくわからないが、状況からして家出令嬢のことだろう。
家出令嬢を賭けた決闘だったのか?
頼むとはどういうことなのか・・・。
家出令嬢と会ったのは数日前なのだが・・・。
断れるのかこれ・・・?
しかし、うっかり騎士が怖い。
いりません返します、と言ったら叩き斬られそうだ。
仕方がないので小さく頷く。言質を取られたくない。
家出令嬢と痴女銀狼の手を掴んで逃げる。
置いて行きたいが、何をするかわからないので連れて行くしか無い。




