080, 0-48 幕間・謀略女王の解放
・ルクレーシャ=クロトーの解放
前回のあらすじ
ケモミミ男子
「イヤよ!私はずっと此処にいるんだからっ!」
「姉上、一緒に来て下さい!後宮にいる必要はないのです!!」
「みんなでお茶会しているの!邪魔しないで!!」
「姉上!!」
禁断の修羅場っぽい雰囲気で争う姉弟。
単純に人質開放するよってだけの話なんだけど、揉めに揉めている。
忍者部隊として頑張っていた貴族たちにもご褒美をあげなきゃ。
そう思った私は、一区切り付いたし、人質開放して利権をあげようって考えた。
東と西の公爵が争っていた利権。これは王族の直轄領の代官職だった。
王族は基本的に王宮から出ない。
王宮から出るのは結婚とか、養子とか、爵位をもらって家を興す時とかで、そういう人達は王族じゃなくなる。
これは多分、王族同士が継承争いとかして国が乱れないようにって配慮だ。
国が乱れてダンジョン管理が疎かになるとボスモンスターが出てきてしまう。
前王がたくさん子供を作ってたのは実は結構ヤバめの復讐だったんだね。
真面目だった頃は、ドワーフの国へ自ら赴いて商業条約結ぶ思い切りがいい面もあったみたいで、前王を主人公にした本も結構あった。
普段は堅物だけど、時に大胆な行動で国を改革し、王妃様をこよなく愛していたけど死別、ハーレムライフへ。本のネタに困らなそう。
悪役令嬢はこういう本を読んで王様に執着していたのかもしれない。
ダンジョンの近くには必ず街を作るけど、それ以外の場所に街を作ることもある。
鉱山とか、珍しい薬草や木材が採れる場所、それが王族の直轄領。純粋に利益が出る街。
王族が王宮から出ないなら代官やりたい放題出来るじゃん、って思ったけどそんな事はせず、商人への仲介料とかが利権。
横領とかしないのもダンジョン管理の為。
通常の国家運営は国費で、直轄領の利益はダンジョン管理で困ってる貴族に配られる。
いざって時にお金が無いと、やっぱりボスモンスターが出てきてしまう。
モンスターは人間の事情なんて関係なく好き勝手暴れるから、不正を働いて私腹を肥やすなんて馬鹿な貴族はいない。
前王は直轄領の利益どころか国費まで使い込んでた。
エルフの指示で作られた国は、成り立ちから運営までダンジョンの管理が基準。
西の公爵は東の公爵領の管理で忙しそうだし、国にお金が無いから自費で何とかしてもらう。
忍者部隊の人達は爵位を継ぐ予定のない使用人として働いてた貴族だし、褒美としては悪くないでしょ、ってことで代官を任せようとしてるんだけど・・・。
「イヤよ!王都に来る時だって凄く怖かったんだからっ!壁の外なんて絶対イヤ!!」
「大丈夫です姉上!海沿いの綺麗な街です。モンスターも少なくて魚介が美味しい場所ですよ!」
「お魚嫌い!!」
子供みたいなこと言い出したお姉さん。
王子様との縁談の為に怖い思いをして領地から王都まで来たのにフラれる。
落ち込んでいたら別の王子様と恋愛関係になり愛人に。
心穏やかに楽しい時を過ごし始めたら王宮で殺し合いが。
勇気を振り絞って王宮から「死にたくない」と逃げ出したところをグリゼルが拿捕。
最初は怯えていたけど、同じ境遇の貴族令嬢はたくさんいて、別にひどい扱いを受ける事もなく、お茶会開いて、おしゃべりして、たまに来る商人を通してお買い物をする。
そんな穏やかな日々が気に入ったのか人質生活に満足してしまった。
直轄領に行くって事は王都を出るって事で、モンスターがいる危険な世界を旅する事になる。
だからゴネてる。
後宮に住みつかれても迷惑だし、仕方がないから護衛の手配とか専用の馬車とかを用意してあげた。
もちろん無料じゃない。
領地に行った後も忍者部隊の一員として情報収集などしてもらう。
集める情報は街の噂程度。冒険者を使うようにと命令する。
そして、手紙は暗号でやり取りする。
文字に数字を振って、解読表がないと数字の羅列にしか見えないって単純なものだけど、手紙を暗号にするなんて発想はこの世界にはないらしく、これで十分。
直轄領に行く者、自分の領地に帰る者、王都に残る者など忍者部隊も分散化。
冒険者を使う理由は、冒険者ギルドはルービアス大陸全土に広がる組織だからだ。
いずれ他国の情報を気軽に集められる諜報網が出来る・・・かも。
ルービアス大陸全土で活躍する冒険者たち。
でも冒険者の評価は微妙。
ダンジョン管理は基本的に騎士団が計画的にやっていて冒険者はおまけ。
モンスター退治して魔石を集める人達ってのが一般的な評価みたい。
ルービアス大陸は、もう全ての土地が一度は調査されている。
未知の土地なんて無い。
冒険者の冒険は、数百年前に調査したけど今どんなモンスターが生息してるか調査する、とか、人間にとって価値のある素材を見つける、ってもの。
前世でも新種の昆虫や植物を探す学者さんはいた。バラエティ番組で見た。
でも冒険者は専門知識なんてなく「なんか見つければ報奨金が貰える。よくわかんねぇけど、取り敢えず持って帰るぜ!!」って感じで計画性のない人達。
う~ん、ギャンブラーみたい。
ちょっと不安だけど、噂話を集める程度なら十分でしょ。
情報は大事って聞くし、何が役に立つかなんてわからないよね。
お仕事も一区切りついたので、私は雲を眺めながらグリゼルと一緒にアイスを食べる。
「アイス美味しいね~」
「流石ルクレーシャ様です」
グリゼルは流石って言ってくれるけど、アイスを作ったのはグリゼルだ。
前世の市販の牛乳は色々加工されてたけど、この世界にはそんなのない。
ミルクと卵とお砂糖を混ぜて冷やすだけで濃厚なミルクアイスが出来る。
この世界、焼き菓子はあるけどアイスはなかったみたいでグリゼルはとても感動してる。
私の食事は基本グリゼルが作ってくれる。毒とか怖いしね。
そんな有能メイド、グリゼルさんが言う。
「そろそろです」
「やっちゃって」
グリゼルはお空に浮かぶ雲を指差して、地面の方にぐっと腕を下げる。
すると雷が落ちて、貴族街の辺りで煙が上がった。
「凄いねグリゼル」
「いえ、ルクレーシャ様の知識があればこそです」
そう、私はいつもの如くうろ覚えの知識をグリゼルに授けて、新しい魔法を覚えてもらった。
低気圧とか高気圧とかそんな感じの知識で雲を集め、静電気やプラスとマイナスがあるって知識で雷を落とせるかなって。
空を飛んだ時にグリゼルは魔力量を気にしていた。
だから、魔力を出来るだけ使わずに強い魔法が使えればって思ったのだ!
そんな知識で成功した落雷魔法は、貴族街の屋敷を20邸ほど焼き払った。
ちょっと火事になって、ライナスさんが貴族街の衛兵と必死に消火作業を頑張っていた。
ライナスさんは近衛騎士の隊長で貴族街は管轄外なのに・・・、仕事中毒かな?
何百人か死んだみたいだけど・・・、あれだよね。落雷ってのは自然現象、天罰だよ!恨むなら神を恨んでね。
謀略女王の改革は多岐にわたる―――。
能力があれば身分低くとも重用し――他国の政策も有用であれば取り入れ――軍組織の土台を作る―――。
だが最も驚くべき事は――当時のルービアス大陸には情報戦の概念がないにも拘わらず、情報を暗号化し、評価が低かった冒険者に目をつけた事である―――。
この先見性こそが彼女の大陸支配を盤石にしたと言っても過言ではない―――。




