008, 1-07 食糧支援
前回のあらすじ
童貞卒業、出来るといいね
村が出来て10年。未だに食糧支援がある。
それを聞いた時に俺は思った「ずいぶん怠けた村である」と。
しかし、家の手伝いをしていて気づいた。忙しい。
俺は基本的に草をちぎっているだけだったが、畑は広大だった。
なんだってこんなに広いのか。漫画なんかの農村描画では、畑はもっと小ぢんまりとしていたのに。
だがよく考えてみれば、人は毎日食事をするわけで、そこで消費する食料とは膨大だ。
しかも、家で育てているのは野菜だけ。というか、この村で育てているのは野菜だけだった。
小麦や米などの穀物や加工された動物の肉、果物、塩など人が生きていく上で必要なものは、食糧支援として4ヶ月に一度ぐらいの頻度で運ばれてきた。
そうして、食糧支援でやってくる四十がらみのハゲオヤジは、収穫物の3分の2を奪っていく。
食糧支援なのにまるで強盗だ。
しかし、これはハゲオヤジが野菜大好きっ子、というわけではなく、他の6つの開拓村へ食糧支援として持っていくのである。
そして、塩など村で取れない物は開拓村を作った支援者が補うという。この地域の領主様だ。貴族かな。
6つある開拓村では、それぞれ育てているものが違うそうだ。
なんでそんな面倒くさいことを。そもそもなんで6つに分けたのか。
村人Aもハゲオヤジも理由は知らなかったが、この村の家と家の間隔や人口に対しての村の規模を考えれば、領主様の最終的な思惑は、開拓を進め生産地と人口を増やし、一つの大きな村、一大食料生産地域にでもするつもりなのかもしれない。
ずいぶんと壮大な計画だな。
後はまぁ、土壌などを見て地域ごとに育てるものを決めたとか、作るものに専門性をもたせて効率化を図るとか、なにかが起こったときのリスクの分散とか、考えてみると結構色んな理由が想像できた。実際、病気で村の大人全員死んだしな。
ハゲオヤジは行商人も兼ねているらしく、村で余った野菜や、内職などで作った細工や織物を買い取ってくれる。
その金で農具や調理器具、食器などを売ってもらう。
農具も支援してくれればいいのに。
ケチだな領主様。
しかし、これには事情があるようで、村の男達が一年に一度ぐらい農地開拓する。それを領主様に売る。
そう、開拓村の畑の権利は全て領主様が持っているのである。
村人にお金を貯められると畑を売ってもらえなくなる。必要な農具などを買い与えないのはそのためだ。
ずるいな領主様。
そして、税金は取らない。「ハゲオヤジが実質徴税官じゃねぇか」と思ったが名目は食糧支援。
苦労してる他の開拓村へ食料を無償で運んであげますよ。ついでに他の村からこんなに支援が。やっぱり世の中、助け合いですね。領主様も塩とかくれました。みんな頑張りましょう!
こんな感じで野菜を奪っていくのだ。
俺の両親など『最近はやっと安定して収穫できる。この分なら恩ある領主様に税金を払える日も近い』などと喜んでいる始末だ。
詐欺だな領主様。
最初こそ怠けた村だと思ったが、開拓村の事情を考えると、ケチでずるい詐欺師の領主に騙されている可哀想な村になってしまった・・・。不思議だ!
物語に出てくる悪徳領主は、圧政を敷いて村人を飢え苦しませるものだが、現実はうまく騙して搾取するようだ。税を払うことに喜びまで感じさせている。
愛社精神を語り、サービス残業に喜びを感じさせる、やり手のブラック経営者のような手腕だ。
とはいえ、そんな悪徳領主がよこす食糧支援のハゲオヤジが、俺を含めた生き残った子供たちの生命線。
前回の食糧支援は2ヶ月ほど前だったので、あと2ヶ月もすればハゲオヤジがやってくる。救助を求めるならそこだろう。
ハゲオヤジが救いだ。
ちなみに、ハゲオヤジは数人の護衛と馬に乗ってくる。
馬車ではない。異世界小説定番の魔法の袋を持っているのだ。
この世界の収納魔法は、生き物を入れたり、時間を停止して食品を保存することは出来ない。
だが、この魔法の袋は容量によって値段が変わるらしく、ハゲオヤジが持っている袋はかなりの量が入る。
すごいぞハゲオヤジ!
朝起きて、子供たちを起こす。それぞれに仕事を割り振る。
スープを温め、みんなで食べる。家の掃除をしておくように言う。
昨日、脱いだ服を持って広場まで行く。やはり死体は燃え残っていた。
流石に骨まで燃やすとはいかないだろうが、肉ぐらいは全部燃やしたい。
服と獣油を撒いて火を付ける。
俺は家に帰る道すがら子供たちと、どうコミュニケーションを取るか考える。
2ヶ月は結構長い。石でも投げるか?俺は熱中できそうだが他の子供はな。
ここはやはり、異世界転生者という俺の長所を生かして、異世界の遊びを披露するか。
異世界の遊び俺楽しぃ!である。
別に俺は楽しくないか。
大人になって、子供の頃やった鬼ごっこや缶蹴りをすると意外と楽しい、という話を聞いたことがある。
でもそれは、童心に帰り思い出に浸るのが楽しいだけだろう。
流石に、いい大人が毎日、鬼ごっこで遊んで「鬼ごっこ楽しー」とはならないはずだ。
少なくとも俺が楽しめるとは思えない。
しかし、子供たちとの関係改善は重要事項だ。頑張るしかない。
そんな事を考えていると、人の声が聞こえた。大人の声だ。
俺は声の方向に走る。
武装した男が大声で呼びかけている。
「誰かいないかー。いるなら返事をしろー」
俺はその男に向かって叫んだ。
「死にたくないなら出ていけ!」