068, 0-36 幕間・生意気男子の勝利
・デュークの勝利
前回のあらすじ
ジョニーは死んでしまった
「我こそは魔王ジョニー!我が呼び声に応えよ小鬼共・・・然すれば世界の半分をやろう!!」
ジョニーがゴブリンを呼ぶと、10匹のゴブリンが洞窟から出てきた。
ジョニーはゴブリンを倒して、また洞窟へ向かう。
「僕の名は勇者ジョニー!世界に蔓延る悪を討つ者・・・いざ、尋常に勝負っ!!」
出てきたゴブリンをジョニーは倒す。
「光と闇を併せ持つ者・・・私は超越者ジョニー!さぁ、異世界人を召喚する儀式の贄となれ!!」
ジョニーは3匹のゴブリンだけ残して倒した。
1匹のゴブリンを縛り、2匹のゴブリンをアデラの元に連れて行く。
ゴブリンはナイフを持ったままなのに、ジョニーに逆らわない。
「どう倒すか考えているか?」
「大丈夫」
ジョニーはゴブリンたちに言った。
「お前達の子供は預かった・・・。返してほしければ目の前の女を殺せ。出来なければ・・・わかるな」
ジョニーが離れると、ゴブリンたちはアデラに向かって走り出した。
アデラはナイフを投げて、木剣を突き出した。
アデラはまるでジョニーみたいに、2匹のゴブリン倒してしまった。
「悪くない動きだ。ダンジョンの低級階層ぐらいなら問題ないな。次はお前だ」
そう言ってジョニーは、ゴブリンを連れてくる。
(ゴブリンは目を突けば倒せる・・・。大丈夫だ・・・。ちゃんと訓練したんだ・・・)
「ゴブリンさ~ん、最近あいつ生意気なんですよぉ。ちょっとしめちゃってくれません?」
ジョニーがそう言うと、ゴブリンは「ゴブゴブ」と言いながら向かってきた。
俺は木剣でゴブリンの目を狙って突く。その突きは、ちゃんとゴブリンの目に刺さって、ゴブリンは死んだ。
「や、やった。俺も倒せた・・・」
「やったねデューク」
アデラも喜んでくれる。
ジョニーが倒れたゴブリンを見ながら言う。
「これでやっと面倒も終わりだな」
「終わり?」
「ああ・・・、ゴブリンを倒せたからな。後は、仲間と協力して頑張れ」
「そうか・・・これで俺たちも、新人じゃなくなるのか・・・」
「いや、まだ新人だぞ」
「え?でもゴブリンを倒せたし・・・」
「なにか勘違いしているみたいだが・・・ゴブリンは弱いモンスターだぞ」
「よ、弱いモンスター?だってこんなに強いのに」
「素人がちょっと訓練して木剣で倒せる程度のモンスターだ。弱いだろ」
「そう言われると弱い気がするけど・・・」
「本にも載っているが・・・まぁ、いい。実際に見るほうが早い。魔石やナイフを回収して洞窟を見たら、ダンジョンに行く。ゴブリンは弱いとすぐに分かる」
ゴブリンを弱いと言うジョニーと一緒にダンジョンに入る。
(ジョニーはゴブリンを10匹相手にしてもすぐに倒しちゃうけど、それはジョニーが強いだけで、ゴブリンが弱いわけじゃないんじゃ・・・)
「広い」とアデラが驚いた声で言う。
(なんか変な感じだな)
階段を降りた長さと天井の高さが違う気がする。
「ダンジョンについて深く考えるな。通路を進めば部屋がある。大体そこにモンスターが居るが・・・通路にいる事もあるから油断するな。今から行くのは中級階層だが、お前達だけでは絶対に行くなよ」
「どんな場所なんだ?」
「出てくるモンスターが違うだけだ」
部屋にいたブヨブヨしたモンスターをジョニーは蹴飛ばし進む。
俺たちはその後を付いて、階段を何度か降りる。
そして広い部屋に着くと・・・そこにはゴブリンより、ずっと大きいモンスターがいた。
そのモンスターを見てジョニーは言う。
「後ろを向いてるな。運がいい」
3匹のモンスターが振り返って、2匹のモンスターが倒れた。
「え?!も、もう終わりか?どうやって・・・」
「振り返るタイミングに合わせてナイフを投げただけだ。目に刺されば死ぬ。ゴブリンと同じだな。3匹倒そうと思えば倒せたが、あっさり倒してしまうと何の為に連れて来たかわからんからな・・・。お前達は此処で見ていろ」
ジョニーがモンスターに向かって歩いていく。
モンスターは、倒れた仲間を見て、ジョニーを見て、「グゥアアァァアアァァアア」と大きな声で叫んだ。
(こ、怖い)
モンスターがジョニーを殴ろうと腕を振り回して、ブンッという音がする。
でもジョニーは、その攻撃を避けてモンスターを剣で斬りつける。
何度も何度もそれを繰り返す。
「ジョニーすごい」とアデラの驚く声が聞こえる。
(ほ、本当にすごい。なんで避けられるんだろう)
速かったモンスターの動きはだんだん遅くなっていって、ジョニーが目を刺して、終わった。
結局モンスターの攻撃は、ジョニーに一発も当たらなかった。
「ちょっと来て体を触ってみろ」
アデラがジョニーの側まで行って、ジョニーの体を触る。
「俺の体ではなくモンスターの体を触れ」
「ご、ごめんなさい」
「いや、いい。今のは言い方が悪かった。モンスターがどんな体なのか触って確認してみろ。魔石回収もついでにしてみろ。場所はゴブリンと同じだ」
俺は、モンスターに近づいて体を触ってみる。
(硬い)
魔石を回収しようとナイフで刺しても、上手く刺さらない。
「このモンスターはオーガ、新人殺しと呼ばれているモンスターだ。ゴブリンを簡単に倒せるようになった新人が、自分は強いと勘違いして中級階層に足を踏み入れ殺される。身体強化が使える普人より身体能力は高い。装備を整え、よく訓練して、経験のある仲間を見つけてから挑め。今のお前達じゃ絶対勝てないからな」
「そうか・・・これが、強いモンスターなのか・・・」
「いや、オーガも弱いモンスターだぞ」
「え!?ジョニーそれはいくらなんでも・・・」
「そもそも、このダンジョンに出てくるモンスターは弱い。強いモンスターは、騎士団が相手にする大型モンスターとかだな。俺も大型モンスターは倒せない」
「そ、そうなんだ・・・」
「まぁ、そう落ち込むな。ゴブリンを倒せるだけで収入は安定する。だが、油断はするなよ。ゴブリンに刺されて死ぬ冒険者もいるからな。命は一つしか無いんだ。大事にしろよ」
「わかった」
頑張って魔石を回収すると、ジョニーは魔石をくれると言う。
「いいのかジョニー?」
「ギルドに報告する時はちゃんと貰ったと言え。オーガを倒したと報告すると、冒険者ランクが一気に上がってしまうからな。依頼を受けるなら自分で考えないと駄目だが、冒険者ランクはギルマスが考えて設定した目安だ。新人の頃は当てにするのも悪くない。じゃあ、帰るぞ」
街に戻るとジョニーは「訓練を頑張れ。じゃあな」と言って帰ろうとする。
「ジョニー!えっと・・・」
俺は拳を突き出して言う。
「俺たち」
ジョニーは俺の拳をじっと見て・・・言った。
「師匠と弟子だな」
「そ、そうか・・・。そうだよな」
ジョニーと友達になれたかと思ったけど、訓練してもらったり、御飯をおごってもらったり、師匠と弟子だ。
師匠のジョニーにアデラが言う。
「あのね、ジョニー」
「なんだ」
「ずっと・・・ずっと、言いたかった事があるの・・・」
「言ってみろ」
「す・・・」
「す?」
「スープ美味しかった」
「そうだな、美味しかったな。まさか無料で食えるとはな・・・」
「そうじゃなくて・・・その、村でジョニーが作ってくれたスープ・・・美味しかったの。あの時、嫌いって言っちゃったけど・・・、本当は嫌いじゃないの。わたし、ジョニーのこと嫌いじゃないよ」
「そうか。まぁ俺も、あの時は焦っていたからな。お互い様だ、気にするな」
「う、うん・・・。ジョニー、また会える?」
「冒険者ギルドで会えるだろ。お互い、冒険者だからな」
「そうだね。・・・またね、ジョニー」
「ああ、またな」
ジョニーの後ろ姿をアデラはずっと見つめていた。
俺はアデラに恋をしている。
アデラはジョニーに恋をしていた。




