064, 0-32 幕間・生意気男子の反省
・デュークの反省
前回のあらすじ
グサッと殺してくれた
「えっと・・・どうしたんだジョニー」
「その革鎧はどうした」
「買ったんだ。安かったから中古で」
「そうか・・・まぁ、いい。いずれ必要になるし、安かったのなら、まぁいい。そのブーツはどうした」
アデラがちょっと落ち込んだ声で聞く。
「モンスターに噛まれたら病気になるかもしれないから、先にブーツを買おうって考えたの。駄目だった?」
「いや、考えて買ったならいい。その木剣はどうした」
「剣の訓練に必要だろ。だから買ったんだ」
「木の棒で十分だ。武器屋で買ったのか?結構高かっただろ」
「いや、鍛冶屋で友達から買ったんだ。クリフって奴だけど覚えてるか?ジョニーとはあんまり仲が良くなかったけど、いい奴でさ、ナイフも買い取って―――」
「ナイフを鍛冶屋で売ったのか?」
「え?!そうだけど・・・なにかまずかったのか?」
「武器屋なら30本のナイフは金貨1枚になるはずだ。鍛冶屋にいくらで売った」
「えっと・・・お金じゃなくてさ・・・ナイフを選んでもらって、鞘とかナイフを長く使うための道具とかと交換したんだ」
「中古のナイフは一本銀貨2枚で買えるぞ。手入れの道具も銀貨1枚ぐらいだ。全部合わせても銀貨5枚だな・・・。28本売って、鞘だけ買えばもっと得だな。武器屋も細かく計算してるわけじゃない。最初に28本売っても金貨1枚になっただろう・・・」
「じゃあ俺たち騙されたのか!?」
「そうじゃない。鍛冶屋は溶かして終わりだ。武器屋は手入れして売る。鍛冶屋と武器屋の考え方の違いだ。鍛冶屋はナイフを大事にしてもらいたかったんだろう。手入れの方法も教えてくれたんじゃないか?まぁ、手入れの方法を聞けたと考えるべきか。聞けば普通に教えてくれるが、情報料だと考えれば妥当だ。他に何を買った」
「道具屋で一番売れてる痛み止めを―――」
「い、痛み止めの水薬を買ったのか?」
「そうだけど・・・これも駄目なのか?一番売れてる商品って聞いたんだけど・・・」
「痛み止めの水薬は、怪我をした時、自己回復魔法を使えるように、痛みで集中が乱れないように、という理由で買う。保存期間は一月だから、まぁ、一番売れている商品ではあるだろうな・・・。お前ら魔法は使えるのか?」
「使えない・・・」
「そうか、じゃあ痛みを止めるだけだな。治療効果はない。お前ら、金はいくら残ってる。まさか全部使ったなんて・・・」
「実は・・・全部使っちゃったんだ・・・。でも!宿代はちゃんと払ったから大丈夫だ。今週の分、金貨4枚」
「金貨4枚?まさか・・・、一人部屋に別々で泊まったのか?二人部屋があっただろう・・・」
「えっと・・・男と女は別々の部屋で・・・」
「ずっと一緒に行動する、信頼を置ける仲間といて、新人が別々の部屋?ありえん。あの宿屋は、安くて二人部屋があるから勧めたんだぞ・・・。お前らは金に余裕があるのか?」
「実は・・・、俺たち最近・・・御飯を食べてないんだ・・・。我慢して・・・」
「冒険者が・・・武器や防具を買うのは・・・強くなるためだ・・・。素手より、武器持ってたほうが強いから買うんだ・・・。空腹で戦えると、思うか・・・?」
「思わない・・・」
「だろうな。栄養が足りないと筋肉もつかないだろう。わざわざ買った木剣を・・・ちゃんと振れているのか?」
「最近腕が重くて・・・」
「そうか・・・、もういい・・・、ここまでは初めてだ。今までいろんな新人がいたが・・・ここまでは初めてだ。飯を奢ってやる。とりあえず何か食え。死ぬぞ」
「え?でも・・・」
「新人は遠慮なんてする余裕はない・・・とにかくなにか食わないと駄目だ。座れ」
俺たちが座ると、給仕の女性がすぐに来てくれた。
「よっ!奇人の~。あんたが誰かと飯食うなんて珍しいね」
「今、面倒を見ている新人です。パンを6つ、スープを3杯、果物と水もお願いします。茹でたザリガニと、魚を使った料理があったら、それもお願いします。支払いはこれで」
「相変わらずよく食うねあんた」
「本当は一日3食、食べたいぐらいです」
「それはちょっと食いすぎだろ。太っちまうよ」
そう言って、給仕の女性は酒場のカウンターの奥にいたオジサンと話すと、すぐに料理を持ってきてくれた。
でも、ジョニーのスープだけこぼしてしまった。
「悪いねジョニー」
「いえ、大丈夫ですよ。そちらは、火傷していませんか?」
「私は大丈夫さ」
「そうですか。お手数ですが、もう一度運んでもらえますか?」
ジョニーがそう言ってお金を渡すと、給仕の女性は嬉しそうにスープを持って来て、またこぼした。
ジョニーは給仕の女性を心配する。
「体調が悪いんですか?」
「いや、たまたま失敗が続いただけさ。悪いね」
そして、ジョニーがまたお金を払う。
「ジョニー、あの人わざとこぼしてるんじゃないか?」
「そうかも知れないが、人は誰でも失敗をする。お前達も失敗をしただろう。安易に疑うのは悪い事だ・・・」
「そ、そうか。そうだよな」
でも、やっぱりまたスープをこぼす。
「本当に大丈夫ですか?もうスープはいいですから休んで下さい」
「いや、今度こそ本当に大丈夫さ。ちゃんと持ってくるよ」
そうして、やっとスープをこぼさずに置いて、別のテーブルに行った。
別のテーブルでは、お客さんを殴っていた。
(あの人なんなんだろう・・・)
「よし、食うか」
ジョニーはそう言うと、孤児院でもやっていた、手を合わせる儀式をする。
手を合わせる儀式は食前の祈り、っていうものらしい。ジョニーはどんな神様に祈ってるんだろう。
少し気になるけど、なんだか怖くて聞けない。
そんな事を考えているとアデラが言った。
「お、おいしい」
「ここの飯は美味いんだ。酒場の親父はかなり適当に作っているらしいんだが・・・、とにかく美味い。普通の飯屋より高いからお前らは利用しないほうがいい」
「うん」
俺もスープを飲んでみる。
(凄く美味しい)
お腹が空いていた俺がスープを夢中で食べていると、ジョニーがアデラの胸を触った。
「ジョ、ジョニー!!何してるんだよ!!!」
「これは魔力感知だ」
「魔力感知って!!!魔力感知?それって確か・・・」
「魔法を使えるようにしただけだ。魔力を感じるか?」
ジョニーが聞くとアデラは「感じる・・・」と呟いた。
「お前にもしてやる」
そう言って、ジョニーが俺の胸も触る。
すると、俺の中に何かがあるとわかる。
「それが魔力だ。これで痛み止めは無駄にならないな。飯を食い終わったら、魔法について教えてやる」
『安易に疑うのは悪い事だ・・・』とさっきジョニーが言っていたのに、俺は親切なジョニーが、やましい気持ちでアデラの胸を触ったと疑ってしまった。
(俺って最低だな・・・)
俺は、ジョニーを疑ってしまったことを反省しながら御飯を食べた。




