058, 3-12 間違った選択
前回のあらすじ
そうだ、娼館へ行こう
新人の面倒も終わり、金を貯めるため宿屋を引き払い、借家を探す。
不動産屋もあるが、仲介料を取られたくない。
この世界の人間は基本的に善良なので、冒険者ギルド付近の民家で、礼儀正しく聞き込みをすると、すぐに見つかった。
古い建物で上水は通っていないが、魔法具や家具がついた借家、一月金貨3枚。
俺が泊まっている宿屋は、一日銀貨5枚だ。宿屋の母娘との別れは辛いが、ここは我慢する。
ここまで家賃が安い理由は、魔石が付いていないからだ。魔石費用がかさむので、上水がない家は人気がない。
しかし、俺は冒険者だ。魔石など自分で取れる。
借家で風呂に入る俺。
森でヘチマに似た植物を見つけたので、それをタワシにして体を洗う。
いい気分だが、なんか視線を感じる。
換気用の窓を見るが、誰もいない・・・。
俺が住み始めた借家の近くで、度々、毒舌プリーストを見かける。
宿屋にいる時は隣の部屋だし、よく会うのも仕方ないと我慢していたが、やはり、ストーカーか・・・。
流石に風呂を覗いたりしないと思うが、念の為にカーテンを付けておく。
金を貯める日々が続き、金貨5000枚貯まった頃、俺は、16歳の誕生日を迎える。
「チュンチュンチュン」
小鳥が鳴いている。
朝食の卵を割ると黄身が2つ、なんだか縁起がいい。
食事も、節約のために自炊している。
朝食を食べながら、今日の予定を考える。
そして俺の妄想が始まる。
パターンA
「お客さん、朝から娼館に来るなんて・・・もしかして、こういうの初めて?」
「はい・・・その・・・、俺・・・その・・・」
「ふふ、そんな緊張しなくても、全部お姉さんに任せなさい♥」
パターンB
「お客さん、その格好なら・・・冒険者かしら?」
「ああ・・・、今日はダンジョンで、宝箱を見つけたんでな。娼館に来ることにした」
「ふふ、それはおめでとう。じゃあ今日は、たっぷりサービス―――あっ、駄目よそんな強引に」
「今日は、そういう気分なんだ・・・駄目か?」
「もうっ、お客さんだけ・・・特別よ♥」
う~ん、Bだな。Aは、おねショタっぽい。俺はもう成人、大人だ。封印されし闇も静かだ。
今日は、なんだか、いい日だし、宝箱も見つかるだろう。
童貞卒業は、「宵越しの金は持たねぇぜ」と、格好良く決めたい。実際は貯金しているわけだが・・・。
冒険の準備を整え、借家を出る。
昨日の雨が嘘のように晴れ、太陽の光が眩しい。
道を歩けば輝きが見える、銀貨が落ちていた。
今日はいい日だ。
いつもと同じ道、同じ景色なのに世界が輝いて見える。
これが幸せというものか。
直接ダンジョンに行ってもいいが、何かイベントがあるかもしれない。
そんな思いで冒険者ギルドを目指す。
しかし、このときの俺はまだ知る由もなかった。
冒険者ギルドへ行く選択は大きな間違いであり、娼館へ行けない日々を過ごす事になるなんて・・・。




