052, 3-06 ストーカーと宿屋の母娘
前回のあらすじ
ゴブゴブ?
毒を吐く少女を無視して、盾ファットに魔石の取り方を聞く。本でも読んだが、実際にやるのとは違うからな。
3人で魔石を取っている間も毒舌プリーストはずっと毒を吐いてくる。当然無視する。
魔石を取り終え、ナイフを回収する。これも売れる。自分で使ってもいいが、サイズとか揃えたいしな。
盾ファットとの交渉の結果、ナイフは全部貰っていい事になったので、木箱から布を取り出し、ナイフを包み、バッグに入れる。
魔石は、盾ファットが魔法の袋に入れて持ってくれると言うので任せる。魔法の袋、便利だな。
ゴブリンの死体は放っておけば消える。そういう生き物だ。必要な物を回収し終えたので、ダンジョンまで戻り、辻馬車で街に戻る。その間もずっと毒を吐く少女。
冒険者ギルドの受付の列に並ぶ。コネ採用のギャルは、スタンプ押すことしか出来ないからな。
全員の冒険者証と依頼票を重ねて一緒に提出する。スタンプを押してもらい返ってきた冒険者証は、FランクからEランクになっていた。
Cランクまでは依頼を達成していけば勝手に上がっていく。
その後、盾ファットが魔石を金貨に変えてもらう。30個の魔石が金貨10枚になった。
ゴブリンの魔石は1個、金貨1枚で市場に出回っているので、搾取が酷い。
別に何か加工するでもない。ギルドが引き取り、それを商人に流して、市場に出回るだけである。ボロ儲けだ。ブラック企業だろうか。
金貨10枚を4人で分ける。俺がゴブリンを倒したので、俺が4枚、3人が2枚ずつ、という事になった。
毒舌プリーストはそれにも不満な様子で、魔石回収すら手伝わなかったくせにゴネている。無視して解散する。
今日、泊まるための宿屋を探す俺。
何故か後ろを付いて来る毒舌プリースト。
ストーカーだろうか・・・。
適当な宿屋に入ると、明るいベージュ髪をおさげにした、エプロンドレスの女性が二人いる。見た感じ、母娘だ。
「すみません。宿に泊まるのは初めてなんですが、料金やサービスを説明してもらえますか?」
「はい、いいですよ。一泊銀貨5枚です。荷物の預かりサービスもあります。部屋にはお風呂も付いていますから、自由に入って下さい。洗濯も無料です。部屋に洗濯籠があるので、それに入れて持ってきて下さい。食事は別料金です。一階の食堂で食べて下さい。何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です。とりあえず一泊お願いできますか」
「はい、それでは二階の角部屋へどうぞ。これが鍵になります」
金を払って鍵を受け取り二階に上がる。毒舌プリーストも何故か付いてくる。ここまで来ると怖い。
(まさか、部屋まで付いてくる気か?!)
流石に部屋の中にまでは付いて来ないようで、角部屋手前の部屋で止まった毒舌プリーストは「じゃあ後でね」と言い、部屋に入って行った。
(後ってなんだ?)
部屋に入り、風呂にお湯を張る。魔法具で全自動だ。
洗面所とかは魔法具で水を出すが、風呂ぐらい大量の水を使う時は、川の水を利用した上水を浄化し、温めている。
孤児院に上水は通っていなかった。古い建物は上水が通っていない。
魔法具には、洗濯の魔法具なんて物もある。洗剤いらずで魔法の力で全自動洗濯乾燥してくれる。・・・村との格差がひどい。正直、前世の家電製品を上回る性能の物まである。
魔力感知は金貨5枚、魔法具は約金貨10枚に魔石費用がかかる。しかし、多くの人は魔法具を買う。
人間が洗濯の魔法を再現しようと思えば、消える水を生み出し、水流操作で洗濯物を回転させる、ぐらいは出来なければならない。多くの魔力が必要になる。魔法を覚える練習も必要だ。
俺も、身体強化を維持するのに少し苦労した。
最初は血管を魔力が流れる、というありがちなイメージで挑戦したが、そもそも俺は、血管など常日頃から意識していない。
前世の教科書とかを思い出してみるも上手くいかず、オーラを体に纏う、という単純なイメージで成功した。その後、魔力を少しずつ上手に操作出来るようになり、6時間の身体強化だ。
火球や光球の魔法も1日ぐらい掛かった。
しかしこれは、この世界の普人からすれば異常な速度だ。
当然だが、この世界に映像作品など無い。魔法はイメージだが、そのイメージの元となる知識をほとんどの人間は持っていない。
魔法書はあるが全部文字だ。魔法の規模が大きくなるほどイメージは難しくなるので、弟子になり教えを請う。魔法を実際に見せてもらうだけでかなり違う。
前世の知識がある俺でも苦労するぐらいだ。この世界の普人にちょっと前世の知識を教えたところで、魔法をすぐさま使える、なんて事にはならない。そんなチートキャラはいない。
エルフは、生まれた頃から魔力があり、魔力操作も得意で、魔法言語のアシストがあるので、魔法を覚えるのも早い。
ドワーフは、魔石の魔力には干渉出来るらしいが、魔法が凄いと聞いた事はない。
獣人は、種族ごとにまるで違う。
魔石の魔力量は人間より多く、洗濯の魔法具でも魔石1個で数年持つので、魔石費用は大した事無い。
それに、魔法具は滅多に壊れない。家電製品ではないのだ。部品が消耗するなんて事はない。
魔石から人間が直接魔力を取り出して利用すると、魔力変換効率の問題で大して使えないのだが、魔法具はその辺りを長年研究しているらしく、かなり燃費が良くなっている。
だから、魔力感知よりも、魔法具を買う普人が多い。仕事で使うなら魔力感知する、というのが一般的だ。
お風呂に入る俺。
疲れを取りながら思い出す、宿屋の母娘。
そして俺の妄想が始まる。
部屋に入ってきた宿屋の女将が言う。
「ジョニーさん、洗濯物はありますか?」
「女将さん、洗濯物ぐらい自分で運びますよ」
「そうですよね・・・でも、何か私に出来る事はありませんか?」
「出来る事・・・ですか?それなら、冒険者として厳しい日々を送っているので、マッサージしてもらえますか?」
「ええ、私で良ければ喜んで」
俺が服を脱ぐと、部屋の扉を叩く音が。扉を開ければそこには看板娘。
「ちょっとお母さん!年甲斐もなく何やってるの!!」
「何って・・・私はただ、お客さまにサービスを・・・」
「普段そんな事しないじゃない!」
「彼は特別よ」
「彼って何よ彼って!ジョニーは私のなんだから!!」
「もう・・・仕方ない娘ね。じゃあ、一緒にマッサージしましょ」
俺をベッドに導く母娘。
「「さぁ、ベッドに寝て下さい」」
しかし、また扉を叩く音が。扉を開けるとそこにはエロシスターがっ!!
「女王様と―――」
(くそっ、静まれ俺の闇よ!)
まさか、封印されし闇の侵蝕が・・・。これでは妄想も出来ない。
落ち込みながら風呂から上がり、ズボンを履いていると、扉を叩く音が。
(まさかっ、封印されし闇が現実にも!!)
扉を開けるとそこには毒舌プリーストが・・・、何の用だ?
「き、着替え終わってからドア開けなさいよ馬鹿!」
いきなり毒を吐いてくる毒舌プリースト。しかし、チラチラこちらを見ている。変態か!
服を着て、洗濯物を出し、食堂で注文する。
何故か一緒の席に着く毒舌プリースト。
飯を食っている間、毒舌プリーストが何か言っているが、どうせ毒舌だろうと適当に相槌を打つ。
食事を終え部屋に戻り眠る。
(冒険者として、十分やっていけそうだな―――)
「チュンチュンチュン」
小鳥の鳴き声が聞こえる。いい気分だ。
身だしなみを整え出掛ける準備をしていると、扉を叩く音が。
扉を開けると毒舌プリーストがいた。
「早く準備しなさいよ。一緒にお出かけでしょ」
(一体何の話だ!)




