050, 3-04 魔物研究者の男
前回のあらすじ
売れっ子ホストの業務日誌
街門の前で御者と話す盾ファット。
辻馬車は銀貨1枚が基本だ。街と街の距離が長いと中継村があり、中継村の分だけ銀貨が加算される。村だが、宿場町みたいなもんだろう。
俺はあまり金を持っていない。ダンジョンまでは近いので、出来れば歩いて行きたい。
盾ファットにそれを伝えると「馬車賃ぐらい俺が出してやるよ」と、気前のいい言葉を頂く。この世界の人間は、基本いい人達だ。
ダンジョンへの馬車は定期便で、利用するのは冒険者ばかりなので、皆戦える。
馬車に乗り、街を出る前に、身体強化を使う。
俺は、身体強化が常に使える俺強えぇ!を目指しているのだが、今はまだ6時間ぐらいしか持たない。
イケメン師匠は3時間ぐらいで、他の衛兵や冒険者もそれぐらいだと、イケメン師匠は言っていた。
これは集中力の問題なので、少し気分転換すればすぐに使える。
常に使えてもあまり意味はないのだが、戦闘時に身体強化が途切れると致命的だ。
戦闘時とそれ以外では、集中力もまた変わってくるので、持続時間も短くなる。
やはり、起きている間は常に使える、ぐらいを目指したい。
馬車での移動中に、それぞれの戦い方を聞く。
ツルペタ少女はプリーストで、回復魔法や支援魔法を使うと言う。身体強化も使え、自己防衛も問題ない。魔法杖で魔法の効果を上げられると自慢された。
俺は適当に「すごいな」と相づちを打っておいた。
のっぽソードと盾ファットは大型モンスターを倒して、Aランク冒険者になるのが夢だと言う。
Aランク冒険者は、現在の冒険者が到達できる最高ランクであり、上級冒険者だ。
Aランク昇格条件は街それぞれで違うが、カナリッジでは大型モンスターの討伐が条件だ。
ミスリル製のロングソードを持った複数の人間と、大盾を持った複数の人間で倒す。攻撃魔法使いがいると楽だが、普人にはあまりいないからな。
今はまだ、たった2人のパーティで、メンバー集めをしているとか。ミスリル製のロングソードすら持っていない。この街ではミスリス製の武器は一般に出回っていない。
別に、ランクが上がっても特に優遇など無いのだが、冒険者はそういう奴らだ。「大型モンスター倒してみたいぜ」とか考えて冒険者になったんだろう。
Sランク昇格条件はボスモンスターの討伐だが、人間がなんとか倒せる、弱いボスモンスターはもう全て討伐されているので、現在では到達出来ないランクだ。
『魔物研究者の俺が魔物図鑑を作っていたらSランク冒険者になってしまった件』という本の著者が最後のSランク冒険者。
400年ほど前の人物で、最初は「異世界転生者か?!」と思ったが、400年前はこんなタイトルの本が流行っていたらしい。
ボスモンスターの研究をしていたら、うまいこと弱点を見つけて倒した、特に戦闘能力が高かったわけではない普人の男だ。
魔物研究など誰もしていなかったのだが、この人物の影響で今は結構いるらしい。会ったこと無いが、騎士団には魔物研究の部門があるとか。
この男が書いた魔物図鑑は、一部の冒険者や騎士団の間でもかなり評価されており、俺も読み込んだ。
戦い方を話し終えた頃、ダンジョンが見えてきた。
ダンジョンは基本的に地下型で、地面にいきなり直径5メートルぐらいの穴があり、階段で地下に降りていく。
他にも神殿型とか、城型とかあるようだが、特に大きな建物ではない。地下型ダンジョンも、本当に地下にあるわけではない。
このダンジョンは、神力で空間を作り出していると神モドキは言っていた。
世界に影響を与えずに、空間をきれいに消すのが面倒くさいから、モンスター間引くために人間を作り出したと、ちゃんと片付けろよ・・・。
唯一の救いは、海底ダンジョンや天空ダンジョンなんてものがない事だ。そんな所にダンジョンがあったら、この世界の人間は対処できない。
海にいるモンスターや空を飛ぶモンスターは、魔力汚染の影響を動物や鳥、虫や魚が受けた変異型のモンスターであり、防御力は高くない。
だが、ただ空を飛ぶ、というだけで厄介で、街では街壁の上にある弩で撃ち落とせるが、村では対処できずに死人が出る。皆殺しにはされず、数人喰い殺されるだけだ。
開拓村には壁などなかったが、普通の村は壁で囲まれている。しかし、街壁ほど高くなく、強度も弱く、弩もない。
行商人などがモンスターに殺されるのも、飛行型モンスターによる被害が一番多い。
大型モンスターは、痕跡も目立つし、騎士団に討伐されるので、意外に被害は少ない。村の壁を壊してしまうので、見つけ次第討伐される。
動きが鈍い個体が多いので、全力で逃げれば逃げ切れる。
飛行型モンスターからは逃げられない。
飛行型のボスモンスターとか、大型モンスターがいたら、人間は全滅していただろう。
俺も、空を飛ぶモンスターへの攻撃手段はあまり持っていない。
攻撃魔法と投石ぐらいだ。攻撃魔法は魔力を消費するので使いたくない。ナイフ投げでも覚えようかと思っている。
人を連れ去る時に地面近くまで降りて来るので、カウンターで切りつけてもいいが、ミスると大怪我だ。
変異型なので魔石も小さい。あまり、戦いたくない。
馬車が止まったので降りる。
乗り合わせていた他の冒険者達はダンジョンに入って行き、御者は水薬を売り出した。
俺たちはダンジョンに行くわけではない。
ゴブリンは、ダンジョン近くの森のちょっと奥にある洞窟に定期的に現れる。
この森に名前はない。開拓村の近くの森にも名前はなかった。
この世界の人間は街中心に生きており、地図なんかも街道と街の位置が載っている。
特殊な素材が採れる森とかだと名前がついているが、この森は一般的な薬草程度で名前をつけるほどの価値はない。
街の人間が森と言えば、街の中にある人工林であり、冒険者や狩人が森と言えば、ダンジョン近くの森である。
街の建物はレンガ造りだが、このレンガも、魔法具で作り出して、魔法でくっつける。だから継ぎ目はなく、見た目はコンクリートの建物みたいだ。
森を切り開いて生活圏を広げたりもしないので、至る所に森がある。
家具や小物など木材製品のために伐採もするが、ルービアス大陸は温暖なので、暖を取るために森の木を取り尽くす、という事もない。
開拓村でも、冬の朝方「ちょっと寒いな」という時は、竈の前に机を運んで、しゃがんで朝飯を食べていた。暖炉とかはなかった。
幸せそうに身を寄せ合っていた両親を見ながら、俺は「行儀が悪いな」と思っていたが。
森の中には小型モンスターが結構いるので、気をつけなければならない。
まぁ、のっぽソードと盾ファットがいるので大丈夫だろう。




