040, 0-20 幕間・エロシスターの追憶
・リリスの追憶
前回のあらすじ
火付けのジョニー?
その日からジョニーの訓練が始まった。昔エリックがやっていた訓練と同じ内容だけど、エリックには師匠がいなかった。
エリックも昔を思い出したのか、訓練にかなり力をいれている。でもジョニーはいい子で我慢強くて、小さな子供なら投げ出してしまうような地道な訓練に文句も言わない。
エリックはある日、感心したのか衛兵が訓練で使う木剣を持ってきた。ジョニーには少し重いような気もするけど、聞いてみると魔法を使って中を削り穴を塞いだという。
衛兵はみんな魔法を使える。衛兵訓練が始まる前に、使えるようにしてもらえるとエリックが教えてくれた。
でも私が回復魔法を上手に使えるようになるのにも結構時間がかかったのに、エリックはそんなことまで出来るなんて。マザー・ウィニーも上手い人はすぐに使えると言っていたけれど・・・。
「随分器用なことが出来るのね」
「俺じゃないよ。衛兵の装備を管理するやつに頼んだんだ」
「そんなこと頼めるの?」
「まさかシスター、俺が備品をくすねてきたとでも思ったのかい?古くなったものを貰ってきたんだよ」
「別に疑ったりはしてないわよ。ただ魔力をそんな事に使ってくれるのかって思っただけよ」
「それなら大丈夫だ。地面に穴を掘るよりずっと楽だってさ」
こうしてエリックと話していると、なんだか昔に戻ったみたいに感じる。
すると、さっきまで木剣をゆっくり振っていたジョニーが近づいてきてエリックに質問する。
「この街の衛兵さんはみんなこんな訓練をするの?」
「俺の師匠はあそこにいるぞ」と答え図書室を指差すエリック。
『この本には世界の壊し方が書かれています。この本をあなたに貸してあげましょう』
神父様の言葉を思い出す。世界を壊すと言っていたエリックが、まさか子供に剣術を教えることになるだなんて・・・。
なんだかとても不思議で、でも幸せな気持ちで、私はエリックとジョニーの訓練を眺め続けた。
6歳のジョニーが文字をだいぶ覚えたので、数字と計算を教えることにした。
「凄いわジョニー!こんなに早く計算を覚えてしまうなんて」
「母さんに石を使って教わったんだ」
ジョニーの両親は教育熱心だったようで、信仰だけでなく計算も教えていたようだ。
「ジョニーはよく、お食事の前に祈っているでしょ。どんな神様を信仰してるの?」
「僕が信仰してるのはビブリチッタ様だよ。だって・・・シスターと出会わせてくれたから!」
ジョニーの食前の祈りは、信仰心からではなく両親の言いつけを守っているだけのようだ。
(明るく振る舞っているけれど・・・ジョニーは悲しみを乗り越えるために今も頑張っているのね・・・)
健気なジョニーはよく抱きついてきたり、私の膝枕でお昼寝をしたりする。そんなジョニーの頭を撫でながら、エリックと微笑み合った。
孤児院に小さな新しい子達が入ってきて、9歳になったクリフ達が文字を教わりに来た。やる気になってくれたみたい。
でもジョニーとクリフ達との間にはやっぱり溝があって、クリフ達の勉強中、ジョニーは私に会いに来なくなった。
(神父様は『時間が経てば他の子供達もジョニーのことは理解できる』と仰っていたけれど・・・)
そんな事を考えていると、大人しいアデラが私に尋ねてきた。
「死んじゃった人・・・遺体を燃やすのは街では普通の事なの?」
「ええ、そうよ」
「じゃあジョニーが・・・村で遺体を燃やしたのも・・・普通の事なの?」
「ええ、そうよ」
(神父様の仰っていた通り、アデラはジョニーを理解しようとしてるみたいね・・・やっぱり神父様は凄いな)
「じゃあ・・・森に向かって石を投げるのも普通の事なの?」
「石を投げる?それは普通かわからないけれど、誰かが石を投げていたなら、石を投げる理由があったんじゃないかしら」
「理由はどうすればわかるの?」
「投げていた人に理由を訊いてみればいいわ!」
私がそう言うと、アデラは押し黙ってしまった。
(アデラは大人しい子だし、距離のあるジョニーといきなりお話するのは無理よね)
「もし訊きにくいなら、相手の気持を考えてみるといいわ」
「ジョニーの石を投げる気持ち・・・」
そう小さく呟いたアデラは、部屋から出ていってしまった。
その日から、アデラは時折ジョニーを気にしている。
そんなアデラを見ていると、私がエリックを心配して訓練を覗いていた頃を思い出す。
(あの後少しずつ、エリックは皆と打ち解けたのよね)
アデラの様子から、数年後にはジョニーに友達が出来そうだなと安心した。
ある日、エリックが剣を持ってきてジョニーに言う。
「俺に一太刀いれることが出来たら卒業だ。その時は卒業の証に、この鋼の剣をやろう」
少し心配になって、ジョニーがお昼寝中、エリックと話をする。
「それも、古くなった装備なの?」
「いや、流石に鋼の剣は古くなったからって処分はしないよ。魔法を使えば新品同様になるし」
「じゃあ、その剣は衛兵さんが買ったの?本当にいいの衛兵さん?」
「ああ・・・ジョニーにやる気を出させてやりたいし、俺には家族もいないから金の使い道なんてないしな・・・」
少しだけ寂しそうに言うエリック。エリックが、こんなにも一人の子供にのめり込むのは初めてかもしれない。
剣を貰えると言われてから、ジョニーはエリックの思惑通り今まで以上にやる気になり、一年が経った。
でも、9歳のジョニーが22歳のエリックに一太刀いれるなんて、どう頑張っても無理な気がする。
そんな時、神父様の言葉を思い出す。
『ではエリックより強くしてあげましょう』
私はジョニーの背中に触れ魔力感知をしてみる。
「やっぱりジョニーはもう使えそうね」
ジョニーの中の魔力を少しだけ動かしてみれば、ジョニーも魔力に気づいたようだ。
「ジョニー、それが魔力よ。冒険者になるなら魔法が使えなきゃね」
ジョニーは頑張っているし、きっと神父様も許してくれるはず。
魔法を使えるようになったジョニーに、エリックが指導を始める。
魔法がうまく使えず、転んでしまったジョニーにエリックがお手本を見せていると、ジョニーが言った。
「なんか師匠の中の魔力がわかる気がする・・・これって魔力感知なの?」
「凄いわジョニー。それは間違いなく魔力感知よ。ジョニーも私と同じ魔力干渉魔法使いだったのね」
ジョニーはその後、少しだけボーッとして、急にビクッとして、木剣を振り始めた。なんだったのかしら?




