039, 0-19 幕間・エロシスターの名案
・リリスの名案
前回のあらすじ
デッカイおっぱいなら男なんてイチコロさ
目が覚めると男の子は起きていた。けれどやっぱり不安が強いみたいで、とても力強く抱きついていた。
「ねぇ、あなたの名前を教えてくれる?」
「僕はジョニー、ジョニーっていうんだ」
「私は教会でシスターをやっているの。だからシスターって呼んでね。ジョニー、お腹減らない?一緒に御飯を食べに行きましょう」
「僕まだお腹へってない」
「でもお友達はお腹が減ってるかもしれないわ」
「僕友だちいない」
「そう・・・でも私はお腹減っちゃった。だから一緒に御飯を食べましょう」
「うん。シスターと一緒・・・」
そう言って甘えるジョニーを連れて食事をするため孤児院に行く。女の子達は新しく孤児院に来た子達を起こして来てくれたみたい、けれど男の子達はもう少し眠らせてあげたいと考えたのか、新しい子達は見当たらない。
神父様が男の子達を連れてきて下さったので、私は自己紹介をし、台所へ行って昨日準備しておいた朝食を魔法具で温める。そんな私にジョニーが話しかけてくる。
「なにか手伝えることはない?」
「ジョニー、皆と一緒にいてもいいのよ」
「でもさっき、お手伝いしてほしいって言ってたから、僕お手伝いするよ」
「そう、じゃあパンを運んでもらおうかしら。ジョニーこれ持てる?」
「うん!持てるよ」
そんなジョニーを見て神父様が「ジョニーはいい子ですね」と言えば、ジョニーは嬉しそうに笑った。やっぱり神父様は凄いな。
料理を机に並べ、皆が椅子に座ったのを見て神父様が「では食べましょう」と言えば、それを聞いた子供達が食事を始める。でもジョニーは手を合わせ、よく聞き取れない言葉を口にしてから食事を始めた。
(あれは・・・食前の祈りかしら)
知識の神・ビブリチッタ様は、困ったことは勉強して解決しましょう、という教えの神様で、この教会に戒律はない。でも色々と決まり事がある教会もある。
ジョニーの両親は戒律がある教会の神様を信仰していて、幼いジョニーに教えを説くほど信心深い人だったのかもしれない。
食事の後もジョニーはお手伝いをしてくれた。「遊んできてもいいのよ」と言う私に、村でもよく両親のお手伝いをしていたと話すジョニー。ジョニーはお手伝いをすることで、悲しみを乗り越えようとしているのかもしれない。
掃除をしながら孤児院や教会、図書室を案内する。魔法具を使うのは初めてというジョニー。だけど使い方を教えるとすぐに覚えてしまった。
夕食の準備を手伝ってくれる信徒さん達ともすぐに仲良くなって、だから私は、ジョニーはなんの問題もない、賢くて人当たりのいい子なんだと思った。
私は忘れていたのだ。今朝、ジョニーが友達はいないと言っていたことを・・・。
孤児院の部屋へ行ったはずのジョニーが、教会の私の部屋に飛び込んできた。
「どうしたのジョニー?」
「みんなが僕を火付けのジョニーって呼ぶんだ」
「火付けのジョニー?」
どうしてそう呼ばれるのか心当たりを聞いてみると、父親が病気で倒れた時に、自分達が死んだら死体を集めて燃やすようにとジョニーに言ったそうだ。その遺言を守って遺体を燃やしたら、子供達に嫌われてしまったという。元々この孤児院にいた子供達もそれを知ってしまったのだろう。
(可哀想に・・・。ジョニーのお父さんはきっと街に住んでいたことがあるのね)
流行り病などで亡くなった場合は、出来るだけ火葬にするようにと街でも決まっている。私の両親も墓地で合同火葬された後に埋められた。
私は悲しむジョニーに部屋に戻りなさいとは言えず、その日も一緒に眠ることにした。
次の日も次の日も私の部屋にやって来るジョニー。流石に心配になって神父様に相談することにした。
「ジョニーには、昔エリックが使っていた一人部屋で生活してもらいましょう」
「でも他の子供達と仲直りさせてあげたほうがいいんじゃ・・・」
「ジョニーは賢くていい子です。子供達と距離ができても大人とは普通に話せています。私に街のことをよく聞いてきますし、人嫌いになったわけでもありません。時間が経てば他の子供達もジョニーのことは理解できるでしょう。辛い境遇でも挫けずに、お手伝いも勉強も頑張るジョニーは大丈夫です。それより心配なのは他の子供達です」
「他の子供達がどうしたんですか?」
「ジョニーが孤児院の掃除をしていている間、他の子供達は遊んでいます。子供のうちは遊ぶのも大切なことですが、流石にジョニーが追い出された部屋をジョニーが掃除するのは健全ではありません。これでは碌な大人になれないでしょう。正しく導くのも我々の務めです」
確かにジョニーはとてもいい子だけれど、子供らしく甘えたり、わがままを言うこともある。悲しいことがあれば、ちゃんと話してくれる。昔の私やエリックは、悩みがあっても内に溜め込むばかりだった。それに比べればジョニーは大丈夫だとわかる。
私が目の前の問題ばかり考えている間、神父様はもっと先を見据えて物事を考えていた。私もいつか神父様みたいになれるだろうか。
ある日、エリックが教会を訪ねてきた。
「やぁシスター、子供が増えたって聞いたけど大丈夫かい?」
「どうしたの衛兵さん、こんな時間に」
「いや、子供が増えたって聞いたから、なにか手伝えることはないかと思ってね」
私とエリックが話をしていると、ジョニーが腰にしがみつきながら訊いてきた。
「シスター、この人だれ?」
「彼は、この街の衛兵さんよ。たまに孤児院の様子を見に来てくれるの」
「お、新しく来た子か?お兄さんに名前を教えてくれるかい」
「ジョニーだよ」
「ジョニーか。いい名前だな」
「衛兵さん、子供は6人増えたけど、ご近所の信徒さんも手伝ってくれるから大丈夫よ」
「そうか、大丈夫か・・・」
そう言って帰ってしまうエリック。困ってるって言えばもっと長く一緒に居られるのかな・・・。でも嘘を付くわけにもいかないし。
大丈夫と言ったのに、その日からエリックが教会に来る頻度は少しだけ増えた。料理の手伝いをして、帰る時にごみを持っていってくれる。
私は久しぶりに幸せな気持ちになった。でもそんなエリックを警戒してかジョニーが言う。
「あの衛兵のお兄さんが、たくさん教会に来るのはおかしいよ。きっと悪いことを考えてるんだよ。だって他の衛兵は来ないじゃないか!」
真剣に言うジョニーがおかしくて、私は笑いながら答える。
「大丈夫よジョニー。彼はここの孤児院出身だから、心配で様子を見に来てくれているだけよ」
「でもシスターはお兄さんのこと、衛兵さんって呼んでるよね。お兄さんもシスターって呼んでたし・・・変だよ!」
「そうね。変かもしれないわね。でも、いつの間にかこうなっちゃったのよ・・・」
(本当に、どうしてこうなっちゃたのかな・・・)
ジョニーは次の日、お手伝いにも勉強にも来なかった。どうやら遊びに行ったみたいだ。
(ジョニーもまだ5歳の子供だし、こういうこともあるかな)
そうは思っても、ジョニーなら遊びに行くと一言いってから出かけるような気もする。そんな私の不安は的中してしまい、ジョニーは夕食の時間になっても帰って来なかった。神父様が先に他の子供達に御飯を食べさせる。
私はジョニーがいつ戻ってきてもいいように心配しながら待っていると、歩いて帰ってくるジョニーが見えた。目が合うと、ジョニーは走りだし、胸に飛び込んでくる。ジョニーを抱きしめながら私は聞いた。
「ジョニー今までどこに行っていたの?心配したのよ」
「シスター、僕、冒険者になるよ。どうやったら強くなれるかな」
「ジョニーは頭がいいから冒険者にならなくてもいいのよ」
「僕は冒険者になりたいんだ。だから強くなる方法を教えてよ」
(強くなる方法って言われても・・・)
ジョニーはまだ魔法は使えないし、ジョニーが知りたいのはそういうことじゃないと思う。強くなる方法・・・、戦う方法・・・、エリック。
「私にいい考えがあるわ。明日から訓練ね」
次の日、訪ねてきたエリックにジョニーのことを話すと快く引き受けてくれた。
「よしジョニー、今日から俺と訓練だ。師匠と呼ぶように!」
そう言うエリックにジョニーはすごく驚いていた。




