036, 0-16 幕間・生意気男子の友達
・デュークの友達
前回のあらすじ
火付けよ、火付けのジョニーだわ!
俺の不安はすぐに消えた。ある日突然ジョニーが冒険者になるといい出して衛兵さんを師匠と呼ぶようになった。
衛兵さんはジョニーと訓練するために毎日来るようになったけどアデラはジョニーを怖がって近づかなかった。
冒険者ってなんだろう。
「クリフは冒険者って何か知ってる?」
「冒険者は何も出来ないやつがなる仕事だってとーちゃんが言ってた。冒険者になりたいなんてジョニーは変なやつだな」
何も出来ないやつがなるというけどジョニーはいろんなことをしてる。勉強にお手伝いに衛兵さんとの訓練、村では畑仕事もしていたしお風呂の入り方も知っていた。ジョニーは何でも出来る気がした。
そう考えたら俺は何も出来ないやつなんじゃないかって不安になった。俺たちも勉強やお手伝いをしたほうがいんじゃないかな。そう思ってクリフに聞いてみると「デュークは真面目なこと言うな」と言われてしまった。
真面目なことはいいことと言った母さん。俺を真面目と言ったジョニー。クリフも真面目っていう。真面目ってなんだろう。結局みんな勉強はしないっていう。ジョニーと一緒に俺だけ勉強するのは嫌だったから友だちと遊ぶことにした。
今日は川に行くと言い出したクリフにみんなでついていく。川についた街の友だちは石を拾い始めた。そして川に向かって投げた。
村の俺たちは石投げのジョニーを思い出してなんでそんなことをと思った。
「楽しいからやってみろよ。平らな石を探すんだ。それでこうやって投げてやると・・・ほら、跳ねるだろ!」
確かに石は川を跳ねた。ジョニーは石なら何でもよくて森に向かって投げていた。川に投げる遊びとは違うみたいだ。
俺たちも平らな石を探してクリフの真似をする。すると俺の投げた石が跳ねてなんだかすごく楽しかった。でも俺より凄いのはアデラだった。アデラの石はクリフよりずっと遠くまで跳ねた。みんなで凄いと言うとアデラは恥ずかしそうに笑っていた。その笑顔を見てジョニーと勉強しなくてよかったと思った。
川から戻ると神父様が待っていた。どうしたんだろう。
「皆さん、勉強やお手伝いが嫌なのはわかります。でもせめて自分たちが使ってる部屋ぐらいは綺麗にしましょう。あなた達の部屋をジョニーが掃除してるんですよ。おかしいと思いませんか?」
神父様はいつもの優しい口調だけど俺たちは怒られてるみたいだった。でも掃除は真面目なことで真面目なことはなんなのかわからなくて俺はどうすればいいんだろう。俺が悩んでるとクリフが言った。
「はい、これからは自分たちの部屋はちゃんと掃除します。ごめんなさい」友だちみんなもそれに合わせて「ごめんなさい」と言うので俺も「ごめんなさい」と言った。
神父様がいなくなったあとオレはクリフに聞いた。
「神父様は怒ると怖い人なの?」
「怖くないよ。神父様はすごくいい人なんだ。だから俺たちは神父様の言うことは聞くことにしてるんだ」
その日から俺たちは自分たちの部屋は自分たちで掃除することにした。
俺が7歳になってだいぶ経った頃、孤児院に新しい子どもたちがやってきた。
クリフはなんだか忙しいというので俺はクリフが色々教えてくれた時みたいにその子たちと一緒に遊ぶことにした。
俺が8歳になった頃、アデラが川で石をよく投げるようになった。石を跳ねさせる遊びじゃなくてどんな形の石でも拾って投げていた。俺は心配になった。
「アデラはどうして石を投げてるの?」
「考え事をしてるの」
「何を考えてるの?」
「石を投げることを考えてるの」
アデラの言うことはよくわからない。アデラはもう普通に話せるようになったけど無口な子になった。
そんなアデラはよく近所の信徒さんの家にお手伝いに行くようになった。お手伝いをするとお金を貰える。だから俺も一緒にお手伝いをする。お金なんてどう使えばいいのかわからないけど、あって困るものじゃないとクリフが言っていた。
10歳になったアデラはおっぱいが膨らみ始めた。俺はなんだかドキドキしてチラチラ見てしまいキャスに「デュークのエッチ」と言われてしまった。
俺はみんなに笑われたけどアデラは気にしてないみたいで貯めたお金でナイフを買うと言う。ナイフを買う時クリフと相談しているアデラを見てなんだかモヤモヤした。
アデラはその頃から川じゃなくて森に行くようになった。ナイフを使って森の枝を削ってナイフと同じ形にしてそれを木に投げていた。
「アデラ、何してるの?」
「木を投げてるの」
「どうして投げてるの?」
「投げるのがうまくなりたいの」
アデラの言うことはよくわからない。でもアデラを見ていればわかることもある。アデラはたまにジョニーを見ている。でもどうしてジョニーを見てるんだろう。
そんなジョニーには友達が出来た。神様モドキっていうキラキラした生き物だ。
『この世界には神様モドキっていうおかしな生き物もいるのよ。キラキラ光ってる以外は普人と同じように見えるけど、人間とは考え方が違う悪魔みたいな生き物なの。だから絶対に近づいちゃダメよ』と母さんは言っていた。
悪魔みたいな神様モドキと友達になれるジョニーはやっぱり悪魔なのかな。
俺はある日、ジョニーと神様モドキが何をして遊んでるのか気になって覗いてみることにした。
神様モドキがジョニーに神の力をやろうかと言っている。でも母さんは言っていた『何かをタダでくれると言う人を信じちゃダメよ』って。
ジョニーは神様モドキに騙されようとしていて、俺はそれを止めようか迷って、でもジョニーは言った。
「そんな力いらないよ」
そんなジョニーに神様モドキは嬉しそうに笑って「お前ならきっとそう言うと思ったぜ」と拳を突き出した。ジョニーは拳を合わせる。
神様モドキは言った。
「俺たち」
ジョニーは言った。
「ズッ友だよ」
神様モドキのキラキラした光が強くなって俺が目をつぶっている間に消えてしまった。
ジョニーが俺に気づいて振り返る。俺はその場から逃げた。
俺にはたくさん友達がいる。街の子供とも村の子供とも友達になれた。でもジョニーとは友達になれなかった。
ジョニーが『そんな力いらないよ』と言った時、神様モドキは嬉しそうにしていた。ジョニーはすごい力より神様モドキとの友情が大事だって事ぐらい俺にもわかった。ジョニーは友達思いのやつだった。
村にいた頃は皆と友達になろうと思ってた。でもジョニーとは友達になれなかった。どうして俺とジョニーは友達じゃないんだろう。俺はどうやったらジョニーと友達になれたんだろう。
でも結局ジョニーとは友達になれなかった。ジョニーが12歳になった時、孤児院を出て行ってしまったからだ。
その後アデラは落ち込んで、そんなアデラをキャスが慰めていた。どうしてアデラは落ち込んでるんだろう。
でも理由はすぐに分かった。イケメンな衛兵さんとシスターが恋人同士になったからだ。恋をして恋人同士になって結婚して夫婦になる。俺もいつかアデラと結婚できるかな。
クリフが16歳になった年、歳の近い皆で孤児院を出ることにした。クリフは鍛冶見習いになると言う。クリフが鍛冶屋になりたいなんて初めて聞いた。キャスは靴屋になると言う。
皆もそれぞれやりたい事があるみたいで、俺は驚いた。
「アデラは何になりたいんだ?」
「私は冒険者になる」
「冒険者?冒険者ってあの冒険者?モンスターと戦う危ない仕事だぞ」
「そのために訓練した」
アデラは俺の知らないところで訓練していたらしい。俺は特にやりたい事もなかったから、アデラと一緒に冒険者になることにした。
母さんが言っていた。男なら大事な人を守りなさいって。危ない時は俺がアデラを守る!
皆と別れた後、アデラと一緒に冒険者ギルドに行く。冒険者ギルドは大きな建物で、中には強面の人が沢山いた。アデラは怖がること無く受付に行くので、俺も平気なふりをして付いて行く。
受付の女の人は「ギルマスー、ちょっとギルマスー、新人さんが来たんですけどー、登録したいって言ってるんですけどー」と大きな声で騒ぎ出した。
この人の仕事じゃないのかと思って見ていると、今まで見た中でも一番怖い顔の人が出てきた。
「君たち冒険者になりたいのかい?じゃあこの書類に名前と性別、年齢と誕生日、特技もあれば書いて下さい。年齢がわからない時は大体でいいです。字は書けますか?」
俺は勉強してないから字は書けない。でもアデラは書けるみたいでスラスラと書いていった。いつ覚えたんだ?俺が書けないと言うと、アデラが代わりに書いてくれた。なんだか情けない気持ちになった。
アデラが必要なことを書き終えるとギルマスさんは「少々お待ち下さい」と言い、奥の部屋に入っていくとすぐに戻ってきた。
「これがFランクの冒険者証です。Fランクは仮登録みたいなものですが、最低限の身分証としても使えます。再発行には銀貨が5枚も必要ですから絶対に無くさないように。絶対ですよ。仕事が増えてしまいますからね。絶対に無くさないように」
すごく心配してくれるギルマスさん。俺も銀貨五枚なんて大金は払いたくないので、無くさないように注意することにした。
「じゃあ、わからない事は酒場のカウンターに居る、あのでっかいお爺さんに聞いて下さい。彼が色々面倒を見てくれます。片足が義足のお爺さんです」
俺達はギルマスさんの指示に従い、お爺さんに話しかける。
「あの、俺たち新人なんですけど、わからないことを聞けって・・・」
「お前ら歳はいくつだ」
「もうすぐ15になります」
「そうか・・・じゃあ歳も近いしあいつだな。おーい奇人の、ちょっとコイツラの面倒見てやってくれ」
お爺さんが大きな声で呼び掛けた方を見ると、酒場の隅の席にいた冒険者が食事を中断してこちらに近づいてきた。
「お爺さん、その呼び方はやめてくださいと何度も言っているじゃないですか」
「ハッ、二つ名を嫌がる冒険者なんてお前ぐらいのもんさ」
「その二つ名が嫌なんですよ」
「いい二つ名じゃねぇか」
「何処がですか」
お爺さんとそんなやり取りをする冒険者を俺は知っていた。
その冒険者は、12歳で孤児院を出て行ったイケメンのジョニーだった。
「奇人なんて呼ばれて喜ぶ人はいませんよ」
ジョニーは呆れたように言った。




