018, 0-08 幕間・謀略女王の混乱
・ルクレーシャ=クロトーの混乱
前回のあらすじ
目指せイケメンハンター
私は、なんだかほっぺたを突かれてるような感覚に苦しむ。
ほっぺたをツンツンして起こしてくれるイケメン彼氏なんて私にはいない。これは夢だ。寝ぼけてるんだ。
幻想のイケメン彼氏を振り払うように目を開けた私の目に飛び込んできたのは、私のほっぺをぷにぷにしてる少女グリゼルだった。
「おはよう」と私が言うと、はっとして、さっと指を引っ込め、すました顔で挨拶をしてくる。
「おはようございます。ルクレーシャ様」
前世で課長も言っていた。挨拶は大事だ。そんな人間関係の基本をグリゼルは理解しているらしい。優秀なチートキャラだ。
しかし困ったことがある。下半身がなんだかムズムズする。変態的な意味じゃなく。赤ちゃんだから、やっぱりこれは、あれだよね。
そんな私に気づいた侍女グリゼルは、私の服を脱がしにかかる。
(やめて、襲わないで、犯される~~~)
しかし、抵抗する私をあっさり脱がすと、ウンウンうなずいて部屋に用意してあったタライに水を生み出した後、それをお湯にした。
すごいね魔法。私は初めて見る魔法に感動した。寝る前に魔力感知の魔法を使われたはずなんだけど、あれ何やってるのかわからなかったし。
そんなチート少女グリゼルは淡々と私の下半身を拭く。もう分かるよね、おもらしだ!私、おもらししちゃってた。
うっわー、この歳で恥ずかしーと思ったけど、私赤ちゃんだった。
そんな私の、恥ずかしい布オムツ替えが終わったら、なんだかお腹が減ってきた。
でも私いま、赤ちゃんなんだよね。なら当然、私のご飯はおっぱいだ!
でも8歳の少女グリゼルがお乳を出せるとは思えない。でもお腹へったし。
「お腹が空いちゃった」
正直に言うと、侍女グリゼルは部屋を出てどこかへ行ってしまった。
放置プレイ、というわけじゃなくあれだよね。お乳をくれる人を連れてくるんじゃん。乳母だったかな。
しかし、戻ってきたグリゼルは一人で哺乳瓶を持ってた。この世界にもあるんだ哺乳瓶。
侍女グリゼルは、私を抱き上げると「お食事です」と言いながら哺乳瓶を近づけてくる。
そこでちょっと甦る、寝る前に聞いた会話。
『先程は一生、と言いましたが、そう長くはないでしょう・・・』
侍女長の不穏な言葉を思い出し、グリゼルに待ったをかける。
「毒とか入ってないよね」
侍女グリゼルは頷くと、なんのためらいもなく哺乳瓶に口をつけ、ミルクを何度か飲む。そして言うのだ「大丈夫です」と。
すごいな。たった一週間の侍女教育で毒味までこなすなんて。いや、わかってるよ。グリゼルが思い切りのいい子ってだけだよね。
また哺乳瓶を近づけてくれたので、私はそれをパクっとする。
(ん~~~。なんとも言い難い)
美味しくないけど不味くもない。そんなミルクを私は満足するまで飲む。それでな~んか気分が悪くしてると、侍女グリゼルが私の背中をトントンとしてくれる。
私はゲップした。
しかし、赤ちゃんの世話が板についている。そうだよね、赤ちゃんゲップするよね。私すっかり忘れてた。
これは流石に一週間の侍女教育とやらでしょ。赤ちゃんの侍女にするための教育。
でも、そもそも赤ちゃんに侍女っておかしくない。乳母さんが直接おっぱいくれるもんじゃないの?哺乳瓶ってありなの。
どうやらこれも侍女長のせいらしい。
あの話の続き聞いてみる。ご飯が終わって眠いけど、眠気と戦う頑張るエライ私は質問する。
「王妃様ってどんな人?」
そう、寝る前に聞いた会話に愛人は登場したけど、王妃様は登場しなかった。
奥さんに頑張って叱ってもらって、浮気やめてもらえば解決じゃん。
ついでに子どもたちも叱ってもらえば継承争いも終わるじゃん。
どうよこの私の天才的なひらめき!
だから王妃様について聞きたい。どんな人、どんな人、まともな人だと言ってよグリゼルちゃん。
「その、もうお亡くなりになられています」
死んじゃってた!まぁ、ヤバい人が出なかっただけマシかな。
でもこんな事になってるのは王妃様の死因が原因だったみたい。
「元々お父君は、真面目で堅物な方だったそうです。ドワーフの国と友好関係なのも現王コンスタンス=バジル=カス=クロトー様のお力あってのものです。
『つまらん奴じゃが信頼できる!』とドワーフの王様と盃を交わして魔法具の商業的な条約をまとめられたとか。この国に魔法具がたくさんあるのも、その条約のお陰のようです。
コンスタンス様は王妃様を大変に愛しておられたようですが・・・お子が出来ず、しかし第二夫人や第三婦人を娶ることもしませんでした。ですがお子がいなければ次代に引き継げません。
そこで跡取りに王家の血を引く公爵家から養子を取ろうとしたところ、貴族の勢力バランスが崩れ、怒った対立貴族が王妃様を暗殺して新しい妻を娶らせようとしたのが全ての始まりでした。
王妃様を失ったコンスタンス様は深い悲しみと怒りから壊れてしまいました。
『そんなに子供がほしいのなら作ってやると』毎日のように女性を抱かれるようになるも、決して婚姻関係は結ばず愛人とし、通常であれば王の子を生む女性は王宮ではなく、後宮に入り他の殿方との接触を禁じられるのですが、王妃様の住んでいた後宮への立ち入りを王様は許可しませんでした。
生まれた子どもを全て認知し継承権を与え続けたそうです。そうして111人も王の子が生まれてしまったのです」
ん~~~~~長い。すごく長い。よく覚えてたねグリゼルちゃん。エライよ。
まぁ、生まれながらのヤバい人じゃなくてよかったよ。
同情?するわけ無いでしょ。
義務を果たせばよかっただけじゃん。王妃様死んだのもお前のせいじゃん。
純愛気取ってんじゃないよ!
そして結局ハーレム作ってんじゃん。時代は逆ハーですよ。
てゆうか名前にカスが入ってるんですけど。なにそれ自己紹介?
もしかして私が女王様になっちゃったらルクレーシャ=バジル=カス=クロトーって名乗らなきゃいけないの?絶対無理だからそれ。女王様になるルートだけはないわ。
そして今の話だと私、王の子じゃない可能性あるんだけど、そんな私の疑問に答えてくれるグリゼルちゃん8歳。
「ルクレーシャ様は間違いなく、コンスタンス様のお子でございます」
まさかの断言。理由を聞いてみると、かなりイカれた話だった。
そもそも王様が子作り出来たのはもう過去の話。85歳だもんね。
じゃあ私はどうやって生まれたのか。そこで登場する侍女長。
東の公爵家で蝶よ花よと大事に育てられた公爵令嬢である彼女。
イケメン貴族と結婚するも、ラブラブ新婚生活はどこへやら、平凡な結婚生活に飽きはじめる。
夫を毒殺し、過去にあった王様のハーレムライフに魅了され聖地巡礼気分で王宮の侍女長に。
悲しそうな王様を見て同情。
そうだ!王妃様との子供作れなかった王様が可哀想だから、王妃様と同じピンク髪の娘を見つけてピンク髪の子供作ってあげよう。
ピンク髪を探すも見つからず、ドス黒い赤髪の珍しい娘を見つけたので誘拐。これが私の母。
当初の目的は何処へやら、王様と母の子供が見て見たくなった公爵令嬢、でも王様は高齢だし平民とさせるのは。
そこで公爵令嬢という立場を使い、高位の回復魔法使いを雇って、王様から無理やり子種を抜き取り母の中へ。
その結果生まれたのが私。
でも生まれた私の髪がピンク色じゃなくて、ドス黒い赤髪なのが不満なんだとか。
侍女長、頭おかしい人だった・・・。てゆうか私ドス黒い赤髪なのか・・・。
そんな実験につきあわされた母は産後に亡くなる。言い残した最後の言葉は『この子の名前はルクレーシャにして』。
王様にそんなことしてもいいの?と思ったけど、王様は真面目な時代は皆に慕われてたけど、ハーレムライフのせいで完全に見限られたそうだ。
そして王様も頭おかしかった。久しぶりに子が生まれたと喜んで、例のごとく継承権を与えたんだとか。
それに侍女長はまた機嫌を悪くする。なんなのこの人。
私は112番目の王の子、けどもう王位継承戦も終盤、争ってるのは32人。凄い減ったね!
それ以外は継承権を放棄したか継承争いで死んだとか。やっぱり死ぬのか・・・。死にたくないなぁ。
あれ、でもこれ継承権放棄すれば安全じゃんと思ったけど、私は赤ん坊だった。
ちなみに王妃様を暗殺したのは東の前公爵。証拠はない。
王様は西の公爵から養子を取ろうとしたらしいし、王様がハーレムライフ送り出してすぐ家督を息子に譲り隠居してる。
完全に黒じゃん。
これ話し聞くとあれだよね。侍女長、悪役令嬢だよね。公爵令嬢だし。
私はこの人にイジメられて、大きくなっったらざまぁするやつでしょ。ざまぁ小説パターンの物語だよ絶対。
神に祈ってなかったら私は侍女長だったのか。神に祈り通じてよかった。・・・よくないか、私イジメられちゃう。
そこで不安になってくる。すでに解説キャラになっているグリゼルちゃん。
一週間の侍女教育って、まさか侍女長がやったのかな。
いや、赤ん坊の世話なんて侍女長が教えられるわけが・・・。
大丈夫?グリゼルちゃん。変なことされてない?
私がそれを聞くと、グリゼルちゃんは顔を赤らめる。なんかされちゃってるじゃん!
しかしグリゼルちゃんは何もされていなかった。何もされてないだけで色々見せられたり聞かされたりしてた。
グリゼルちゃんを解説キャラだと思っていたら、解説元は侍女長だったらしい。
夫の毒殺から王様のハーレム事情や母を誘拐した件、その後の実験などのあれやこれや。
それを8歳の少女に一週間聞かせながら興奮し、自分の体を自分で慰め、それを少女に見せつける。
母親が平民な私に、変態行為を見せつけた8歳の平民少女を侍女としてつけて、興奮してるらしい。
悪役令嬢ド変態じゃん。
どうせ知られても、平民の言うことなんて誰も信じないって思ってるみたい。
でもグリゼルちゃん、赤ちゃんな私の世話うまかったよ。なんか手慣れてる感じだった。
グリゼルちゃん、どこで赤ちゃんのお世話どこで覚えたの。グリゼルちゃんの思い出で癒やされたい。もう変な話は勘弁して!
「私の両親はモンスターに殺されてしまって、その後は村長夫妻に引き取られたのですが家族としてではなく、便利な子守として村長夫妻のお子様の面倒を見ていたんです。
引き取った理由も『魔法が使えて便利そうだから』というもので決して私個人に思い入れがあるわけではないため売られてしまって・・・」
全然癒やされない。そういや村長に売られたとか言ってたのすっかり忘れてた。
しかし気になる・・・。魔法でお水を出したり、それすぐお湯に変えたりできるチートな魔法使いグリゼルちゃん。
私なら絶対売らないけどな。なんで売ったんだろう村長。馬鹿なのかな。グリゼルちゃんがおっきくなった時のざまぁ展開回避かな。
「グリゼルなんで売られちゃったの?」
私の質問の意味がよくわからないのか答えあぐねている。
「私なら絶対売らないよ!」
そう私が言うとグリゼルちゃんは、恥ずかしそうに笑いながら教えてくれた。
「その・・・金貨5万枚あれば一生どころか家族数代は遊んで暮らせるので・・・。私が魔力感知で村人も魔法を使えるようにしましたし。それに村長が『お前は子供をプニプニし過ぎだ』と・・・」
グリゼルちゃん金貨5万枚の女だった件。金貨5万枚がどんなかわからないけど、凄いことだけはわかる。そして村長の子供もプニプニしてたらしい。やめたげなよ。
まぁなんにせよ疲れた。もうこれ以上聞きたくないし。
色々とややこしい話に私は思った。
これ考えたやつ頭おかしいんじゃないの。
この世界の神様って頭おかしいんじゃないの。
ハードモードな人生を用意した、頭のおかしな神の妄想に混乱しながら、私は眠ることにした。




