014, 0-04 幕間・生意気男子の反撃
・デュークの反撃
前回のあらすじ
ジョニーは悪魔だった。
燃える父さんや母さんを見ながら俺たちはどうしていいかわからなかった。
ジョニーはいつの間にかいなくなっていた。
なんだかひどい臭いがして、それが父さんや母さんの燃える臭いだと気づいた。
でもどうにも出来なくて俺たちはただ燃えるのを見ていることしか出来なかった。
そしてだいぶたった頃ジョニーが戻ってきた。
「付いて来い!」
そう言うジョニーにみんなついて行きたくなかった。けど怖くて逆らえなかった。
井戸の前で止まったジョニーは「体を綺麗にしろ!」と言って服と布と石鹸を渡してきた。
女の子と一緒なのは恥ずかしかった。でも恥ずかしがってるのは俺だけだったみたいでみんな服を脱ぎだした。
アデラの方を見ないようにしながら体を拭く。そして新しい服を着るとジョニーは「古い服は没収だ!」と言った。
俺が父さんと母さんと過ごした最後の日の服はジョニーに奪われた。
ジョニーに言われてジョニーの家に入る。
ジョニーの家はすごく綺麗だった。
ジョニーの母さんも死んじゃったのに誰が掃除をしたんだろう。
ジョニーは竈で何かをしていた。
でも何をしてるのかはすぐに分かった。
(いい匂いがする)
ジョニーはスープを作っていた。
少ししてジョニーはスープとパンをみんなの前に置く。
ジョニーはジョニーの父さんと母さんを運んだ後にやってたように手を合わせてよく聞き取れないことを言った。そして食べ始めた。
俺はスープを見る。いい匂いがする。みんな見ても食べる様子がない。
俺はスープを飲んでみた。飲んでみるとおいしくて気づいたら夢中で食べていた。
そして俺は気づいた。俺はお腹が空いて倒れたんだと。
そんな俺を見てみんなも食べだした。
『お腹が空いたなぁ』というジョニーの言葉を思い出す。
ジョニーが悪魔なら、きっと俺も悪魔だ。
ご飯を食べ終わった後、布団を敷き始めた。
俺たちもジョニーから距離をとって布団を敷いた。
疲れていたから布団に入るとすぐに眠くなった。
次の日の朝、ジョニーに起こされた。
俺はちょっとびっくりしながら起きた。
ジョニーは「薪置場から薪をとって来い!」と俺たち男に言い、女の子には「布団を片付けろ!」と言った。
薪を取ってくるとジョニーは昨日のおいしいスープを温めみんなでそれを食べた。
その後ジョニーは俺たちに家を掃除をしておくように言うとどこかへ行ってしまった。
チャンスだと思いジョニーに奪われた服を取り戻そうと俺は井戸へ向かった。
でもそこにはジョニーがいた。なんでジョニーが!
ジョニーは取り戻そうとした服を持っていってしまった。
服を持ってどこかに行くジョニーにこっそりついていく。
広場に行ったジョニーは父さんや母さんたちを燃やし足りなかったのか服と一緒にまた燃やし始めた。
(やっぱりジョニーは悪魔だったのかな・・・)
ジョニーが悪魔なら俺も悪魔だ。悪魔は悪い人だ。
いつもならこんな時は母さんに相談する。でも母さんは死んじゃったから相談できない。
悩んでいると声が聞こえた。
ジョニーが走り出して俺も走る。
すると大人がいた。
「誰かいないかー。いるなら返事をしろー」
大きな声でそう言ってる。
助けが来てくれたのかな。
そう期待して俺は大きな声で答えようとすると、その前にジョニーが叫んだ。
「死にたくないなら出ていけ!」
俺は怖くなって逃げた。
俺がみんなのもとに戻るとみんなも声が聞こえていたみたいで騒いでいた。
俺はなんと言っていいかわからず、アデラと話をすることにした。
「アデラどう思う?」
「ジョニー、こわい」
「ジョニーじゃなくて大人の声の事どう思う?」
「ジョニー、こわい」
ジョニーが怖いと繰り返すアデラ。俺も正直ジョニーが怖いけどなんだかアデラの様子が変だ。
何があったのか詳しく聞いてみると、昨日疲れて休んでいたらジョニーに叩かれたという。
それを聞いて俺はジョニーが許せなくなった。そして、さっき怖くて逃げてしまった自分も許せなかった。
戻ってきたジョニーにみんなが集まる。
「ジョニー、さっき大人が来なかった!」
「声が聞こえた!」
「助けが来たの!」
そんなみんなに意外にも優しくジョニーが教えてくれる。
「騎士が様子を見に来たから、村で何があったのか伝えたんだ。助けを呼びに行ってくれたから、もう大丈夫だよ。『少し待っていてほしい』と言ってたし・・・すぐに救助が来るよ!」
堂々と嘘を付くジョニーが許せなくて。アデラを叩いたジョニーが許せなくて。俺はジョニーに叫んだ!
「嘘だ!俺は聞いちゃったんだ・・・。大人は来たけど、ジョニーが追い払ったんだ。村から出てけって追い払ったんだ!」
ジョニーはそれを聞くと何があったのか話し始めた。
「村の大人がみんな死んじゃったから、村の中に大人が死んじゃう病気があると思ったんだ。だから村から出ていくように言ったんだよ。話を聞いてたのに病気のことは聞いてなかったの?」
ジョニーは嘘をついているようには見えなかった。俺は怖くて逃げ出したとは言い出せずに嘘をついてしまう。
「だって・・・家の掃除しなきゃいけなかったから、途中までしか聞いてなかったんだ・・・」
そんな俺にジョニーは言った。
「真面目か!」
母さんは褒めてくれた『真面目なのはいいことよ』と。でもジョニーが俺を褒めているようには見えなかった。
「ほんとなのジョニー?」
「追い返しちゃったの?」
「助けは来ないの?」
みんなが騒ぎ出しジョニーが大きな声を出す。
「うるさい!救助は来るんだ。大人しく待ってろ!」
するとアデラが涙目で叫んだ。
「空腹のジョニーこわい。キライ!」
涙目のアデラがジョニーの家に走っていくので俺たちはアデラを追いかけた。
家に入ってみんなでアデラをなぐさめた。
それから暗くなってもジョニーは帰ってこなかった。ここはジョニーの家なのに。
(俺のせいかな・・・俺が余計なこと言ったから・・・)
(でもジョニーは、俺を殴って、俺を叩いて、父さんと母さんを燃やして、アデラまで叩いて、それに悪魔で、俺も悪魔かもしれなくて・・・)
そんなふうに俺が落ち込んで、みんながウトウトとしだしたころジョニーが戻ってきた。
戻ってきたジョニーは大人と一緒だった。ジョニーに『出ていけ!』と言われてた大人だ。
ジョニーは嘘をついていなかったんだ!俺は嘘をついちゃったのに・・・。
その大人は変な人で「俺は騎士だぞ~」と言いながら眠たそうにしていたみんなを起こすと追いかけ始めた。
ジョニーは昨日と同じようにスープを作っていた。でも昨日と違って頭まで布で隠した大人たちがジョニーを手伝っていた。
(本当は俺たちも昨日ジョニーを手伝うべきだったんじゃないかな・・・)
俺はスープを作るジョニーを見ながらそんなことを思った。
みんなでスープとパンを食べる。味は同じなのに、みんな朝のスープとパンよりも美味しそうに食べていた。
「僕たちはこれからどうなるの?」とジョニーが聞いた。
その声は俺たちに命令するときの怖い声じゃなかった。
でも聞いたことのある声だった。
『すぐに救助が来るよ!』とみんなに言っていたときの優しげな声だった。
あのあと俺がジョニーを嘘つき呼ばわりしてしまったから、また怖いジョニーに戻ってしまった。
(やっぱり俺のせいかな・・・嘘つきは俺だったのに・・・)
そんなジョニーの疑問にちゃんと答えてくれたのは変な人じゃなくて頭まで布で隠した人だった。
でも布から見えた目が怖くて俺はその人のほうは見ないようにした。
俺にわかったのは、俺たちにもう家族がいなくて、孤児院という場所に行くこと、それは街にあるということだけだった。
でも目の怖い人は最後に「だから何も心配することはない」と言った。
その声は力強くて安心できた。
みんなやジョニーが「へぇ~」というので俺も「へぇ~」と言っておいた。
でもなぜか変な人も「へぇ~」と言っていた。やっぱり変な人は変な人だった。
「他の村はどうなったの?」とジョニーは聞いた。ジョニーは他の村のことを心配していた。
俺は他の村のことなんて考えもしなかったのに。
そんな優しいジョニーに目の怖い人は答えた。
「私はまだ確認していないが、おそらくこの村と同じ状況だろう。いや、もっと酷いかもしれんな・・・。しかし、他の村にも救助隊は派遣されたので、心配する必要はない」
どうしてこの村より酷いんだろう。他の村にはジョニーがいないんだから、死んだ人を燃やされたりしないはずなのに。
「死んじゃった人たちはどうするの?ちゃんとお墓は作ってもらえるの?」
人が死んだらお葬式をして、お墓を作る。母さんが言っていたことだ。
目の怖い人は力強くみんなに言った。
「問題ない。私が責任を持って墓を作ろう」
目が怖いだけで、すごくいい人だった。
「あなたはエルフなのに普人の領主様に仕えているの?そんなにすごいのに。エルフの国では働かないの?」
ジョニーが急に変なことを言った。
エルフ・・・どっかで聞いたことある。
『この世界には色んな人達がいて、エルフっていうイケメン種族もいるのよ』と母さんが言っていた。
俺は布から見える顔をよく見てみることにした。
目が少し怖いけどたしかにイケメンだった。ジョニーの父さんと同じぐらいイケメンだ。
でもエルフのイケメンな人は今までと違う様子でジョニーより変なことを言い出した。
「今のエルフの国は我らエルフを造った偉大なる神であるエニュモルマルファルス様ではなく精霊を国の軸に据えているのだ。別に精霊信仰を否定する気はないが国の軸にするのはおかしい。
そんな現体制に不満を持ったエニュモルマルファルス教の教徒たちはエルフの国以外を拠点に外部から国を変えようと試みているのだ。私の名前も偉大なるエニュモルマルファルス様から一部を頂いた。そもそも―――」
そんなふうに早口でしゃべり続けるエルフの人をアデラはキラキラとした目で見ていた。
そんなアデラを見ていると俺はなぜかムカムカして、早く眠ることにした。




