134, 0-79 幕間・精霊女王の回避
・フニャフニャ=ムメ=ヒャワヒャワの回避
(研究が終わりました・・・)
いい終わり方ではありません・・・いえ、はっきり言いましょう。悪い終わり方です。研究は、失敗しました。
一つの仮説があり――様々な実験を経て――たとえそれが上手く行かずとも――失敗から学び――後世に誰かが成功してくれる――そうして長年引き継がれてきたプロジェクト。
昨日の実験で導き出された結論―――。
(仮説段階で致命的な間違いがありましたね・・・)
徹夜続きで妙なテンションの中、一人で行った遊び半分の実験があんな結果になるとは・・・、どうするべきか。研究チームのメンバーに知らせるべきでしょう。それは当然として、けれど―――。
(どう伝えれば・・・)
せめて副産物があるとか・・・実験データが他の研究の参考になるのなら意味があったのですが・・・、そんな事は一切なく――長年、研究費を食いつぶしてきただけ。
実験の後、現実逃避したかったのか――久しく帰っていなかった自宅へ帰り、夕食をとり、入浴、撮りためていたアニメを整理し、就寝――そして今、研究所へ行くために運転しています。
録画するだけで見なくなってしまったアニメ――HDDを圧迫し、ネットの評価を元に過去作品を消していく虚しさ。
自分ではライトオタクだと思っているけれど――アニメを撮り溜めていると現実で言えば『オタクだったんですか~』と女性に笑われ――ネットに書き込めば『ニワカが!』と罵倒される。
(私はオタクなのか、オタクではないのか・・・)
ええ、もちろん、こんな事を考えているのは現実逃避のためです。
最後に見たアニメは、女子高生が軽音楽部で何故かお茶会を開いていた、日常系というジャンルのアニメ。
その後は確か・・・空から女の子が降ってくるジャンルのアニメが流行ったらしく・・・それは果たしてジャンルなんでしょうかね。
今は異世界ジャンルが流行っているとかもう廃れたとか・・・。
ここは前向きに考えましょう――研究は失敗したけれど、撮り溜めたアニメを見るチャンスだと!
気持ちを切り替えたちょうどその時、前方で異常事態が―――!!
駅近くの交差点で信号を無視し、横断歩道を渡っていた若者と老人を跳ねて、速度を緩めることなく対向車線――つまり私の方に向かってくる真っ赤なスポーツカー。
クラクションを鳴らしながらハンドルを切り――そうして―――そうして、そこまでは覚えています。
「どこなんでしょうね、ここは」
20メートル四方の白い部屋――天井の高さは約3メートルほどでしょう。左右の壁にはガラスのない窓が3つ、奥には祭壇と壁画があり、神殿のような建物なのかと思えば――部屋の中央には何故か机が一つ、本が数冊積まれている。
「病院ではありませんね」
言葉にし、確認する。ずいぶんと現実感の強い夢――けれど夢だということは、はっきりしています。
なぜなら私の胸部が膨らんでいるからです。まるで女性のよう――そして、股間にあるはずのものも無くなっている。
股間は気の所為――胸は、記憶にない入院生活で太ったとか・・・説明がつかないこともないですけれど・・・。
「光ってますね」
壁画に描かれている4色の球体―――それと似た光る球が空中を漂い、不規則に動いています。
事故による脳損傷か何かの影響でしょうか・・・、いいえ、そろそろ認めましょう。
「異世界転生ですね、これ」
どうやら私は事故で死に、女性に生まれ変わったようです。
まさか、アニメを見ずに実体験するとは・・・。
「どうせなら・・・空から女の子が降ってくるアニメがよかったですね・・・」
前世でそういう出会いがあれば――いいえ、もし結婚していたらこんなに落ち着いてはいられないでしょう。
両親を早くに亡くし、独身で家族がいなかったからこそ気楽でいられる。
「女性と出会うにしても・・・普通の出会いがいいですけどね」
今生では出会いとかあるんでしょうかね、と窓から空を見上げると―――。
「ひゃっ、ひゃわわっ!どいてください巫女さま~~~!!」
(空から・・・女の子・・・?)
窓から勢いよく入ってくる淡い光を纏った女性を私は――回避する。
この体にもまだ慣れておらず――慣れていたとしても女性を受け止めるなんて出来ません。
下手に女性の着地点にいれば大事故でしょう。
私の考えは間違っていなかったようで――女性は見事に足から着地し、勢いを殺すためか膝を曲げる。
「は~~~~っ。じーんって・・・じーんってします・・・」
(見事では・・・なかったかも・・・)
しゃがんだ体勢のまま動かない女性。
「大丈夫ですか?」
「無理です巫女さまーー魔法使ってください。回復魔法使ってください」
(魔法・・・?)
「い、痛いの痛いの飛んでいけ~~~?」
女性の足に手をかざして言うと――女性は顔を上げ、心配そうに言います。
「ど、どうしたんです巫女様・・・。巫女様が冗談を言うなんて・・・」
「痛みが引くかと思って言ってみました・・・」
「い、痛み・・・?!痛くないです!痛くなくなりました!!巫女様すごいです」
「効いたのであればよかったです」
どうやらこの世界には魔法があるようですね。
立ち上がった白いローブを着た女性は、きれいな緑色の長い髪に翠眼。神秘的な美しい顔立ち、けれど幼さが残っており18歳前後の少女に見える。そんな少女の耳は笹穂耳、エルフ―――。
私が女性を観察していると――女性も私をじっと見つめて・・・抱きついてきました。
「なんだか今日の巫女さま優しいです!大好きです!!」
美少女に抱きつかれる――嬉しいことではありますが、今生の私は女性だからか特に何も感じません。前世の私なら・・・、間違いなくパニックでしょうね。セクハラを疑われたらどうしようと・・・。
少女の頭を優しく撫でながら訊ねます。
「どうして窓から入ってきたんですか?」
すると少女は私からパッと離れ、神殿の入口を睨み言いました。
「そ、そうでした!大変なんです!侵入者です!!」
「侵入者?」
私も入口に意識を向けると――遠くから叫ぶ男の声が・・・。
「女王様ーーー!どうか!どうか正しき信仰を!!どうかーーーっ!!!」
「黙りなさいっ!こんなところまで侵入して!!」
入り口から顔だけだして覗いてみると――眼光の鋭いエルフの男が武装したエルフの女性数人に捕らえられ、どこかへ連れて行かれます。
「女王様ーーー!女王様ーーー!」
「あいつはきっと追放処分です。いい気味なのです」
私の隣で隣で憎々しげに言う少女。
(私は巫女らしい。ということは・・・?!)
「君は・・・女王なのですか?」
とてもそうは見えない。
「み、巫女様?なんかさっきから変ですよ?大丈夫ですか?巫女様が女王様ですよ?」
「実はですね―――」
隠したままでは情報も得にくいので――記憶喪失のようです、と嘘をついてみれば―――。
「た、たいへんです!!か、かいふく・・・回復が得意な人連れてきます!!!」
「あまり大事にはしたくないので・・・。貴女が知っていることを教えて下さい。記憶が戻るかもしれません」
「わ、わたしが巫女様に・・・教える。・・・えへへ、いいですよ!教えちゃいます!!」
(大丈夫でしょうか・・・)
少し不安ではありますが、女性兵士に訊ねるのは怖いので、彼女に頼ることにしましょう。
私の名前は、フニャフニャ=ムメ=ヒャワヒャワ。
一体誰が付けたんでしょうね、こんな変な名前・・・。やはり親ですかね。異世界なら文化が違うかも・・・女王であれば即位後に変わるとか・・・巫女が代々引き継ぐ名という可能性も――。
彼女の名前はメーリ、ずいぶんと短い。名前は誰がつけるのか訊ねれば――この世界でも親が決めるのが一般的らしく、けれど家族名などは無いようで、そうなると、長く変な名前は全て親が考えた事に・・・。
(なぜこんな名前に・・・?)
私の両親はすでに天寿を全うしたとのことで――名前の由来は不明ですね。
私が自分の名前を聞いて落ち込んでいると考えたのか――メーリは慌てた様子でパタパタと手を振り、ぐっと握りしめ、言います。
「私はフニャ様の名前大好きですよ!!」
(フニャ様・・・)
まぁ、いいでしょう。
ここはエルフの国、マルファルス聖王国。
そこで私は巫女であり女王、というより――巫女のトップが女王と呼ばれるそうです。
精霊について研究する者が巫女であり――最も結果を出したと認められた女性が女王に選ばれる。
どうやら女王と呼ばれているだけで実権はなく、政治は議会が決めているとのこと。女王を選ぶのも議会、選挙王政のようで女王は精霊教と国家の象徴―――。
ただし、議員も巫女も神官一族から輩出されるそうで――民主主義ではなようです。
そう説明してくれたメーリは巫女見習い兼、私のお世話係。将来は巫女になり、優秀であれば女王に―――。
「必ず女王になって見せるです!!」
(この娘が・・・女王に・・・?)
女王の選出は、即位している女王が亡くなった後に行うそうなので・・・私には関係ありませんね。
なんの因果か今生でも研究者。
この世界について学びつつ、精霊研究をしてみましょう―――。
'TS転生エルフの精霊研究メモ'
これはあくまで、私の個人的なメモ書きです。




