125, 0-70 幕間・双子エルフの幼少
・イフリンとディーヌの幼少
エルフの国――マルファルス聖王国、国境の街ミリアにエルフでは珍しい双子の子供が産まれました。
精霊教の敬虔な信徒であった父親は、双子の髪と瞳の色に合わせて名前をつけます。
赤い髪の女の子には、火の精霊・イフリートンにちなんで『イフリン』と―――。
青い髪の女の子には、水の精霊・ウンディーヌンにちなんで『ディーヌ』と―――。
「おとうさま、イフリートンさまはどんな精霊なのですか?」
幼いイフリンがそう訊ねると、父は優しく答えます。
「イフリートン様は火の精霊様です。水を暖めるにも・・・料理をするにも・・・火のお力を使います。人々の生活に欠かせない偉大な精霊様です」
「おとうさま、ウンディーヌンさまはどんな精霊なのですか?」
幼いディーヌがそう訊ねると、父は笑顔で答えます。
「ウンディーヌン様は水の精霊様です。水がなければ人は生きられません。作物を育てるのにも必要です。人々の生命に欠かせない偉大な精霊様です」
幼い双子はそう語る父を尊敬し、偉大な精霊様を信仰することにしました。
父に偉大な精霊様の魔法を習い――その力を使って料理を作る。
食卓に並んだ娘達の料理を見て喜ぶ母と――そんな母に微笑みかける父の姿。
楽しく――穏やかで――幸せな日々―――。
けれどそんな生活も長くは続きません。
双子エルフの父親は寿命を迎えて亡くなってしまったのです。
エルフは歳を重ねても見た目が変わらない種族。
自分たちの父親が高齢だったと母に聞かされてもなかなか納得できません。
唐突に訪れた父との別れ―――双子エルフは大変に悲しみます。
「お父様ならどうするでしょう」
ある日、母はそう言うと――首の前で手を三角の形にする精霊教のポーズをとります。
父との日々を思い出し、双子エルフは信仰に生きていこうと決意しました。
幼いイフリンは胸を張り言います。
「火の精霊・イフリートンさまはもっとも偉大な精霊さまです!」
幼いディーヌは腰に手を当て言い返します。
「水の精霊・ウンディーヌンさまこそもっとも偉大な精霊さまです!」
幼い双子は火と水の小さな蛇を作り出し――互いの魔法を相殺します。
周りの大人達はそれを見て驚き言いました。
『幼い頃からこれほど魔力コントロールが上手いなら、きっと将来は神官兵だね』と。
しかし、そうはなりませんでした。
双子エルフには才能がありすぎたのです。
双子エルフの成長とともに魔法の規模も大きくなり――喧嘩の余波でとうとう公共物を破壊します。
当然それは犯罪で――仲良く二人で奴隷落ち。
そんなに元気があるのならモンスターでも倒しなさい、と冒険者として働くことに―――。
お目付け役の女性の衛兵と共にダンジョンを訪れた幼い双子を見て冒険者たちは驚きます。
「おい、いくらなんでも早すぎるだろう」
「そうですよ。何をしたか知りませんが死んでしまいますよ」
奴隷の首輪から双子エルフが労役の最中だとわかりました。
しかし、いくらエルフでも10歳でダンジョンには入りません。
「この二人なら大丈夫です」
女性の衛兵はそう言って――双子エルフと転移の円に入ります。
心配する冒険者たち――けれど、どうすることも出来ません。
転移の先――ダンジョンの中で遭遇したのはスケルトン。
ディーヌは水球の魔法を放ちます。
その速度――威力は大人顔負け。
20体いたスケルトンは何も出来ずバラバラに。
女性の衛兵は冷や汗を流します。
次のフロアで現れたオーク。
イフリンは火球の魔法を放ちます。
その熱量――威力は大人顔負け。
5匹いたオークは何も出来ず焼け死にます。
女性の衛兵は頬を引きつらせ言いました。
「もう充分です。帰りましょう」
最初こそ心配した大人の冒険者たちも双子エルフの魔法を見てドン引きです。
ダンジョンではいくら強い魔法を使っても咎められることはありません。
双子エルフは冒険者という職業を気に入りました。
元々ポーション作りを仕事にしていた双子エルフの母は、娘達を心配し冒険者ギルドに勤めることに―――。
親心を知ってか知らずか―――市場に出て装備を整える双子の姉妹。
母から引き継いだキレイな足が見える短いローブとスカート、髪色に合わせたソックス――父が読んでくれた絵本に載っていた魔法使いの帽子と露店で売られていた木製の安い杖。
杖には魔法刻印もなく――持っていたところで意味はなく――けれど双子は気に入り買うことにしました。
彼女たちに魔法武器は必要なかったのです。
冒険者ランクも上がり――中級階層で現れたのは豚鬼重戦士。
イフリンが火球の魔法を放っても――大きな盾で防ぎます。
「ブヒブヒ」と笑う豚鬼重戦士たち。
「偉大なる火の精霊・イフリートン様、どうかお力をお貸しください!!」
イフリンが叫び杖を掲げると――2メートルの炎の槍が20本生まれ――豚鬼重戦士を囲みます。
「ブヒ?ブヒブヒッ?!」と驚く豚鬼重戦士たち。
20本の炎槍は豚鬼重戦士の首を斜めに突き刺し――体の内側から焼き殺しました。
「あれでは魔石が取れませんよイフリン」
ディーヌが苦言を呈します――しかし一言多く。
「やはり水の精霊・ウンディーヌン様こそ最も偉大な精霊様ですね」
魔石が取れないのは事実――ですがイフリンは言い返します。
「・・・装備は売れるでしょう。イフリートン様のお力あればこそです」
次の小部屋で現れたのはビッグスライム。
ディーヌが水球の魔法を放っても――効いている様子がありません。
「偉大なる水の精霊・ウンディーヌン様、どうかお力をお貸しください!!」
ディーヌが叫び杖を掲げると――2メートルの氷の槍が20本生まれ――ビッグスライムを囲みます。
20本の氷槍はビッグスライムを穴だらけにしました。
「あれではスライムの皮が台無しですねディーヌ」
ここぞとばかりにイフリンは言います。
「やはり火の精霊・イフリートン様こそ最も偉大な精霊様ですね」
スライムの皮が穴だらけになったのは事実――ですがディーヌは言い返します。
「・・・魔石は売れるでしょう。ウンディーヌン様のお力あればこそです」
ダンジョンを進み現れたジャイアントスケルトンを火球と水球の魔法で倒し――とうとうたどり着いた上級階層手前のフロアを守るのは骸骨騎士。
2メートルを超える長身、左手にはヒーターシールドを持ち、右手にはロングソード、しっかりと着込んだ鎧と兜。
その兜から見える髑髏と眼窩からは漏れる魔石の赤い光はとても不気味でした。
けれど双子は怯みません。
杖を掲げて火球と水球の魔法を放ちます。
骸骨騎士は飛んでくる火球を盾で防ぎ、水球を剣で切り落とします。
炎槍と氷槍を生み出すも――巧みな動きで躱されます。
今までのモンスターとは明らかに違うその実力―――しかし、双子エルフには関係ありません。
「偉大なる火の精霊・イフリートン様、どうかお力をお貸しください!!」
「偉大なる水の精霊・ウンディーヌン様、どうかお力をお貸しください!!」
そう言い双子が杖を掲げると、炎と氷の大蛇が生まれ――骸骨騎士を挟撃します。
骸骨騎士が巧みな動きで躱しても――大蛇は執拗に追いかけて――遂に骸骨騎士を捉えます。
骸骨騎士に氷の大蛇が巻き付き動きを封じ――炎の大蛇が頭から飲み込みます。
(きっとまだ死なないでしょう)
双子エルフは容赦なく――火球、水球、炎槍、氷槍を放ち続け――骸骨騎士は見るも無残な姿に―――。
いつの間にか出世してギルドマスターになっていた母の――上級階層へ入ってはいけません、という言いつけを守りダンジョンを出ます。
街ではポーション作りを母から学び――ダンジョンへ通いモンスターを倒す日々―――。
ポーション作りのために薬草を森で採っていた双子は、幼いエルフを保護します。
ソーニャという名の幼いエルフは、なんと森エルフの集落に住んでいるエニュモルマルファルス教徒だったのです。
「おなかへった・・・」
ソーニャは空腹を訴えました。




