動く人形 終
その日から毎日のように俺の部屋内でセレジア人形が動くようになった。
ダンテに問いただすも、
「はぁ? 何言ってんだ?」
と言った風に流される。
フレインはあれからビクビク度が増して、本当に小さなことでビクッとしたり、《排他》を発動したり、《加速》を使って逃げるようになった。
俺もぐっすり眠れなくなった。イミナを使わないようにして、グリシンやテアニンをよく飲むようにしてるが、セレジア人形が気になって、中途覚醒が多くなった。
日中でも、どっかのビビりみたいに、常に気が張ってる状態になった。
そして…………
フレイン人形を動かすドッキリをしてる余裕がなくなったから、セレジア人形が動き出してから4日目にドッキリをやめた。
<4日前、人形が動く原因がジュリアだと判明してすぐ>
フレインはジュリアの部屋の上の部屋のインターフォンを鳴らした。緊張するフレイン。
「はい」
内側から扉が大きく開き、部屋の主が出てきた。
レイナ・ハン大尉。30代女性の身術士、戦闘員である。物腰柔らかそうな表情と安心感を周りに与える包容力を感じる綺麗な女性だ。
「突然失礼します! お願いがありまして、訪問させていただきました!」
「あ、フレイン・イクスクル少尉ね。噂は聞いてます。初めまして」
レイナ大尉は握手を求めてきた。フレインはすぐに自分の名前が出てくることに驚きながら、
「光栄です」
と答えた。
フレインも右手を出し、レイナと握手をした。レイナの笑顔にフレインは安心感を覚えた。
「お願いについてなのですが……」
「下の階のジュリア・ブール少尉についてでしょ」
「は……はい!」
「前も、セレジア・アンデルスタ中尉が来たこともあるよね。まあ、上がって」
レイナが言っているのは、刀を奪われたフレインがセレジアと一緒にジュリアの部屋を襲撃した時のことだ。セレジアはこの部屋の窓から下の階の窓を蹴破り侵入した。
フレインはレイナの部屋にお邪魔し、これまでの経緯を説明した。
「大丈夫よ。いつでもこの部屋に来てもいいから。それよりも、ジュリア少尉の行為があまりにもフレイン中尉を追い詰めているなら、必ず言って。私が絶対なんとかするから」
「は……はい!! ありがとうございます!!」
フレインは人に優しくされることが久しぶりなせいか、涙が出そうになりながら、大きな声で返事をした。
フレインはレイナの部屋の窓からロープを下ろし、素早く1階分降りる。
そして、ダンボールで塞がれてる部屋の窓の隙間に目を近づけ、中を確認する。
そこには、デスクに置かれているセレジア人形が割と近くに、はっきりと見ることができた。そしてベッドで寝息をたてて寝ているジュリアも確認できた。
「セレジア、人形さん……ごめんなさい……」
フレインは《操作》を発動させ、デスクの上から人形を床に落下させた。人形が落ちる音も気にならない程度のもの。ジュリアが起きる気配は微塵もなかった。
フレインが行ったのはたったそれだけだった。すぐにレイナの部屋へ戻り、感謝の言葉を言った後、アウラの部屋へ戻った。
その後は、ジュリアが起きたであろう時間にフレインは部屋へ戻った。カメラがある関係、もちろんフレインは人形が動いたことに動揺するそぶり、演技をした。それはその時だけではなく、ジュリアに会うたびに、疲れて、余裕のない演技を続けた。
さらに、毎日レイナ大尉の部屋へおもむき、同じことをしてジュリアの部屋にあるセレジ人形を動かす小細工も継続した。
おかげで、4日目にはフレイン人形が動くドッキリが止んだ。
「はぁ…………なにやってるんだろう……」
フレインは虚しさを感じながらため息をついた。