動く人形 中編5
フレインはふと人形が置いてあるデスクに視線を向ける。
人形は寝る前の状態と変わりなかった。フレインはホッと胸を撫で下ろした。
ただし、もう一度、目を瞑る勇気が出なかったのか、フレインは眠い目をこすりながら、ベッドから起き上がった。
<兵舎棟廊下0911時>
フレインは2日後に実行される作戦のブリーフィングに向かうため、廊下を歩いていた。
「おう、フレイン」
似た文句をジュリアもダンテもよく使う。だが今回はジュリアより声が低いダンテの声だった。
「……おはよう」
「どうした眠そうだな。イミナでも一発打ったらどうだ?」
「戦闘中じゃないんだから……。なんか夢見ちゃって」
「また(傷つけた敵兵を)数えてんのか? 難儀なやろうだ。根本が軍人向きじゃねえんだよ」
「まあそれはいいとして……。今日の夢は人形に追われる夢だった」
「昨日の件か? 結局誰が作ったんだよ、あんな無価値なコピー品」
「それが……ジュリアの部屋に人形はなかったみたい……」
「あん? ってことはあれがモノホンか? 誰が動かしたんだ?」
「それがわからなくて困ってるの。なんか……席を話すと体勢がかわってることもあるし……」
「何言ってんだ?」
「…………」
ダンテの反応にフレインは反応しなかった。至極当然の反応。信じてもらえるわけはない。
「まあ、あいつのことだから人形に動く仕掛けでも入れてんじゃね?」
「それならダンテのところに依頼があるんじゃない?」
「あいつが俺に何も言わずに何かすることは全然あることだ。俺はあいつのお袋じゃねえんだぞ?」
「うーん……。あ、そろそろブリーフィングだから……」
「おう、今回の任務は何人傷つけるかな?」
「……やめてよ…………」
<フレインの部屋1030時>
ブリーフィンが終了し、フレインは自室に帰ってきた。やっぱり気になるのは人形の様子。
デスクの上にある人形……
……あるはずの人形がデスク近くの床に落ちていた。
「えぇ…………」
フレインの顔がみるみる青ざめていく。
「どうしよう……ちょっとわけがわからなくなってきた」
フレインは人形に近づくことなく、そのまま部屋を出て行った。