天使な彼女と魔力タンクな僕
眩しい。最初に感じたのは、それだった。自分が何者で何処でどう過ごしてきたかが思い出せないことや、体の感覚が無い事に対する不安よりも、先にそう思うのは、記憶がないけれど流石僕と言ったところだろうか?
「全員、目が覚めたか?」
真っ白な空間の中には、僕の他に、沢山の光の玉と、一人のおじいさんが居た。不安そうに揺れていた光の玉は、おじいさんの声でその揺らめきを止めた。僕も、おじいさんの声を聴きおじいさんの方を見る。
「お主らは、死んで前世の時分での記憶を消された魂じゃ。」
“じゃ”ですか、今時そんな言い方するご老人なんているだろうか?いや、いない!
…ごめんなさい、一度言ってみたかったんです。
って、そうじゃない。どうやら、僕は死んだらしい。まぁ、だとは思っていた。
「本来ならお主らはそのまま、説明なしで転生される予定なのだが、お主らが転生する世界はちょっと危なくての――。」
へ~、危険ですか。そうですか。
転生する世界ですか。そうですか。
うん。行きたくない。僕は平和に過ごしたいんだ!
「そこはな、魔法有り魔物有りの御伽噺みたいな世界での――。」
はいはい。テンプレですね。テンプレ世界転生ですね。
どうでもいいけど、どうやら“自分という物”が分からないだけで“僕の魂”が覚えていることは、消えていないみたいだ。例えば、剣の達人がその技術は覚えているみたいな、そんな感じ。分かりにくいかな。
簡潔に言うと、僕のオタクとしての知識の中で、僕と言う“個”を形成しえた情報が消されて、僕と言う“個”に対して意味のない前世での常識や知識は残っているみたいだ。
そう言っても、消す消さないの境界は曖昧で、実際に穴だらけだがオタク知識は、僕の魂にある。
「そこで、お主らには“守護天使”と共にその世界で、十三の天級ダンジョンのダンジョンコアを破壊してきて欲しいのだ。」
おっと、僕が一人で考えている間にお話が進んでいたみたいだ。えっと、待って。天級?ダンジョン?コア?破壊…?あー、無理です~。僕にはそんな明らかに危険なことで来ません。
「勿論、守護天使だけじゃなく、お主ら自身にも強力な力を与える。」
強力ですか。チーレムですか、作っちゃいますか?
「力は選択可能だからの。守護天使と相談して、決めるといいだろう。ではの。」
おじいさんがそう言うと、僕の視界は真っ白になってそれが収まると、目の前に金髪の天使が居た。
…。変なお薬は飲んではいません。うん、僕はおかしくない。…。おかしくない。
「大丈夫?」
童顔な天使に見惚れていたら、そう声を掛けられた。ちょっと色っぽいと思いました。は!こ、これがギャップ萌か!(違います。)
「君が可愛くて、見惚れていたよ。」
ふっ。決まった。
「キモい。頭、大丈夫?」
ふっ。決まった。
もうダメぽ。おうち帰る。
「ウザい。大丈夫?」
暴言吐くか、心配するかどっちかにしな…、は!これが、ギャップ萌か(違う←二回目)
さて、ウジウジしてても話が進まないし、気になっていたことを聞いてハーレムをするか。(現実逃避。)
「君が守護天使?」
「そう。あなたの天使。」
「ああああああああぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「煩い。大丈夫?」
「もう一回!!ワンモア!!」
「煩い。くたばれ。」
「それじゃないし!そうじゃなかったし!」
「煩い。大丈夫?」
「そうだけど、そうじゃない?!」
ああ、可愛い。可愛いよ~俺の天使ちゃん!!
―――少々お待ちください。――――
「ごめん。取り乱した。」
「ん。キモかった。」
「もう、その暴言でさえご飯を食べれる!」
「ホントキモい。」
人形みたいに、表情があんま変わんないけれど、それが良い!!おい、白米を持ってこい!!
「さて、親睦を深めたところで、気になってたんだけど守護天使って何?」
「話、聞いてた?」
「可愛くない爺の話なんて、聞いてないです。」
「…。」
「おうおう、聞いてなかったのは悪いと、ええ、本当に悪いと思っているので、無言で指鳴らすのは止めてください。なんでもしますから!!」
「何でもする?」
「はい!!なんでもします!」
「そう。」
ふぅ。怒りを収めて頂いたな。我々の勝利だ!!(謎の複数。)
なんとか、怒りを鎮めてくださった俺の天使たんに改めて説明してもらった事を要約すると
・俺が転生する世界にはダンジョンがある。
・ダンジョンには、天級、上級、中級、初級の四種類がある。
・天級ダンジョンは存在するだけで、その世界のエネルギーを大量に消費する。
・エネルギーを外部から与える道を作るために、新たに転生する魂に守護天使を同行させる。
・エネルギーを外部から与える道を作るために、守護天使付きの魂が長くいてくれるといい。
・できるなら、天級ダンジョンコアを破壊してくれるならありがたい。
「…気になったんだけど、いいですか?」
「敬語キモい。何?」
「…。」
「何?」
俺の天使たん、マジ天使。どのくらいかって、爺さんが1天使だとすると…ダメだ。可愛さが天元突破した。
「何?」
あー、癒し。ここが天国か!
「何?」
そろそろ進まないと、また怒られるな。
「え~と、天級ダンジョンだっけ?それって神様が直接破壊しにはいけないの?」
そうなのだ。どうやら、あの爺さんは神様だったらしい。説明されてたらしいが、たかが1天使じゃ聞く意味も無いな!
「それはできない。神には神のルールがある。」
ふむ。
「今回のこれもかなりグレー。」
ふむ。可愛い。はっ!違うんです。違うです、俺はロリコンじゃなくて天元突破した俺の天使たんが天使たんであるからして、これは天使たんが天使たんであるから起きた事故だったんだ!名推理やろ?どやぁ。(違う←三回目)
「さっきの約束。」
「…。」
さっき?何ぞ?
「何でもするって言った。」
「うん。俺は天使たんの為ならなんでもするぞ。」
き、決まった!今度こそ決まったやろ!
「じゃあ、貰う力は、これにして。」
ですよねー。スルーですよねー。
はぁ。因みに天使たんの手には、一冊の本を開いてこちらに見せてくる。そこには“魔力タンク”とかれていた。見開きで変な文字がたくさん書かれているが、“それ”だとしか読めない。
読めるかどうか、まぁ置いておこう。
どうしてか聞いてみると、守護天使は転生に同行する場合実体が無いらしく、同行するパートナーである魂を持つ“モノ”でしか触れられないらしい。
そうは言っても、守護天使は実体がないだけで、独自の魔法は使えるので問題は無い。ただ、俺の天使たんは、“物理特化”なのだ。そう、“物理特化”。脳筋天使たん!!
そうして、魔法よりも物理な天使たんがいるように、それをカバーする方法として、守護天使はパートナーが魔力を“供給し続ける”ことで、実体をもつことができるらしい。
「つまり、僕が天使たんの魔力タンクになれば良いってこと?」
「そう。ダメ?」
そう不安そうに小首を傾げる天使たん。記録媒体が無い事を今程悔やんだことは無いよ。せめて記憶に残そう。今度こそ消されない様に。
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