第一条【ノックの仕方は第三条】
【ルームメイト協定書】
〔鳳 二三〕(以下「二三」という。)と〔田中 一〕(以下「一」という。)とは、ひとつ屋根の下で暮らすにあたり健全かつ健康にお互いの生活を送る事を目的として、二三が一に対して委託することについて、次の通り合意する。
「一!一!!はーじーめー!!!!!!」
甲高い声とドアのノックに起こされる。まだ寝ていたいが三回ノックしてから相手の名前を呼ぶ、これを三セットしてるということは緊急事態なのだろう。このまま無視しても僕の部屋の外で一日だって立ち尽くして待つような人間なのでしぶしぶベッドから立ち上がる。そのままのそのそと歩きため息をつきながらドアを開ける。
「なに?」
「ルームメイト協定第3条!!部屋にいるルームメイトを呼ぶときは三回ノックした後名前を呼ぶこととする!」
「そうだね。」
「ただし!これを三回すると緊急事態とみなし呼ばれた人間は即座に応答することとする!!!」
答える間もなく続けて言う。
「いま三回したのに一はドアを開けて応答するまでに30秒もかかった!!緊急事態なのに!!ルームメイト協定違反!!」
「ああ、そうだね。だとすると二三はいつも緊急事態だ。」
僕の前にふんぞりかえって仁王立ちしているちっこいのは鳳二三。僕と同じ高校2年生だ。特徴は、かなりの頭でっかち。成績は優秀なのは確かだけどそれにしてもかなりの頭でっかちだ。
「で?朝から大騒ぎするほどの緊急事態とは何?」
緊急事態ノックをされて緊急事態だったことがまずないけど。
「聞いてくれ一!二三の朝食のイングリッシュマフィンがトースターで3分かけても十分に焼けないんだ!」
ほらね。大したことじゃない。そう心でつぶやき僕は至極当たり前の返答をする。
「なら5、6分焼けばいいじゃないか!」
「それはダメ、イングリッシュマフィンは3分で焼かないと!」
「なんで?」
「3分で焼かないといけないの!さっき説明した!!!」
「ならどうするのがいいんだ?」
「イングリッシュマフィンが3分で十分に焼けなかった原因はおそらくトースターの劣化だろう。なら解決方法は一つ、同じ製品を購入することだ!!」
「そうか、今から行くのか?」
「まさか、今から行ったら確実に学校に遅刻する。行くなら放課後だ。そんなことも分からないのか?今朝は緊急事態用のチョコチップメロンパンを食べることにするよ。」
結局何が言いたいんだ。と言う前に彼女はぶかぶかの制服袖を振り回しながら去っていった。どうだろうかこの面倒くささ、並大抵の人間は彼女を避ける。そう、僕が一つ屋根の下で暮らすルームメイトは超ド級規格外の『変人』なのだ。
「はぁ、僕も支度しよ。」
言った後にもう一度ため息をついて僕は自分の部屋に入った。