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サボリーマン珍太郎   作者: ケリーバーン
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第21話 酒場の甚さん

焼き台の煙立つ大船酒場、IPHONEには珍太郎の書いた一枚のイラストが映し出されていた。


「いや、これ凄いね。。

すごく寂しいのに、何か希望を感じさせる、そしてそれが音楽である事を暗示させるようなデザイン、

このまえジュエルが言ってた希望を持って生きるというテーマにぴったりかもしれない。

実はね、Without…はメロディとコードだけあってね、ひかる物はものすごくあるのだが、

それが何なくしてかが不明瞭でね。

バラードかはてはロックかを決めかねていたんだよね。」


シェリーは興奮気味に焼酎をグイッと飲んだ。


「でも、これを見ているとやっぱりスピードがある曲なんかな。

チャンスっていうのは、バッと掴まないと、過ぎていってしまう物だから。。


それにしても非常に気分がいいな、ホッピーにするけど、珍ちゃんは?」


「メガ霧がまだなくならないからね。。とりあえず飲んどるよ。」


シェリーが大声でホッピーを頼むと、にやにやした作業着を着た角刈りのおっさんが声をかけてきた。


「大友君!今日も元気に飲むね!

来たら、乾杯しよう、珍太郎もね。」


いつの間にか、シェリーもこちらの常連になっていて、共通の知り合いも増えてきた。

ホッピーが供されると角刈りのおっさんが刺身と酒をもって、カウンターを移動してきた。


「今日のブリはうまいよ!俺からの差し入れだ!

乾杯!」


「あっ、甚さん!乾杯!」


珍太郎はメガ霧をぐっと飲み込み、ブリを一切れ頂く。

とろけるような旨味、ブリは濃厚であるほど、臭みの危険もあるが、

このブリは新鮮そのもの、とろける脂の旨さだけがあった。


「うんめぇ、これ!」


珍太郎は思わず口に出した。


「おりゃあな、大工稼業が長いんだけどよぉ、

大工ってのはな、実はうめぇもんを知ってんだ。

俺たちゃ、現場が変わるたびにな、何か月かいるからよぉ、

その現地のうめぇもんを食べつくすってわけだ。

ずっと同じとこにいるやつよりゃ舌も肥えてるってもんよぉ」


甚さんはいつも現場が終わると、大船酒場で相当量を飲んで帰る

ブルーカラー系飲兵衛だ。


珍太郎のようなサラリーマンだと関わる機会が少ない分、

飲んでて楽しい人種であった。


「なにぃ??絵見てんのか、珍ちゃん書いてるって言ってたもんな。

いいじゃねぇか、ポカソみたいだよ!

ガッハハハハハ!!」


「ピカソですよー!!甚さん!

しかも全然ちげえじゃん、ピカソとさ!」


みんなで大笑いした。


「でも、おめぇらいいよな、好きな事あってよ!

俺は働いてクソして、酒飲んで寝るだけってもんよぉ!」


甚さんは日本酒を飲みながら、言った。


「それだけでもうけもんよ!」


気づけば、また別の常連のところに行ってしまったようなので、

再びジャケットの話に戻った。


「シェリー君、俺はね、やっぱり君らに欠かせないものは音楽だと思うんだよね。

それでいて、Musicってなんかダサいじゃん、メロディにしたらいいと思う。

Without A melody

歌詞のテーマはなくしてしまったメロディを取り戻す、

もしくはなくしたはずのメロディが今再びみたいなさ。


俺も君らのライブに行って、なんか絵に対する情熱を取り戻したみたいなんだよね。

書いてたら、やっぱりこれしかないなと思った。」


珍太郎もひさびさに熱くなる。


「なるほどな、、俺は珍ちゃんに説得されたよ。

スピード感のある8ビートに、この世界観で歌詞を載せれば、

すごくいいものができるはずだし、作品もピリッとしたものになりそうな気がしてきたよ。

俺の方で曲をアレンジして、ジュエル達に持っていってみることにするよ。

ありがとうな。」


シェリーも非常にうれしそうだ。


「珍太郎、実はな、、

俺も音楽業界に勤めているんだが、仕事の為にアーティストを売っているような事に罪悪感を感じるんだ。

金の為に、女を売りとばすような、アイドル産業。

自分の仕事に俺は誇りを持てないよ。」


シェリーは珍太郎と酒に気を許したようで、自分の話をしはじめた。


「俺も自分の仕事に誇りなど持ってないぜ。

それにむしろ羞恥心がなかったら、のうのうと生きていけるのになと思う。

酒を飲んで、快楽に堕落して、最低限日々の糧だけを得ればいいとな。

事実、サラリーマンの多くはそうなんじゃないかって思うぜ。

世界規模で考えれば食えてるだけでもうけものだし、、恵まれてると思うよ、俺たち。

だけど、俺もそうだが、、、

世の中に対して、この俺がいるんだ!と誇りを持って言えるような何かが欲しいと思ってる。

だからNo Ruleをやってるんじゃなぁないかい?」


珍太郎が答える。


「そうだな、このクズみたいな人生を打破する唯一の方法がNo Ruleを成功させる事なんだ。

それ以外に自分の価値を肯定できる何かなどありゃしない。

ロックをしていないと、たぶん何もないんだろうな。」


シェリーはホッピーを飲み、心の奥底の何かが露呈され始めていた。


「俺もまだ具体的な何かを掴んだわけじゃない

具体的なプランや方法が明確化されているわけでもない。

けれど、かならずこのサボリーマン人生から抜け出して、

また描ける、描く事で貢献できるような仕事をしたいと思っている。

安倍総理じゃないけど、、芸術を取り戻すんだ!」


珍太郎も失われたホッピーを取り戻し、元気だ。


「とにかく、頑張る為にも飲もう!

傷ついた誇りも人生の疲れも、安酒にながそうぜ!!」


シェリーと珍太郎に友情が芽生えていた。

彼らは似た者同士だったのだ。

傷をなめあうように酒場へ通い、人生の傷にアルコールを塗っていたのだ。

その痛みは麻痺しているだけで消えない。

しかし、人生に対し抗う事、どうしようもない何かに牙を剥く事

その戦いをつづける為に、友は必要なのであった。


珍太郎は友を見つけつつあった。

暗い森は光をあてると、シェリーや甚さんがいた。

そして大島さんがいた。


MDや栗原さんも友になるかもしれない。


暗い森の中、珍太郎はたった一人座り込んでいるアル中ではなかった。

少なくとも、寄りそう友との飲み会であった。


この物語は呪いを解く物語。


友の存在を認知しただけで、珍太郎にとって第一段階はクリアである。


甚さんが大声で笑った。


「明日は明日の風が吹くさ!トリアエズノモーゼ!!」


今日も酒気を帯びた風がオープンエアの立ち飲みに優しく微笑んでいた。



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