第19話 without...
土曜日の昼下がり、珍太郎は目覚めた。
練馬の街は小雨が降っていて、ちょっと飲み屋に行くには気だるい。
iPhoneを取り出し、ゴロゴロしながら、LINEを整理する。
まずは彼女に寝てたとLINEする。
そして連絡先を整理する。
MDや一秀、栗原さん達の連絡先もある。
人間使ってるスタンプが結構人間をあらわすものだと感心する。
MDと一秀は可愛くないトラのスタンプを使っている、そして栗原さんはドアラだ。
そして一通りの連絡を終えると、珍太郎は夢の内容を整理し始めていた。
アーティスティックな世界を志向するあまりに、そこから外れるような事が心の傷となった。
そしてその生き方から逃げる事が呪いだと、あのマルムスティーンは言いたいわけなのだ。
呪いをとくには書く事。
うーん、俺は描きたいだろうか?
人間というのはしばらく物事から離れてしまうと感性が鈍り物事を思い出せなくなってしまうものだ。
しかし、それをツールが思い出させてくれる事を珍太郎は本能的に知っていた。
飲んでばかりで眠りきっているデスクトップに電源を入れると慣れた手つきでアプリケーションを立ち上げる。
そこには丁寧に分けられたいくつものファイルが存在していた。
珍太郎はテンプレートのようなファイルを立ち上げるとペンタブを走らせた。
まさに本能のままにペンは走った。
フクロウがいる少し幻想的な森が書きあがってゆく。
いくつかのテンプレートを器用に混ぜながらも、勢いよくGoogle検索でアイデアを探し、森は息をし始めていた。
それは暗い森だった。
気づけば珍太郎が夢に見たあの森がスクリーンに映し出された。
そう、これこそが俺のやりたい事だ。
想いを映し出す、それは時に非難や中傷、自己を否定される事に繋がるかもしれない。
しかしながら、他者のために自分自身を捨てるなど、多分愚か者のやる事だ。
俺は自分らしく生きたい。
森の中には影のようなものがいくつか描きだされていた。
そこには灰色の字でfuckやshitなど、細かく怒りが記されていた。
珍太郎の心の空虚と怒りが1枚のイラストとなった。
そのネガティブな塊に、一本の光の筋をいれた。
そして音符のロゴをいくつか描きあげる。
そうこれは彼等が欲していた最後のピース、それを持っていたのは俺だったんだ。




