第11話 ファッション
最近、世の中は喫煙者に厳しすぎると思う。
それなりにタバコを吸う珍太郎は常々思わされるところである。
「ライブハウスが分煙なんて、ロックもパッケージ化されたものですね。」
MAD新宿のロビーで背中を丸めながら珍太郎は言った。
「音楽はな、時代の進化に伴ってサウンドはヘビーになっとる。
アニソンとかのほうが、レインボーやブラックサバスよりヘビーや。
だけどな、心がない、精神がないんや。
このMAD新宿なんて言うのは、名ばかりのロックというファッションや。
タバコも吸えへんなんてな。」
大島さんはハイネケン片手に悲しそうにタバコを吹かしている。
「その点、No Ruleってのも、もしかしたらそうかもしれませんね。
シェリーってやつは相当頭の飛んだやつに見えましたけど、
近頃のバンドはうまいばかりでロックを感じないっすからね。」
「珍ちゃんはわかっとると思うが、ロックっつうのは反抗や。
反逆の精神、世の中の理不尽や、締め付けに対し、NOを突き付けてな。
自分は自由や、やりたい事をやるんや、そういう気持ちを貫き通す為の、
力の源、そして勇気を奮い立たせるもんや。
せやから、サウンドがヘビーになってくるのは必然や。」
珍太郎は、ジャックソーダを一口含むと、そのあとの答えあわせをした。
「前提をなくしたヘビー等、ただのファッション、抜け殻ですよね。」
そうこうしてるうちに、フロアではバンドの演奏が始まっていた。
No Ruleはまだ出てこないようだが、とりあえず様子を見てみる事にした。
Gibsonのレスポールを持ったさわやかな青年と
背が高めのクールビューティっぽいお姉さんベーシスト、
ドラマーは良く見えない。
ニッケルバックのようなシンプルなリフベースの楽曲に、
メロコアのサビをくっつけた様な音楽、
ライブハウスでは定番の音楽性だなと珍太郎は思った。
音楽をプレイしていない珍太郎は
彼らを悪く言う資格はないと自分で分かっていたが、
曲を聴いた後に、何も残っていない、
そういう事は自分の中のロックの琴線に触れてない事はよくわかるのだ。
それは仕事と同じだった。
珍太郎も大島さんも仕事が自分達の琴線には触れていないのだ。
それをやる事が人生を精神的に満たす事には繋がらない。
働く事、そして金をもらえる仕組みに含まれてる事は生きる為に大切な事だ。
そんな事は珍太郎達も良く知っている。
けれど、自分のやっている事、時間を使っている活動にやりがいや、
生きていく目的を同期させる事なくして、人生を充実させる事はできないのではないかと、
心に問うているのだ。
そういった事に対するふつふつとした怒りや、
自由になりたい、もっと満たされたい、そういった気持ちを代弁し、
さらに言えばサボリーマンである自分の憤りや
贖罪の意識を優しく撫でる母のような心地よさも含んだ形で、
心の救いになってくれる、ロックとは、まさに心の支えであるのだ。
従って、ロックに対する基準はやたらと厳しい。
「何も伝わらへんで、人工知能が作ったMIDIみたいや。」
大島さんも同じようだ。
「まあ次の次くらいにNo Ruleが出るみたいですし、気長に行きましょうよ。」
「せやな、コロナおごったるわ。」
花金の夜は、まだはじまったばかりである。




