第10話 外注管理室
オフィスビルの一フロア、数十人の老若男女が
プログラムの様なものをしきりに打ち込んでいた。
その中で、ノートパソコンをたまにカチカチとやるだけの気怠そうな男がいた。
ブラックシートが貼られた液晶を深く覗き込むと、そこには
インターネットエクスプローラーがうつっており、
大量のタブが表示されていた。
そのほとんどが、大衆酒場をレビューしているページで、
男は熱心にそれを見つめていた。
「今晩は、久々に足立区を攻めるかね、、うんうん。」
また画面の隅には、心なしか「外注管理シート」というタブがあり、
仕事をしている振りをすぐにでもできる準備をしているようである。
彼はもちろんムノさんとの一件で絞りかすほどのやる気すらも失った珍太郎であった。
珍太郎は大衆割烹南海で、No Ruleのライブに行く事に決めてから、
英気を養うために、体力を温存しておく事を即断した。
なので、今週は適当な理由をつけ、この「外注管理室」に半常駐する事にしたのだ。
珍太郎の所属する外注管理課は、外注業者が働く環境を作り、
正確にプログラム等を納品してもらう事を目的とした課である。
加えて、コンプライアンス上の理由で誰かが業務を監視している必要があった。
その為、あくまで仕事していることを前提に、課の社員が「外注管理室」に常駐する事となっているのだ。
表立っては、めんどくさい部屋だと誰もが口をそろえるのであるが、
このぐうたらな課の人間の本音は、ずっとこの部屋にいたいというものであった。
普段は週に一日しかいない事でスケジュールを組んでいるのだが、
珍太郎が担当している業者とグルになって、1週間ずっと入れるようにしたのだ。
珍太郎のパソコンはサボれるようなあらゆる工夫がしてある。
例えば、Windowsの付箋機能に仕事の内容を書いておいて、常に裏で表示させておく。
これをする事でスピーディーに仕事の内容確認をしているように見せる。
またインターネットの履歴削除は常に徹底されていた。
もちろんブラックシートは欠かさない。
こうした環境もあり、今日も珍太郎は趣味の情報集めに勤しんでいるのであった。
「いやぁ、、珍君、忙しそうやね。」
気づけば大島さんが机の前に立っていた。
「あっ、お疲れ様です、どうしたんですか。」
「うーん、備品の整理をしてるんや、二日酔いやとな、
机に吐いてまうわ。」
アルコール消毒液をまいたような臭いをさせているので、
言われなくても二日酔いである事がわかった。
「昨日はどこで飲んでたんですか?」
「田内さんとな、久々に田舎村いったんねん。
ほら、あっこの焼酎、たぶん大五郎や。」
「安いっすよね、あそこ。
でも場末ですよ、24時間やってるし、競馬好きのおっさんばっかじゃないっすか。」
「そうそう、質悪いやろ、酒の。
気づいたらな、近所のスナックいってな、、4時やった。。」
「あっ、大島さん、なんか耳から血出てますよ。」
内出血のあとのようなところからっ少し血がにじんでいた
「ほんまや!よく考えたら結構いたいねんな。
せや、まじやばいわ。。。。
バイトのちゃんねえのパイパイもんでしもうたわ。。
そのときのや。。
あかん、、、出禁かもしれんわ。」
「マジ半端ないっすねw」
ぺらぺらと喋ってるうちに、No Ruleの事を思いだした。
「大島さん、ミュージシャンじゃないですか?
なんか飲み屋で面白そうなやつにライブ誘われたんですけど、一緒に行きません?」
「おっ、ええで。
なんかSex Pistolsみたいな挑発的な感じでええな。
珍ちゃん、BAD BOYS ROCK’N’ROLLってしっとるか?
あんな感じもするねんな、久々にギター弾きたくなってもた。」
「知ってますよ、やっぱりMotley Crue、Hanoi Rocks、
日本ならZIGGYもかっこいいですよね。」
「せや、あほそうな奴らやし、ライブ見て、一杯しこんでまっか。
人気あるバンドやったら、ちゃんねえもおるかもしれんで、
ライブハウスのちゃんねえは露出度も高いのおるしな、
尻軽や」
「大島さん、、コンプライアンス
外注さんもいるんですから」
「あ、あかん、、やってもうた」
とにもかくにも心強い飲み仲間を得て、
週末のライブに行けることとなったわけだ。
「あと何時間サボれば、お正月。」
今日もくだらない歌を口ずさみながら、「プロ野球速報」を見始めたのであった。




