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サボリーマン珍太郎   作者: ケリーバーン
10/53

第9話 A secret between two people

ガラスケースに新鮮な海鮮がキラキラと光る店

上品な女将が、たこの刺身をこしらえていた。


その中で、30くらいの男が一人、ロックグラスをちびちびやっている。


言うまでもなく我らが珍太郎である。


少し考える事があるようで普段はあまり行かない店で、好物の富乃宝山を舐めるようにしているのだ。


今日の朝、ムノさんに吐いた一言はまさにトラブルを招いたと言う結果をもたらした。


珍太郎の発言の後、逆上したムノさんは言葉もわからないほどに大声をあげて珍太郎を罵った。


珍太郎の母はアル中で、酔っ払うと息子を怒鳴りつける、そんな母親であった為、ムノさんがいくら怒鳴ろうと、珍太郎には知ったことではなかった。


「やべっw」

と思って、舌ベロを心の中で出しながら、頭の中で昔やっていたRPGを思い浮かべた。


そこはミッドガル


エネルギーの独占を元に支配を広げる神羅カンパニーに対し、レジスタンス活動を行うバレット。

雇われる傭兵はクラウド、、


「この絵描き崩れのクズ」


それは珍太郎にとって、プライドの根幹を傷つけるもので、一言言われればもう許せない言葉であった。


珍太郎という男は温厚な人間である。

酒なしでは虫も殺さない男である。


だが、珍太郎は中学生に戻ってしまった。


中学の頃、わけもなく問題行動を続け、衝突する教師や輩どもと戦い続けた。

自己の証明ができないこと、縛られる不自由に対しての怒り、そんなものをわけもなく、吐き出していたあの頃。


いつの間にか筆を持ち、吐き出す杖を得た。

怒りを覚える事も、大人になる事、そして自尊心が満たされる事で、いつの間にか消えてしまっていた。


そう思っていたのだけど、あの日自尊心を失った珍太郎は大人の殻を剥がれてしまった未成熟成年であったのだ。


「言ったな、この使えないクソジジイ、てめえ周りから野村廃棄工場って呼ばれてる事知ってるかよ。

サンタクロースみたいな白髪しやがって、殺すぞ、おまえ!」


珍太郎は我を忘れてムノさんの胸ぐらを掴んだ。


もう少しで珍太郎の拳が入ろうとした時、ムノさんの拳が先に入った。


大の大人が殴れば、結果は見えていた。


珍太郎は情けなく鼻血を流していた。


そして、珍太郎の目には青ざめたムノさんが目に入った。


「悪かった、いろいろあったけど、手打ちにしないか

俺もおまえもまずいだろう」


そこからは二人きりの会議室が幸いし、紳士協定が結ばれた。


珍太郎にとってもムノさんにとっても会社としては相当にやばい事をやらかしてしまった事がスムーズな解決へと向かったのだ。


周りからは不自然なほどに仲良く過ごした2人だったが、やはり珍太郎の心の穴に深い何かを残したのである。


「俺、このままでいいのかな。」


そういう時は渋い店に行くものだ。


そういう時は、食べるものが欲しい珍太郎にとっては女将がやってるような大衆割烹と決まっていた。


普段より高い大衆割烹南海、安酒を好む珍太郎にも人と会いたくない。

けれど、心を開ける「お母さん」が必要だった。


「ママ、人は悩んだ時に、、どうしてもやりきれない時に、、」


「子供の頃、好きだった事をやればいいのよ、あんたみたいな酒飲みは名刺ケースにきっかけがあるかもしれないわよ。」


適当に名刺ケースを見てみると、先日大船酒場であったシェリーの名刺が出てきた


○月○日金曜日

19時〜

NO RULE

DEAD BLOOD HATE ROLLER

場所 MAD新宿


と書いてあった。


「お兄ちゃん、今目がキラッとしたでしょ。」


たしかに珍太郎の心を久々に刺激する何かがあった。


ライブくらい行ってやってもいいだろう。


久々に酩酊前に店をでた。


ふとつけたイヤホンから流れる忌野清志郎の声に珍太郎は昔読んだ本を思い出した。


「自分の両腕だけで食べていこうって人が、そう簡単に反省なんかしちゃいけないよ。」


妙に深く頷いた彼の胸にはRCサクセションの名曲、トランジスタラジオが流れていた。


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