栞に愛を
今日は貴方とお出掛けする日。
楽しみで楽しみで仕方なくて、昨日の夜から服装を選んだり、ほんとは、そわそわしてました。
いつもこんな感じだけど、貴方にそんなこと言えない。
だって……恥ずかしいもん。
昨日、すごく悩んで決めた服。紺色のワンピースに、白いレースの上着、それに青いお洒落なサンダル。
髪はいつもと一緒。梳いて背中に垂らすだけ。
女は支度が遅いとか、言わせないんだから。支度は早くできる自信があるのよ?
だって、貴方と出掛けるんだもの、早く行って、少しでも長く貴方と居たい。
……こんなこと、思ってるなんて言えないけどね。
いつもの場所、いつもの時間。
約束の時間より、1時間も早いの。ふふ、わたしのせっかちさん。
本でも読んで、待っとこうかなぁ……。
本を開き、ぼんやりと文章を眺めていたら、だんだん夢中になってくる。
あうう、章の最後で主人公が記憶喪失になっちゃった!
次の章が続きかなぁ、と思った矢先。
ふわり、と何か薄っぺらいものが、本の頁に滑り込んだ。
これは、
「……押し花?」
わたしの集中力が、ぷつりと途切れた。
可愛い、赤い花の押し花。なんて可愛いんだろう。
「お待たせ。待った?」
「ん? んー、待った」
私は押し花を、そっと持ち上げて、くす、と笑った。
だって、なんだか、照れ臭くなったから。
「綺麗なアネモネ」
そういうと、貴方も、ふわりと微笑んだ。
……急に笑うの、反則だよ?
「だろ? 従姉妹の女の子と選んだんだよ」
「……む」
従姉妹ちゃん……従姉妹ちゃんかぁ。
……もしかして、年下だったりして。貴方も、その可愛さにちょっとドキドキしながら、一緒にお花を選んだりして?
「……従姉妹ちゃん、可愛い?」
「え? うん」
やっぱり?
……なんだか意地悪したくなって、聞いてみる。
「……わたしと、どっちが可愛い?」
「ん? ……君?」
「なんでハテナなの」
わたしって言われたのは嬉しいけど! でも、でもなんか違うもの。
言わせた感がありありだわ。
貴方が、ちょっと、首を傾げる。
「……嫉妬した?」
「なぅっ?!」
なななな、嫉妬?!
「違うもん違うもん違うもん! 違うんだからっ」
「うんうん、そっか〜、可愛いなぁ」
「ち・が・う・の!」
「そうだねぇ」
「もぉぉっ、絶対信じてないでしょ!」
「はいはい」
貴方は、口許をおかしそうに緩めた。
「もうやだっ、今日お出かけやめる、帰るっ」
「え? 家にお邪魔して良いの?」
「違ぁぁぁうっ」
余裕綽々、という感じで貴方がわたしを見てくる。
もうもうもう! なんなの、さっき意地悪したお返しのつもりなの? 貴方の方がずっと意地悪だよ!
でもね。
貴方は多分、知らずに選んだんだろうけど。
赤いアネモネの花言葉は、「君を愛す」なんだよ。
偶然でも、これを選んでくれた貴方に。
今度はわたしが、四つ葉のクローバーで、逆プロポーズでもしようかな? ふふふ。