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徒然枕物語 肆  作者: 緋和皐月
6/16

君に栞を

 爽やかな色のジャケットに、黒いパンツを合わせて。

 君が褒めてくれた鞄を、肩に引っ掛ける。


 女は準備が遅いっていうけど……僕も君と出かけるときは、ちょっと迷うよ。


 ……と、と、いけないや、忘れ物してた。

 これだけは、絶対持っていかないと。


 さーてと。行きますか。

 君の待っている所へ。



 約束の時間、5分前。

 にも関わらず、君はもう、待ち合わせ場所に居る。

 木影に隠れたベンチに座って、木漏れ日を光に、本を読んでいる可愛い(ひと)

 1つに結った、艶やかな長い黒髪が、そよ風に揺れる。

 黒縁眼鏡と対極的な白い肌に映えるのは、ぷっくりとした紅い唇。

 可愛い可愛い、僕の君。


 読書中、下手に邪魔すると、君は1日中唇を尖らせて拗ねるから、気をつけなければいけない。……まぁ、拗ねる君も可愛いんだけどさ。


 でも、読書が終わるまでずっと待つと長すぎるから、僕はいつも、必殺技を用いる。

 君の読んでいる本を覗いて、話が一区切りつくタイミングを待つ。

 チャンスは1度だけだから、油断ならない。


 お? もうそろそろ章が終わるな?

 君が次の章の(ペェジ)をめくる前に、僕はスッと、右手に隠していたものを、頁と頁の間に忍ばせた。

 ふつ、と集中力が途切れた君の意識が使うのは、急に視界に飛び込んで来た、それ。


「……押し花?」


 鈴を転がすように愛らしい声が漏れる。

 もうそろそろ話しかけても良い頃合だろうと、僕はそっと口を開く。


「お待たせ。待った?」

「ん? んー、待った」


 君は、その白い手で押し花を優しく持ち上げて、くす、と笑った。


「綺麗なアネモネ」

「だろ? 従姉妹の女の子と選んだんだよ」

「……む」


 君のほっぺが、ぷぅ、と膨らんだ。

 ……あれ? 僕、なんかヤバイことでも言ったかな?


「……従姉妹ちゃん、可愛い?」

「え? うん」

「……わたしと、どっちが可愛い?」

「ん? ……君?」

「なんでハテナなの」


 ぷぅぅ、とほっぺを膨らませる君。

 まさかこれは、


「……嫉妬した?」

「なぅっ?!」


 あ、ほっぺが赤くなった。


「違うもん違うもん違うもん! 違うんだからっ」

「うんうん、そっか〜、可愛いなぁ」

「ち・が・う・の!」

「そうだねぇ」

「もぉぉっ、絶対信じてないでしょ!」

「はいはい」


 もう、やめて欲しい。嫉妬とか……ニヤけて堪らないんですけど。


「もうやだっ、今日お出かけやめる、帰るっ」

「え? 家にお邪魔して良いの?」

「違ぁぁぁうっ」


 顔を真っ赤にさせて怒る君に、僕はさらに追い討ちをかけた。

 ……好きな子って揶揄いたくなるんだよなぁ。


 ちなみに、従姉妹は幼稚園児なんだってことを、君は知らない。


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