京太と実美子
「スンスン…」
京太はべそかく実美子の手を引いて道を歩いていた。
泣き叫ぶ実美子をなだめて、少々強引に引っ張って智光の家を出る頃には、外はすっかり真っ暗になっていた。
帰り道、京太は何もしゃべらなかったが、階段でも電車でも実美子の手を離そうとはしなかった。
そんな京太に何かを感じたのか、アパートに着く頃には実美子は泣き止んでいた。
ガチャ
京太は自分の部屋のドアを開け、実美子の手を引き招き入れる。
「いや…」
すると京太の腕を引いて、実美子は玄関の前で立ち止まった。
「京太くん、部屋に来るなって言った…」
「もう、いいんだ実美子。俺が悪かった。だから…少し話しをさせてくれ」
「……」
その言葉に実美子は小さく頷き、京太が引くまま部屋へ入った。
すると、京太は突然実美子の前で土下座をした。
「ごめん!実美子、俺が馬鹿だったんだ。近すぎてわからなかったんだ!」
京太は頭を上げると彼女を真っ直ぐ見つめた。
「俺、実美子が好きだ。一緒にいてほしい。…こんな俺のことなんて嫌いか…?」
「…バカぁ!遅いんだから、ずっと待ってたんだよ…」
「ずっと…?」
「小さい頃からだよ…」
「え?だったら、お前こそ言ってくれれば…」
「言えないよ…。この関係が終わっちゃったら嫌だったし。京太くんは私と違って人気者で、カッコイイし。でも、私は全然ダメだし…」
「そんなことない!実美子は絵の才能あるし、人にない着眼点あって尊敬してるし…、可愛いし」
「もう…。ごめんね、京太くんにはいっぱい迷惑かけたよね。とくに大学入ってからは」
「んー、まぁな…」
様々なストーカーの過去を思い出し、京太は言葉を濁した。
「今までの事は、本当のこというと…全部京太くんに関係してるの」
「え?」
「大学に入ってからも京太くんは人気者だし、いつもまわりに可愛い女の子がいっぱいいるし…。だから、こんな格好までしてるんだよ?」
「え?」
「高校生の時に一緒に行ったイベントでゴスロリ風の人見て、京太くん可愛いって言ったから」
「…そうだったか?」
「だから、私その格好するようにした。色々面倒だけど頑張った」
「……」
「あと、ストーカーはね。前に同人誌ネタにつまった時に、これがきっかけで同人誌やめようって言われるのが怖くて…。私の画力を上げて、日常でネタになるものが見つかればって思ってやってたの。…同人誌やってる時が一番京太くんと一緒にいられるから…」
実美子は瞳を潤ませながら、顔を赤くした。
「私はいつも京太くんの言葉に振り回されてるんだよ」
「実美子…」
「私も…京太くんが好き、ずっと好きだよ」
「俺で、いいのか?」
「うん、京太くんがいい…」
京太は素早く立ち上がると、実美子を抱きしめて触れるだけのキスをする。
京太が離れると、実美子は嬉しそうに笑った。
「…やっと京太くんとキスできた」
「ん?」
「京太くん、今までキスはしてこなかったんだよ?」
「あぁ…そうだったな」
「じゃあ、これから嫌ってほどしてやるよ」
「…やんっ、京太くん、もうダメ…」
「くそぅ…、わかったよ」
唇がマヒするほどキスをされまくりながら、愛された実美子はようやく唇を解放してもらい、ベッドにぐったりしていた。
京太は上から退くと隣に横になって実美子を抱きしめる。
「なぁ、実美子今度から普通の格好しなよ。絶対そっちの方が可愛いって」
「そうかな…わかった」
「それと、俺の部屋にいて…。やっぱり、実美子と一緒じゃないとダメなんだ」
「私も一緒がいい…」
「じゃあ、戻って来てくれるか?」
「うん!」
「よかった」
「え?まだするの?」
キスをして体制を変え出した京太に実美子は眠い目を擦りながら聞く。
「あぁ、明日学校休みだしな」
「私、もう眠いよ…」
「ダメだ、眠気なんかすぐに吹っ飛ばしてやる」