京太と実美子
次の日、とくに一緒にいる理由もないので京太は実美子と別に行動し、別に自宅へ帰った。
朝部屋を出るとき、実美子に私物を自分の部屋へ移動させた。
実美子はあの後も何も言わなかった。ただ京太の言う通りにしていた。
実美子の私物のない部屋は少し広く感じた。
実美子のためを思って追い出しを強行したが、すっきりした部屋と違い、京太の心はもやもやしていた。
(どうしたんだ、俺…)
京太は余計に頭をかかえる事になった。
「あのさ、サトちゃん最近どうしたの?」
「え?何がだ?」
「何が、じゃないよ!」
学校の帰りに智光に引っ張られて、よく行くファミレスに京太は来ていた。
「最近、実美子ちゃんと一緒にいないし、いつもの冗談連発もないし、元気がないよ?」
「あぁ…。そうか?」
「うん」
向かいの席に座る智光は深く頷いた。
「僕に話せない事なら、無理に話さなくていいけど、何か悩んでるなら相談にのるよ?」
「悪いな、ミッチー…。俺もよくわからないんだ。何で自分がこんなに落ち込んでるのか…」
京太は瞳をさまよわせながら、ポツリポツリと話す。
「…きいてくれるか?ミッチー」
「うん!」
智光は姿勢を正した。
「あのな、俺と実美子はホントは付き合ってなかったんだ」
「え?そうだったの?」
「あぁ、寝た事はあるんだけど、感情とかは無くて…。だけど、最近実美子に好きなヤツがいるらしいことがわかって…。それなら、意味なく寝たり俺んちに寝泊まりさせるのはよくないって思って、実美子に自分の部屋に帰るように言ったんだ」
「うん」
「実美子は何も言わずに俺の言うことをきいて、出ていった。だけど、俺は余計に落ち着かなくなったんだ」
「…そっか。サトちゃんは、実美子ちゃんのことどう思ってるの?」
「え…?」
「ただの幼なじみ?」
「……」
「僕、きっと違うと思うよ」
智光の言葉にうつ向いていた京太は顔をあげた。
「あのね、気づいてないかもしれないけど、サトちゃんは結構女の子にモテてるんだよ」
「え?そんなハズない。だってあれはミッチー狙いの…」
智光は頭を横に振る。
「それでもサトちゃんのまわりに人が集まってくるのは、みんなサトちゃんが好きだからだよ。なのにサトちゃん、実美子ちゃんのことしか見てないんだもん。話してると、実美子が実美子がってよく言ってるよ?」
智光は笑いながら話す。
「え?そんなわけ…。だだ…」
「ただ…、他の女の子に興味がないだけ、でしょ?」
「う、うん、そう」
智光はなぜわかるのか、京太は驚いて目を見張る。
「他の女の子に興味がないのは、実美子ちゃんがいるからじゃないの?」
「……」
「サトちゃんはいつのまにか実美子ちゃんが特別になってたんじゃないかな。女の子の中で実美子ちゃんだけがサトちゃんと一緒にいられるんだから、特別だよね?」
「…そうか、そうだな…」
智光の言葉で、京太はもやもやした気持ちの答えがわかった。
簡単なことだった。もやもやはやきもちだ。やきもちをやくということは、好きだからだ。
今まで二人とも付き合ったりするような人がいなかった為、気づくのが遅くなっていた。
京太は自分の気持ちを整理すると、黙って待ってくれていた智光を見る。
「自分の気持ち、わかった?」
「うん。ありがとうな、ミッチー」
自分の気持ちがハッキリすると、実美子に好きなヤツがいても振り向かせてみせると瞬時に京太は心に決めていた。
「よし!じゃあ、すぐでも実美子に…」
「あ、実美子ちゃんならウチにいるよ?」
智光は少々複雑そうな表情で言った。
京太はわけがわからず、驚きで少しの間瞬きを繰り返す。
「え?」
「京太くんに嫌われちゃったーって、泣きながらウチに来たんだよ昨日。それで、実美子ちゃんの話しをきいてると、実美子ちゃんの好きな人ってやっぱりサトちゃんなんだよね」
「俺…?」
「うん。それに見てればわかるよ?」
「え?」
「だって、面倒だからって表向き付き合ってることに了承したり?
それこそ寝たりなんて、ただの幼なじみとかだったら普通しないよね?」
「そ、そうだな…」
「あんなにサトちゃんと一緒にいるんだから、実美子ちゃんの好きな人ってサトちゃんに決まってるじゃん」
「…俺バカだぁ」
京太は頭を抱えた。
「ふふ。近すぎるのも困るね」
「まったくだよ!」
「じゃ、サトちゃん行こうよ?お姫様をお迎えに」
「あぁ、悪いなミッチー。色々世話になって」
「ううん、困った時はお互い様だよ」
そう言いながら、二人は席を立ち、智光の家へ急ぐのだった。