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京太と実美子

「お邪魔します」

「おじゃましますー」

京太と実美子はハモりながら靴を脱ぐ。

「こんにちは、いらっしゃい」

短い廊下の奥の部屋へ入ると、ソファに座る女性に笑顔で話しかけられる。

「こんにちは!」

「こんにちは…」

女性はメガネで綺麗な髪は長く、優しそうな笑顔だった。

笑顔が智光と雰囲気が似てる、と京太は一瞬思う。

今日、京太と実美子は約束通り、智光の家へ遊びに来ていた。

「どうぞこっちに座って」

女性に言われるまま、京太と実美子は向かいのソファに座った。

「お久しぶりですね」

にこにこしている女性は京太に話しかけてきた。

「えーと…」

京太は彼女をあまり覚えていないので、なんと返事をしていいか迷っていると、智光の声が近づいてきた。

「そうだ!由子さん、サトちゃんあの時、怒ってて由子さんの事覚えてないんですって」

「あれ?そうだったの?」

智光は運んできた紅茶をテーブルに用意しながら由子に説明をする。

「すみません…」

「ふふっ。サトちゃん、僕の奥さんの由子さんだよ」

「し…和泉由子です。よろしくです」

由子はわたわたしながら自己紹介をするとぺこりと頭を下げた。

「由子さん、今渋沢って言いそうになりましたね?」

「えへへ、ごめん。間違えちゃった」

由子の隣に腰掛けた智光にクスクスと咎められると、由子は笑いながらペロッと舌を出す。

「えっと、佐藤京太です」

智光達が二人の世界に入りかけたところで、京太は自己紹介を始め、ペコっと頭を下げた。

「…実美子です」

「おい実美子、ちゃんとしろよ」

「だって、名字キライなんだもん」

下の名前しか言わない実美子を肘でつつきながら、小言を言う。

「ケンカしないで、無理して言わなくていいからね?」

「そうだよ、紅茶飲んでね?お砂糖も使って?」

由子と智光に微笑まれ、二人は同時にカップに口をつける。

「「……!」」

「あなたが、サトちゃん、さんね?実美子さんも、私の事は覚えてるかな?」

由子が確認するように話しかけると、カップを置いた京太と実美子は頷く。

声が出なかったのは、紅茶がびっくりするくらい美味しかったからだ。

「…私、覚えてる。あの時、可愛い人だなって思った」

「え?そうかなぁ。えへへ。そうだ!ミツ君。クッキー焼いてなかった?あとケーキも」

「あ、そうでした。今用意しますね」

由子が嬉しそうに言うと、智光はキッチンの方へ行ってしまう。

(ミッチー、奥さんに尽くしてるなぁ…)

智光のせかせか動く背中を見て、京太は心の中で呟く。

「ふふ。紅茶、なんだかめちゃくちゃ美味しいでしょ?」

すると、由子が小さめな声でこそっと京太達に言った。

「…はい、不意打ちだったんで驚きました」

京太の言葉に隣で実美子も頷く。

「ミツ君ね、料理とか家事大好きで、凄いの。とくに料理が凄くて…、この紅茶なんか安売りお徳用だよ」

「ぅえぇ?!マジっすか?」

京太はカップの紅茶を見ながら叫んだ。

「ホント」

由子は笑顔でかえす。

「ちなみに、私超不器用で家事をしようとすると、大変なことになっちゃうの。だから、家事はミツ君にお願いしてるの」

「そうでしたかぁ…」

「だけど、手料理は家族以外には作らないって決めてるんだって。だから、二人はミツ君にとって特別なんだよ?」

「ミッチーが…」

京太は思わず感動してしまい、涙が出そうになる。

「感動中ごめんね、だからこれから出てくるお菓子、気をつけてね?」

由子にいたずらっぽく微笑まれると、京太は大きく返事をしてしまう。

「あ、はい!」

隣で実美子もうんうん頷く。

「なに、三人で楽しそうに話してるんですか?」

智光がにこにこしながら、おぼんを持って戻ってくる。

「クッキーとシフォンケーキだよ」

「ワーイ!美味しそう!」

「ふふ。由子さん、いつも通りに喜んでますよ」

「あ!お客さまいるんだった!えへへ、ごめんね」

「でも…由子さんはそのままでいてください」

「もぅ!ミツ君こそ、お客さまの前だよ?!」

智光に見つめられ、由子は赤くなりながら叫ぶ。

「……」

京太は、さすが新婚…、と気長に待つことにして智光たちのやり取りを見ていた。

「…いいなぁ」

京太がぼーっとしていると、そんな呟きが実美子の方から微かに聴こえてきた。

京太はその言葉に驚いて、チラッと隣を見ると、実美子は何事もなかったようにすまして紅茶を飲んでいた。

変わっている実美子でも、女の子らしくこういうのに憧れるのだと、京太ははじめて知った。

(実美子、好きなヤツがいるのかもしれない…)

今まで想像したこともない、そんな考えが頭を過る。

すると京太は、なぜかとても不安になってきたのだった。



「…はぁ、きょうたくん、もダメ…。なんか、今日激しっ、あ…っ!」

智光の家から帰るなり、京太は何も言わずいきなり実美子を抱いていた。

「……」

「…きょうたくん?」

黙ったままの京太に実美子は表情を伺ってくる。

その視線に堪えられなくなった京太は、頭に渦巻いている考えを口に出してみる。

「…実美子、今好きなヤツがいたりするのか?」

「…ど、どうしたの?急に」

実美子は京太から目をそらしながら言った。

それは実美子が隠し事をするときのクセだった。

「そうか…。悪いかったな。ずるずる何回も。おまえに好きなヤツがいるなら、こんなことはやめたほうがいい」

「え?」

「だから、もう俺の部屋にも来るな。今日はもう仕方ないから、明日ちゃんと自分の部屋へ帰れよ」

「なんで、京太くん…」

京太は実美子に強ばっているだろう表情を見られたくなくて、ベッドの上で実美子に背を向けて瞳を閉じた。


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