京太と実美子
それは昔からずっと色んな人に言われてきた。
だけど、とくに嬉しくもなんともない。
実美子とは幼なじみで、小さい頃からずっと一緒にいる。
だけど、それは楽しい思い出ばかりではない。
昔から俺は実美子の奇行に振り回され、気づけば実美子の面倒見役になっていた。
だけど、なんとなく一緒にいてしまうのは、趣味や好みが結構同じで気が合ってしまうのだ。
その趣味とは、漫画だ。
小さい頃からお互い漫画やアニメが好きで、作品の好みもバッチリ同じだったりする。
だから面倒なことがあっても、なんだか一緒にいてしまうのだ。
そして、高校の時には二人で同人誌を作り始めた。
お互いに意見は出し合うが、俺が話を考えて、実美子が絵を描く。
ちょっとチャレンジするつもりが、イベントに参加するたびにファンが増えてしまっているようで、今まで続けてきている。
まぁ、作るのは大変だが、楽しいしファンがいるのは嬉しい。
そんな理由もあり、実美子とは、一緒に他県から出てきて同じ大学に入った。そして同じアパートにそれぞれ住んでる。
そのため、お互いに独り暮らしを始めると、生活力のない実美子が原稿制作を理由にだんだん俺の部屋に居座るようになる。
そしてある時、新しい同人誌のネタがうまく纏まらず、なし崩し的に少々強引に実美子と始めて寝た。
そこに、幼なじみから恋愛に発展するなどということはない。
お互い漫画の為だった。
だけどその後、漫画の問題は解決して、一回の試しのつもりだったのが二回三回…と自然と実美子を抱いてしまっている。
実美子も何も言わないから、それがだらだらと続いてしまっている。
だから、実美子とは大学でもよく一緒にいて、すでに付き合っているとまわりに思われているので、それから表向きは付き合ってる事にした。
(ミッチー、本当に年上奥さんのこと好きなんだな…。
俺なんか、そんな気持ちになったことないから全然分かんねぇ)
智光と別れて家に帰った京太は、部屋で腰をおろすと、ぼーっと考え事をしていた。
しゃべるのが好きな京太にはもとから女友達がたくさんいるが、今まで本当に「好き」になった女子はいない。
だから、京太は智光においていかれたような錯覚に陥り、酷く落ち込んでいた。
ファミレスからの帰り道、実美子とは何もしゃべらなかった。
パタン
ふと京太が気づくと、すでに実美子は部屋の風呂に勝手に入ったようで、寝間着姿になってバストイレから出てくる。
家に帰ると実美子は当たり前のように京太の部屋へ上がり込んでいた。
ほとんど自分の部屋へ帰らない実美子の生活用品は狭い京太の部屋にあふれてる。
「実美子。原稿終わったんだし自分の部屋で寝ろよ」
「いいじゃん。徹夜あけだから、明日の朝起きられるか心配なの。私の部屋寒いし」
すると実美子はすぐに持参の寝袋に入り込む。
「京太くん、明日起こしてね?」
「しょうがないなぁ…」
そう言うと、実美子は目を閉じる。
濃いメイクを落として、ゴスロリ風な服を脱げば、実美子は普通に可愛い。
だけど、何でこんな格好するのか。ストーカーをするのか。
京太にはまったくわからなかった。どちらも振り返れば突然始まった気がしていた。
実美子の奇行は前からあったのだが、人と着眼点が違い、ユニークな程度だった。
やっぱり美術は得意で昔から結構賞をもらったりしていた。
日常生活でも自分の世界に入って、まわりが見えなくなりがちで、困らせられながらも、京太は尊敬していた。自分には出来ない事だから。
だけど、最近の実美子はちょっと違って京太には見えていた。
京太は実美子の寝顔を見つめながら考え込む。
(どうしたんだよ…実美子)