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【バレンタイン】あの日見たラノベと噓偽りない源氏物語

掲載日:2017/02/17

バレンタインだし何か投稿しようと思っていました。

当日になり、様々な作者の恋愛小説が投稿され、すっかり忘れていました。


つまり、少し時代に乗り遅れた少年の恋愛談です。





「君が好きだ」




「……何の冗談かしら」




二人の交わした第一声が、これだった。



「この気持ちは本気だ」


「だったら一層気持ち悪いわ」


「君の気持ちを知りたい」


「気持ちは悪いと言っているのよ」


「君の、僕の告白に対する答えが欲しい」


「あら、今のは嫌がらせじゃなくて、告白だったの?」


「俺としては君と付き合いたい」


「………」


「男子高校生が自分の青春をかけて気持ちを伝えたんだ、何か言って欲しい」


「なら言ってあげるわよ。二度とこんなことしないで」


「それは『他の女性にも同じように告白するなんて、許さなんだからねっ』ということか!」


「そんな隠喩を含んだ覚えはないのだけれども」


「ありがとう、君を一生幸せにしてみせるよっ!!」


「それは私の視界に二度と入らないでくれるということね」


「そんな隠喩を含んだ覚えはないんだがな」


「分かってるわ、直喩でしょう」


「君の国語力を疑うよ」


「私は貴方の発想力に呆れるわ」



休み時間に廊下の隅でやり広げられる会話。

勿論他にも生徒はいるし、好奇な視線を送り続ける人もいる。

しかし大半は、またかと溜め息をつき、呆れた顔を作っていた。

2人の告白劇は、既に一ヶ月以上繰り広げられているからである。


その男子生徒は、愛を含んだ熱い言葉を毎日投げ掛けている。

対して女性は終始ツンとした態度で、男に棘のある言葉を返す。


ではここで、この女子生徒の魅力を言わせてもらおう。

爛々たる深紫の目に、紅い紐で結わえた茶髪。

良く通るクリスタルボイスで紡ぐ言葉は、荊棘(いばら)のように尖った毒舌。

身長は小さめだが、スラリとした足は誰にも引けを取らない。


男子生徒の方は……適当な好青年にしといてくれ。


ともかく、

男子の名前はタケトリ、女子はムラサキと言い、共に我が校の名物キャラとなっていた。



ちなみに俺は、男子生徒タケトリその人だったりする。


今の時代、男子はコッソリ女性に告白するのが主流らしい。

俺はと言えば、感性が180度ズレてこうなった。

友人いはく、俺は一時代考え方が遅れている、みたいだ。


最初は先生にも止められたが、段々と黙認される始末。

と言っても、先生に反抗する不良ではないぞ。

「彼女は友達が少ないから、お前はピッタリだろう」と言われたのだ。

嘘ではないぞ。偽る理由はないからな。


「そもそも、何で貴方は私に付き纏うのかしら」


「さっきから言ってるだろ?俺は君のことが……」


「じゃあ私と距離を置いといて。そうすれば貴方をミジンコ程度には好きになるでしょうから」


「おいおい、初っ端から遠距離恋愛はハードル高いな」


「愛に障害は付き物でしょ?」


「そう、君の素直になれない心の壁とかな!」


「……一番は、私の心を理解できない貴方の頭脳よ」


こんな会話をするうちに、時はドンドン過ぎ去っていく。

彼女がチラリと時計を見た。

その仕草で、俺は休み時間が終わるのだと気づいた。

流石に授業を邪魔してまで話すつもりはない。

俺は慌てて教室へもどりつつ、彼女に手を振って別れを告げた。

ああ、二人が同じクラスならと常々思う。


「じゃあ、またな」


「本当に何なの、貴方。まあでも……またね」


彼女は小さく返事をくれた。

清らかで可愛らしい、俺の心臓を撃ち抜く声だ。

囁きを録音したかったぜ。

だがそんな猶予はないし、学生の本業は勉学である。

俺は自分の教室に帰って行った。



■■■


全く彼は何なのだろう。

校舎の廊下の中央で、私、ムラサキは考える。

風のように去って行く彼を、目で追いかけながら。


初対面から今まで、タケトリ君の印象は変わらない。

気付けば彼に告白され、私が断るやり取りが日課になっている。

もちろん世間話や意味のない会話だってした。

私に異常な愛を告げる以外は、至って優しい生徒だ。

相手の感情をよく察して、不快にしたと思えばすぐに謝る。

友達の少ない私にしてみれば、彼と話すことが別段嫌というわけでもなかった。


「けれど……」



--彼の告白に、私が肯定することはない。



昔も今も……多分これからも。

彼を疑うわけではないが、その言葉を受け入れられなかった。

私なんかが誰かに好かれるわけない。


だって……私の身体は……


考えようとして、胸の奥が痛くなるのを感じる。

ああ、何時もの感覚だ。

気付けばタケトリ君の姿は、廊下から消えていた。


「……戻らなきゃ」



私は教室に戻り、その扉をソッと閉めた。

その先に地獄があることを、彼に気付かれないように。


まだ私は耐えられるから。


□□□


それは、彼女と会話した数分後である。



「なあ、タケトリ。お前って今日も彼女に告白したのか?」


授業中、俺は友人に話しかけられた。

誰も知りたいと思はないだろうが、彼の名前は畑中である。

今は英会話の時間であり、教室で英語や日本語が飛び交っている。

当然、少しの雑談も気にされない。

その機会を使って、隣の席の友人は俺に質問してきたのだ。

特に偽る理由もないので、普通に肯定する。


「そうだけど」


畑中は眉間にシワを寄せ、俺を疑いの目で見つめてくる。

そして見つめて見つめて見つめてから、彼は大きな溜め息を吐いてきた。


「相変わらず懲りないなあ。お前ってヤツは」


「何だよ、その言い方。俺だって毎回やり方を変えているんだぞ」


前回は昼食に誘い、その前は借りた古典の教科書にラブレターを挟んだ。

恋人を詠んだ和歌のページに挟んだあたり、洒落てると思う。

未だ気付かれてないようだが。


そして今回は久しぶりに王道で告白してみたのだ。

失敗したわけだが。


すると、またもや溜め息を吐かれた。

そんな仕事疲れの会社員みたいな仕草をされても、俺は困る。


「良いか?俺がお前に言いたいのは……そうだな」


畑中は数秒間を置いてから、壁際の席を指差した。

そこには色白の女子がいる。


「あの娘のこと、どう思う?」


「どうって……思慮分別のある大人びた人、かな」


「じゃあ、あそこの水泳部は?」


「運動のできる天使爛漫な人」


「こっちの文学部は?」


「おとなしいけど、思いやりのある人。……おい、さっきから何なんだよ」


意図の分からない問いかけに、俺はたまらず質問した。

なんで俺が女子を一人ずつ評価しなければならないのだ。

俺が女性について悩むのは、ムサラキさんだけで十分なのに。


ムスッとする俺に、友人は呆れた顔をする。


「まだ気付かないのか?俺たちの学校には魅力的な女子が沢山いる。それは今お前が語った通りだ」


「……まあな」


「つまり俺が言いたいのは、もっと視野を広げろってことだ。一人に固執してフラれ続けるより、別の女子も見てみろ。意外と気の合う人がいるかもしれないぜ」


「はあ?……あり得ないな。俺が恋するのは彼女以外であるわけない」


「その割に、彼女の態度は冷たいままだが?」


「知らないのか?それはツンデレっていうんだ。ラノベを読めば一人は出てくる、テンプレ属性の王道だ」


「……ラノベ?よく分からないけど、良い加減彼女を諦めろ。付き合えたとしても、ロクな目に遭わないぞ。何しろ彼女は……」



キーンコーンカーンコーン


話の途中で、授業終了を告げるチャイムが鳴った。

先生が教壇の上で、締めの挨拶がなされる。

畑中は口を止め、身体を前方に向けた。俺も同じく姿勢を正す。

3秒後、学級委員の号令がかかり、全員が起立した。

外から他クラスの喧騒が近づいて来る。

そして先生に礼をする直前、友人が呟いた。


「……とにかく、たまにはムラサキさんと距離を置いてみろよ。」



俺が顔を向けると、既に彼は廊下へと向かっていた。

ムラサキさんに会うため、俺も席から離れようとした。


けれど……友人の言葉を考える。

立ち上がった身体を、また椅子に下ろした。



「押して駄目なら引いてみろ、とも言うしな」


試しにやってみるか。



■■■


夕暮れが映る放課後の校舎。

部活も課外授業も終わる時間帯。

私は帰宅の準備を終え、玄関に立っていた。

靴入れの周囲は生徒が集って賑やかだ。

彼らの多くは、談笑しながら校門を抜けていく。


「……」


もちろん私も帰るのだけど、少し気がかりなことがある。


(タケトリくんが、いない)


昨日までなら、放課後は必ず会いに来た。

一言だけでも会話をして、彼は笑顔で帰っていった。

けれど今日は、彼がいない。

何か事件でもあったのだろうか。


彼には用事があったのだ、と考えれば別に不思議なことでもない。

むしろ毎日会いに来る方がおかしいのよ。


けれど、そうなのに、妙にソワソワとしてしまうのは何故かしら。

切ない気持ちになるのは、彼の所為なの?


「……バカみたいね」


散々自分から避けておいて、彼を心配するなんて。

けれど、やっぱり気になってしまう。

そんな葛藤を繰り返していたら、随分と時間が経ってしまった。


きっと彼は先に帰っただけなのだ。

そう無理やり納得して、私は校門を出ようとした。

灰色に汚れたブロック塀に、影が差している。

同級生の女子たちが未だ雑談する間を、私は通り過ぎた。


ふと、視線を感じる。

私が顔を上げた。



彼女たちが私を凝視していた。




□□□


1時間前。


俺と畑中は図書館にいた。

大きめの机に、二人並んで座る。

目的は当然だが読書だ。

ちなみに、目の前には本数十冊分の山。

全て小さなサイズで、表紙に少女のイラストが描かれている。


そう、ご存知ラノベである。


「いやあ、うちの学校って凄いよな。源氏物語からweb小説の書籍版まで取り揃えてるんだもの」


俺の称賛に対して、友人の目は虚ろだ。

折角集めた本のタイトルを見ては、溜め息をついている。


「……なあ、タケトリ。確かに俺はムラサキさんと距離を取れと言った。だがしかし、誰もラノベを紹介しろとは言ってない」


「つまり不言実行ができる俺は素晴らしい、ってことだな」


「傲慢すぎる解釈だ……」


「たまにはラノベだって良いものだぞ?最近は古い文献をアニメやゲームにするのが流行ってるそうじゃないか。だったら、色んな知識を含んでいた方が楽しめるに決まってるさ」


「いやでも、このイラストは今の時代の流行と掛け離れてるし。世間で流行ってるのは時代が千年違うし。俺は色白に細い目の和服美人が……」


ブツブツ文句垂れ流す前に、俺の集めた本を読んで欲しい。

特にこの、異世界召喚の長編小説は面白いぞ。

ピンク髪のツンデレ少女との恋愛も、王道を行く展開も一流だ。

21世紀の傑作とも言える。


「はいはい、読めばいいんだろ。一冊だけだからな?……俺はこの本より十六夜日記でも読んだ方がときめく気がするけど」


「いや、随分と違うから。とりあえず読めば分かるさ。意味不明な単語の解説もしてやるから」



10分後。

そこには夢中になって本にへばりつく友人の姿があった。

ラノベの世界に入り込んだ彼は、次々と本の山を切り崩す。

俺も隣で一冊を手に取る。

お気に入りの学園恋愛モノだ。


懐かしいな……最近見てなかったっけ。

ツンデレなヒロインが特に大好きで、最終巻で泣いてしまった。



(それに……これがなかったらムラサキさんを好きになれなかった)



後で借りようと思い、俺は本を胸元に入れといた。

外を見れば、夕暮れに影が濃くなっていく。

友人を洗脳し終えた俺は、新鮮な空気を吸いに図書室から出た。


「……そう言えば、ムラサキさんに帰りの挨拶をしてないや」


友人からは一度身を引くようアドバイスされたが、どうするべきか。

よく考え抜いた末、俺は軽くさよならを言うことにした。

毎日挨拶をする友達が突然いなくなれば、誰でも困惑するだろう。

人として、他者を不安にさせることはしたくない。


「……サッと行って、風のように去る。これぐらいなら許されるよな」


問題は俺の口が勝手に愛を歌ってしまうことだが。

それでも意識すれば、ムラサキさんを不快にはさせないだろう。


俺は玄関に向かって歩き、下駄箱を確認する。

ムラサキさんの靴があったので、まだ彼女は校舎内にいるらしい。

だったら少し探し回って、彼女を見つけようか。


「そうだな、まずムラサキさんの居そうな場所を探していこう」


俺は階段に向かって歩き出した。



■■■


ここは校舎突き当たりの教室。

確か正式な名称があったのだが、埃を被った未使用部屋のために誰も知らない。

ただ雑然と机や椅子の並んだ、陰気臭い物置となっていた。


(……ここに来たのは、何回目だったかしら)


私は進んでこの空き部屋に来たりしない。

来るのは、例えば目の前にいる同級生たちに連行されるとき。

彼女たちは、常に私のことが気に入らないらしい。

気付けば机に油性の落書きがあり、物が捨てられている。

それでも憂さが晴れないのか、私をこうして呼び出すのだ。


「……ねえ、アンタ。また調子乗ってるわよね?」


睨みながら質問するリーダー格。

五人が私の前方を取り囲み、後方は窓のため逃げられない。

しかもカーテンのせいで、外の人間はこの現場に気付けない。


「何か言いなさいよ!昼間からタケトリとイチャついて、うっとしいんだよ!!」


無反応な私に、彼女たちの怒りが募る。

けれど私が口を開いたところで、結局は反感を買うのだ。

理不尽極まりないと思うけど、手の打ちようがない。


「はしたないと思わないの!?」

「穢らわしい!!不潔!!」

「身の程をわきまえなさい!!」


「まあ、しょうがないわよね……」


リーダーはククッと嫌らしく笑った。




「アンタの顔、見た事もないほどブスだからねええ!!!」




はあ、結局そうなるのね。

いちゃもんを散々つけた挙句、彼女たちはいつも同じ台詞を吐く。

私が何をしようが、いや何もしなくとも、こう悪口を言うのだ。


「声も甲高くて煩いし!!」


「身体もガイコツみたいに痩せ細ってる!!」


「目なんて、野良猫の目より濁ってるわよ!!」


私だって。

そんなことは知っている。

声も小鳥のさえずりみたいに煩くて、幾ら食べても身体は小さい。

それは変えようとしても変わらなかった。

だから勉強を頑張り、少しでも立派な人間になろうとしてるのに。


彼女たちはこうやって、私の心を傷つけていく。

私の顔が歪むのを見ては、更にからかって嘲るのだ。

それでも私は耐えてこれた。


私を好きだと、心から言ってくれた人がいたから。


けれど彼もきっと……目が覚めたのだろう。

私と付き合えば、周囲から笑い者になるにきまってる。

こんな醜悪な顔と付き合うとは物好きだな、なんて。

だから、離れてくれて良かったのだ。


傷付けられるのは、私だけで十分。


だから、これで良かったの。


良かったの。




……良かった、の。



「え?なに、もしかして泣いてるの?ギャハハ!!」


「醜い顔が、更に歪んじゃってるわよ!?キャハハハ!!」



「「「アハハハハハハ!!!」



この悲しみが見られないよう、私は下を向く。

私を嘲笑う声が、教室に響く。






「……もう、嫌だよ」









『そうか。じゃあ終わらせよう』




突然聞こえた声。

それはよく聞き慣れたあの人の声。

私は顔を上げた。


そこに、タケトリくんは立っていた。






□■□



おいおい。

やたら騒がしい教室だと思ったら、ビックリだよ。


どうみてもイジメの現場じゃないか。

しかも見知った顔ばかり。

特に涙目な女子生徒なんか、俺の大好きなムラサキさんじゃない?


……ああ、これが怒髪天に昇るって感情か。

昂ぶる気持ちが抑えきれない。

だが相手は女子だ、本能のまま殴り掛かってはいけない、

俺は深く息を吐いた。

すると、女子の一人が声を上げた。

怯えているが、声を張って俺を笑い者にしようとする、


「タ、タケトリじゃんよ!キャハハハ、彼女さんを助けに来たってか!」






「……………殺すぞ?」




「ヒッ!!?」


ガタンと女子は腰を抜かし、その場に倒れこんだ。

俺が視線を合わすと、顔の色がサーっと青白くなっていく。

そのまま固まったかと思うと、白目を向いてバタリと倒れこんでしまった。

突然のことで、他の女子はその場で固まったまま動かない。

気絶した女子を助けようとする奴らはいない。


俺は部屋をゆっくりと見回す。

その視線をムラサキさんに戻すと、右足を出した。


ギシリ


彼女たちとの距離が、歩幅一歩だけ縮まる。

それだけで、皆が更に強張った。

ムラサキさんだけが、唖然とした表情で俺を見る。

目には涙の流れた跡が、クッキリと残っていた。


「タケトリ、くん……?」


彼女は小さく声を出した。

そこには恐怖より疑問の感情が篭っている。


「なんで、ここが……?」


「言ったろ、俺は君が好きだって。だから君の居そうな場所を探してみた」


朝も、昼も、夕方も。

気付けば彼女を目で追いかけていた。

教室の席も、お気に入りの場所も、俺は理解し知っていた。


だから当然、彼女がこんな扱いを受けているのも分かっていたんだ。


「俺は、ムラサキさんの嫌がるようなことはしたくない。だから君が相談するまで、俺はイジメについても我慢していた。助けを求めれば、すぐに動けるよう準備もしていたんだ」


「え……」


彼女は動揺する。

感情が追いついてこないのだろう。

何かを言いいたそうにするも、口ごもっているばかりだ。


「だから、 俺は君を助けない。君が呼ぶまで、これ以上追求はしない」


そう言い切ると、俺はリーダー格の女の方を向く。

唐突に睨まれた彼女は狼狽え、壁際まで後ずさった。

口をパクパクと動かしているが、威勢のある声一つ聞こえてこない。


「俺の目的は、お前だよ」


低く冷淡な口調で、逃げた女子に迫っていく。

ようやく声を取り戻したらしく、精一杯の虚勢を張ってくる。


「な、何なんだよっ!来んな、ゴミが!!」


「お前らに、一つ正してやることがある」


「きき消えろお、変態があ……!!」


「黙って聞け」


俺はハッキリと示さなくてはならない。

彼女たちと俺の、認識のズレを。



「良いか、俺はな。





--お前らみたいな平安時代の顔が嫌いなんだよ」



「……え?」


目の前の女子はポカンと口を開ける。

その顔は、どうみても珍妙な光景だった。



真っ白に厚く塗られた、フックラと膨らむ太り顔。

毛を剃り、黒筆で描いた大きな嘘の眉。そして細い目。

髪をこれでもかと伸ばし、床を引きずる程長くなっている。

口紅を異様なほどベタリと塗り、強烈な匂いの香水で体臭を誤魔化す。

そもそもこの格好を麗しいと思い、わざわざ平安の絵巻物から姿を似せる意味が分からない。



その姿はまるで、三千年前の平安貴族のようだった。

対して俺が好きなのは、千年前の萌えキャラ文化なのだ。

尽く相反している。


「そもそも、何で今更になって古風な格好が流行っているんだ?皆は学校で源氏物語や十六夜日記を読み出すし、ラノベを古臭いと罵ってくる。どう考えても時代錯誤だ」


「は、はあ?そんなの私たちの勝手でしょ!?ていうか、ラノベだって千年前に廃れたジャンルじゃない!!私たちのファッションと一緒にしないで!!」


「ああ、そうだ。お前らの美意識は、俺に関係ない」


理屈は分かる。

白肌は純潔を、太った様子は裕福な姿を象徴する。

細い目は聡明そうに見えなくもない。

長髪も、口紅も、相手に自分を十分に印象づけられる。

美しいと思う感性は様々だから、俺がそれを咎める必要はない。



「けど、彼女を虐めるなら話が変わる」



俺は胸元から本を取り出した。

それは図書館に積んであった本の一冊。


ラノベである。


俺はページをめくり、細いタッチで描かれたカラーの扉絵を開く。

それを怯える彼女の前に突き出した。


「これを見ろ」



そこに印刷されていたのは、一人の少女。






「……これって、ムラサキさん?」




俺のお気に入りの一冊だった。




■□■



タケトリくん。


私を好きになった男子。


私が素直になれない男子。


意地っ張りな女の子を、それでも好きと言った男子。



(なぜ、彼がここにいるの?)


彼が私を助けに来た。

けれど、素直に喜べないのだ。

なぜ私の元へ、助けに来たのだろうか。

外からも廊下からも、誰も私たちの姿を見てなかったのに。

そもそも今日の昼くらいから、私に関わろうとしなくなったのも不思議だ。


(何か仕組んでいたの?)


と一瞬だけ疑ったけど、彼の様子は演技でない。


その姿は、今まで見た誰よりも怖く見えた。

凍りつくような声色で、彼はイジメっ子たちを睨んでいる。

顔は至って無表情なのに、殺気が肌にヒシヒシと伝わってきた。

変に動けば本当に殺されてしまうかも、とすら思えるくらい。


それでも、私は彼を見ていた。


泣き出す悲しみを忘れて、彼の姿に魅入っていた。

そして彼が手に持った本に注意が向く。


目を疑った。



「これって……私?」



そこには、同年代の女の子が描かれている。

ムスッとした小さな顔。目は大きく、眉は細い。

茶髪を紐で縛る髪型は私のソレと変わらないし、華奢な身体も、瞳の色まで私に似ている。似顔絵と言われても疑わないレベルだ。

もちろん絵柄のせいもあって、大過ぎる目や小さすぎる手足は全然違う。

けれど、不機嫌そうな態度で


『私に告白?……何の冗談かしら』


と書かれていることに、何より驚く。

これって、私が何時もタケトリくんに言っている台詞だ。


「俺は昔からラノベが好きでな。千年前の文化だろうが、ハマってしまったんだ。そして最初に読んだのがこの本だった」


ペラペラと本をめくり、タケトリくんは懐かしむように本を眺めた。

西暦3016年の今、確かにラノベというジャンルを読む人は少ない。

それよりも、今は平安時代の小説が一周回ってブームとなっているのだ。

私みたいに髪色や体型の全く異なる女性は、醜さの象徴。

大和撫子が一番に求められる時代となっていた。


「初めてムラサキさんを見たとき、俺はシビれたね。絵から飛び出したとは、まさにこのことだって思った」


「もちろん、それはただのキッカケにすぎない。無愛想ながら相手を気遣う優しさも、滅多に見せない笑顔も、涙もろいのを隠す仕草も、彼女を知れば知るほど好きになっていった。彼女の魅力は本に収まりきるはずもなかった」


聞くだけで恥ずかしくなる言葉を、彼は真剣に語り出す。

ああ、顔が熱い。紅く染まってしまう。

手を当てて表情を隠すので精一杯だ。


「だから、言っておく。お前が彼女の顔を非難する権利はない。彼女の顔を好ましく思う人がいるからだ。何より……」


胸の鼓動が速くなる。

彼から視線を反らせない。

緊張しているのか、息が止まりそうになる。

もう私の心は、熱い感情ではち切れそうだった。


カーテンの隙間から夕焼けが差し込み、彼を鮮やかに染め上げる。





「……俺は、ムラサキさんに恋をしている。噓偽りなくだ」




心臓を矢で射抜かれた気分。


私の意識はここまでしか耐え切れなかった。




□■□



「ああ、そんなこともあったな」


俺がムラサキさんを助けた日から数日後。

注意深く釘を刺したおかげで、彼女へのイジメはなくなったようだ。

俺は俺で自重することを学び、むやみやたらな告白を避けることにした。

あの時の言葉を最後に、愛や恋といった単語を胸の奥に留めておく。

すると、周囲から受ける視線の数も減る。

畑中の話によれば、俺とムラサキさんの噂も少なくなったそうだ。

代わりに、彼を起源としたラノベの再流行が始まっているらしいけど。


「その後に突然ムラサキさんが気絶して、俺は担ぎ出したんだ。イジメっ子たちは唖然としたまま動かなかったな」


「……その通りよ」


ムラサキさんは、ムスッとした態度を見せる。


(おかしいな、俺が何かしたっけ?)


考えてみるも、思い浮かぶことはない。

まさか昨日担ぎ出したとき、ボディタッチしたのが不味かったのか?

取り敢えず謝っといたほうが良いだろう。

そう決心し、声を出そうとしたが、先に彼女が話し出す。


「ねえ、貴方って……本当に私のことが好きなの?」


「今更何言ってんだ?俺はムラサキさんが大好きだよ」


「そう……そう、よね」


あれ、いつもと反応が違うぞ?

頬を染めながら顔を背けるとか、まるで照れてるみたいだ。


「だったら……その、放課後、校舎裏で待っててくれないかしら?」


「え、何で?」


「……貴方って、ラノベが好きなクセに鈍いのね」


「ごめんなさい?」


「謝らなくていいの、とにかく待っていなさいよ」


そう言うと、ムラサキさんは立ち去った。

耳が真っ赤になっていたのは、どうしてだ?

恥ずかしいことをしたわけでもないのに。

それにラノベを読んでいるのに、鈍いって?


理解不能と思いつつ、必死に本の内容をたどってみる。

放課後といえば決闘?未知との遭遇?いやいや、異世界転生?


もっと何か、他の視点から探るべきだろう。

例えば今日の日付けとか……あ。



「2月14日……もしかして」



千年前の日本では、この日は特別な時間だったらしい。

確かチョコパーティーをする行事があったはず。

ラノベの中でも、「バレンタインデー」という言葉で記載されている。


そうか、彼女は俺にお菓子を渡そうとしているのだ。


多分、昨日のお礼だろう。

だから少し恥ずかしがっていたのか。

慣れないことをするのは緊張するもんな。



こうして俺は、放課後をワクワクしながら待つのであった。




■■■



彼は私を好きと言った。


もちろん嬉しかったけど、それが怖くも思えた。

誰もが私を嫌うのに、貴方が私を褒めたこと。

まるでそれが運命だったかのようだ。



けれど、彼は一つ勘違いしている。



それは私たちの運命は、一冊のラノベから始まったということ。



確かにそれは驚くべきことだけど、それはほんの些細なこと。

古典を読まないタケトリくんには気づかなかったでしょうけどね。

入学式の名簿を見たときから、私は貴方を意識した。

放課後の校舎裏で、あの日見た奇跡を思い出す。



貴方の名前は「タケトリ ゲンジ」


私の名前は「ムラサキ カグヤ」




本当はね。


貴方が私に会う前から、私は運命を感じてたのよ。










ちょっと未来の、価値観が変わった世界の話でした。

そう、コレを狙ってワザとバレンタインから投稿日をずらしたんですよ。

伏線だったんですよ。……本当ですよ?


ご視聴ありがとうございました。

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