Prologue 始まりの月
おぎゃあ。おぎゃあ。
泣き叫ぶ子を一人の男が抱き上げた。
「もう大丈夫だよ。安心してお眠り」
優しい、優しい声色に、赤ん坊はゆっくりと眠りについた。
月は、金色に輝いていた。
「たった今、一人の赤子がこの世に生を受けました。その子はこの世界に大きな革変をもたらすでしょう。良いものか悪いものかは周り次第です。しかし、どちらにせよこの世界に必要なのものであると神が判断したのです。」
選ばれし月の巫女である七人の少女たちは、またゆっくりと瞳を瞼の裏に閉じ込めた。
幾つかの刻が過ぎ、少女たちは瞳に金色の月を写す。
「10年後、赤子は無事成長し続け、魔法主義国家・ウラノス国の王都にあるティターン魔法学院に入学することでしょう」
集まっていた各国の代表たちの内、ウラノス国の者達が歓喜に喚いた。
「彼女を見つけるのは容易いでしょう。けれど、決して彼女は戦いの道具ではありません。私たちは訪れるであろう未来に備えなければなりません」
「嵐は必ず来ます。けれど、決して彼女は盾ではありません。しかし、彼女の力は私たちに祝福をもたらすでしょう」
「彼女は周囲の人間と一緒に笑える人です。周囲の人間の為に泣ける人です。そうして彼女は周囲に祝福をもたらします。私たちに課せられたのは、彼女の心を護ることです。私欲の為に彼女を傷つけることではありません」
「総べての人たちと共に備えましょう。抗う力を蓄えましょう。既に、彼女を護る力は、護る者達に与えられているのです」
「神は乗り越えることが出来、私たちたちの力となる試験のみを与え、常に我らを見守っているのです」
静まり返った地下。
最古の月の巫女がいつものように終わりを締めたその密会は、以後の各国の動きを大きく変えることとなった。
ポツリと、若い月の巫女が呟いた。
「彼女はまるで、あの日、お母様の仰られた精霊使いのような、心の綺麗な人なのですね」