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異世界転生して無双したら神になったので隠居して子供たちを見守りたい  作者: 毛玉伯爵
第5章 嫁の話が壊滅的なんですが助けてもらえませんか
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3:こっちでは死神と呼ばれています

 神帝歴45年――オーリ10年

(しまい)の月


 シーマが語った歴史のパターンの中で、もっとも悪いものがもっとも印象的だった。

 よくあることである。絶望はほのかな希望よりも何倍も刺激が強い。


「これはね、正直、失敗中の失敗ね。厳密に言えばこれは100分割ループの中には入ってないわ。私が100分割を考えたのは、これのせいよ。ジビルガフがおそらく目指した結末ね。あなたにまだ言えないある時点からの4回目のループで起こったことよ。私しかこの記憶は持ってないわ」

「……俺が負けた記憶?」

「そうなるわね。無力よりも無警戒のほうが弱いのよ」とシーマは言った。


 その世界で俺は、死神オーリと呼ばれていた。


 ********************


 100分割ループに入る前のことである。

 トルオル島でスキルの移動が起こった。

 世界の病は君主の病。よって世界が病んでいるとき、君主は病んでいると言っていい。という超絶デタラメ理論によって病に倒れたオーリは、戦闘能力がそれほど抜き出てはいないトゥーリにトドメをさされた。

 この歴史の中でシーマ以外で初めて誰かがオーリからスキルを奪った瞬間だった。

 【世界の叡智】トゥーリ。キルシュリーゲンの知るかぎりにおいても、非転生者(・・・・)がスキルを誰かから獲得したのは初めてのことだった。

 そして、トゥーリはオーリのスキルのうち、【献身的な独裁者】を奪った。

 そのときのトゥーリの選択がいったいなぜそれだったのかはわからない。彼の中にもひとかどの野心があったのかもしれないし、ジビルガフがこまめにそうなるように調整していたのかもしれない。

 【献身的な独裁者】。

 絶対王政を行っても、民衆からの支持を得やすく、反乱が極めて起こりにくいというまさにチートスキルである。

 個人の戦闘面ではほぼ寄与しないものの、統治し始めたときに凶悪なまでの効力を発揮する。

 単体でも恐ろしいほどの凶悪スキルだが、【統治者の夢】という間接統治が極めてスムーズに行えるスキルと併せた場合には、もはや領地運営においては煩わしいことはなにひとつなくなると言っていいほどの壊れ性能を発揮する。

 言い換えれば、両方備わっている状態から、片方でも抜ければただの優れた技能に成り下がる。


 そして、神帝・オーリは世界からの支持を失った。


 これが、元世界の覇者・ジビルガフの狙いだった。


 ジビルガフはこの歴史においては他者への攻撃能力を持たない。石を投げつけてケガをさせることですら、彼にはできない。

 ジビルガフの使った魔力は「定義の変更」だった。

 世界はオーリである。よって世界がオーリである以上、世界が病んだときにはオーリが病んでいる。という無茶苦茶な魔法で、オーリは病にかかった。

 この場合、病とは疫病のたぐいではない。

 人間がダメになるさまのことである。

 ダメになった神様は名誉を失う。それでも領地運営を可能にしているスキル【献身的な独裁者】があれば、かろうじて成り立つ支配体制であった。だから、トゥーリがオーリからスキルを奪うのはこれしかない。

 力をそのままに、神帝オーリは神のごとく世界を治める帝の枠からははみ出た。

 まっとうな統治を行わない力の強い者はただの厄介者である。


 ジビルガフは「定義の変更」という魔力の使い方とトゥーリにスキルを奪わせることで、神帝オーリの統治者としての善良性を奪い取ったのだ。

 これによって、オーリは神留地に入る資格を失った。神格は残っているが、だれも(・・・)彼を神とは認めない。

 神格でありながら、神と認められないモノ。


 つまり、邪神、死神のたぐいである。


 オーリが覚醒したのは神留地ではなかった。

 北伐の地だった。

 世界の北の果てに現れた死神オーリは世界の終わりを目にした。

 ロッソア、メカリア、ヤポニア、そしてオルドラ。この世界にあった4ヶ国はすでにオーリのものではなかった。彼は目覚めたときに圧倒的にそれを理解した。もはや世界はオーリの味方ではないのだ、と。

 そして世界は死神オーリと対立を始めた。


 まず、最初にオーリからの独立を言い始めたのは、エーヴィルではなくルーファーだった。


「こうなってはやむをえません。私はヤポニアの民に誓ったのです」と独立を宣言した。


 そのさい、独立に反対したトゥーリを排し、そのスキルを奪った。

 ここで【世界の叡智】を持つ王・ルーファーが誕生した。

 ルーファーは圧倒的な知略をもって、死神オーリを追い詰めた。

 その段階にあっても、エーヴィルとワイゼンは神帝(・・)オーリの庇護を外れなかった。

 ワイゼンはロッソアの北部を父・オーリに割譲。

 死神オーリの庇護を受けるワイゼン、父の世界へ反旗を翻すことになってしまったルーファー、神帝(・・)オーリの庇護を受けると虚しい宣言をしたエーヴィルは世界を3つに割った。

 スキルの多くを失ったとは言え、依然としてシーマを除けば世界最強戦力のオーリと、そのオーリを超える魔力を持つイルギィスを擁するロッソア。

 いくら【世界の叡智】があったところで、圧倒的に攻めるための戦力が足りないことは、ルーファーにもわかっていた。ただ、守るには守ることはできる。

 世界は長い膠着に突入し、寿命がほぼ無尽蔵であるオーリ以外は次々寿命が尽き、その子の世代、孫の世代へと戦いは引き継がれた。

 シーマはひとりオルドラに篭り、夫や子や孫たちが続ける世界の荒廃をただ眺めていることしかできずに、自らの長い寿命の終わりを待っていた。ジビルガフの比較的勝利をただただ眺め続けた。


 ********************


「ひどい話だと思わない?」とシーマが言った。


 だが、俺は反応できない。


「ちょっと、理解できてる?」


 だが、俺は反応できない。


「ねえ、聞いて――」


 あ、これはアカンやつだ、という顔をシーマがするが、まあ、無理なからぬことではあった。

 御年45歳。転生前も合わせたら70年くらい生きているが、俺はこれまででいちばん泣いた。


「こ、ごどもだぢが……ぶびんずぎで……ぢぢば、ぢぢば……」

「なに言ってるかわかるけどわかんないわよ」


 かつての俺を信じて世界を割ろうとしたルーファー。

 俺がどうなろうと信じて付き従ったワイゼン。

 俺のことをキライだと言いながらどうしても諦めきれないエーヴィル。


 どの子も盲目的に俺を信じていた。

 信じている俺の姿が違っただけだ。

 過去の俺。いまの俺。真実の俺。

 いろんな俺を信じて、息子たちは戦わざるをえなかった。


 子供を持ったらきっと誰にだってわかる。

 それは触れてはいけない感情であり、許されてはいけない方法だ。


「ジビルガフを倒す!」と俺は言った。

「バカなの? アタマ悪いわよね、あなた。基本的に」

「え?」

「その可能性を否定するために、いま、あなたが死んでないわけじゃない」

「俺が死んだらそうなるんだっけ?」

「壊滅的理解力。万死に値するわ。さっき、トゥーリがあなたから【献身的な独裁者】を奪ってたら、そうなる可能性があるのよ。あなたが【献身的な独裁者】を奪われない限り、世界はあなたを見捨てない。そういう壊れ性能なの」

「あ、そうか。俺が死んでないからね」

「そう、あなたがまだ死んでないから」

「シーマにも迷惑かけたんだな、その4回目は」

「それについては、私たちは私たちの責任だから、迷惑をかけたかけないじゃないのよ。だいたい能動的に解決、って意味なら、私が手をだれかに貸せば終わった話だしね。キルシュリーゲンさまはそうなると思ってたみたいだけど」

「だれかに手を貸すとどうなるわけ?」

「バカすぎるわね、あなた。あのね、いくらエーヴィルたちが優秀でも、あの子たちはチートじゃないのよ。チーターとチーターのあいだに生まれた、この世界のただの優秀な人間なの。私が参加したら、私が勝つじゃない。私、そこまで無神経じゃないのよ。どう見えてるか知らないけど。子供たちがそれぞれあんたみたいなダメな父親信じてるのに、誰かに手を貸すなんてできないわよ。もちろん、3人を全部否定して私が勝つなんてこともできない」とシーマは言った。「こうなったらね、親なんて黙ってるしかないのよ」


 かくして、永遠の生を持つジビルガフと俺は長い長い耐久戦に入った。

 世界は荒廃し、神留地のニートどもはキルシュリーゲンを恐れてなにも手が出せず(レグラとフレアムは打って出る打って出ないで相当やりあったらしいが)、300年ほど経ったところで、シーマの寿命が尽きようとしていた。

 オーリとシーマはすでに200年は会っていない。


「おんし、ここまできてなにもせんつもりか」と全盛期の姿かたちのままの絶対神は言った。

「しないわ」と老エルフは言った。

「わかっておるのかは知らんが、おんしが死んだらわっち以外のだれにも止められん」

「厳密に言えば、あなたが勝負を途中で止めたのはこれまでに1回しかない。今回はそうじゃない(・・・・・)から、あなたにも止められないんでしょう。私が死ねばそれであなたには都合が悪いのね」

「わっちは絶対神ぞ」

「じゃあ、カミサマもウソをつくのね。可能不可能の話はしてないわ。あなたは止めない。だからこれは可能でも不可能なのよ」

「わっちはおんしと戦っておるような気になってくるわ」

「そりゃそうでしょ。そういうことだと思ってるわ」

「……よかろ。なにが望みだの?」

「……このループ、さいしょからやり直したいわ」

「よかろ。対価はそうだの、なんにしようかの」

「でも、つぎのループは100回に分割して欲しいの。1回1回じゃ重すぎるのよ、日常が」

「それでどうにかなるとも思えんが、これよりはマシかの。まあ、そもそもこの世の終わりと釣り合うとも思えんが、まあ、よいであろ。それはおんしらにはなかったことにしてやろう」

「記憶に残すのは直前の1回だけとかはなしよ?」

「そんなペテンを仕掛けるように見えるかえ?」

「あなたのことはなにも信用しないわ」

「よかろう」


 そうして女帝シーマは長い100回のループに入った。らしい。

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