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異世界転生して無双したら神になったので隠居して子供たちを見守りたい  作者: 毛玉伯爵
第4章 三男の言うことが理屈っぽすぎてついていけない
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5:三男神の子、賢い子

神帝歴41年――オーリ6年

ゆくの月


 ちゃららーちゃーらちゃららーちゃららー。

 ヤポニア技術国主任探検家・神帝オーリ。

 違いがわかる神は今日も優雅に海をゆく。


「ねえ、オーリ。それ、リズム的にあれよね、ちゃららー、じゃなくてダ――」

「よしてくれ、シーマ」と俺は言った。「危ない、ジャスラックが来る」

「個人が口ずさんだくらいで来るわけないでしょ、バカね」とシーマは言った。「それにここは異世界だから」


 ざざん、と波音がした。


 なぜ俺とシーマは船に乗っているのか。

 移動である。

 ヤポニアからシーマはディジルドへ、俺はクムズポートへ移動している。

 空すら飛べる魔術師たる俺たちはまあ、言ってしまえば船にも馬車にも乗る必要はない。


 魔法がそれほど得意でない種族にとって、空を浮くというのは一大事である。

 仮に移動中に鳥がぶつかってきただけで死に至る可能性もある。

 俺やシーマやイルが高速で空を飛ぶときには、同時に防御魔法も展開している。

 この防御が得意かどうかというのが、よりよく(・・・・)暮らせるか否かに大きく関わってくる。

 いまだってシーマはルーファーを抱いているが、海風は生後間もない赤ん坊にはよくないと思うが、風魔法で周りを覆っているために、景色はいいが適温に保たれている。


 つまり、魔法で空が飛べるかという問いに対してはイエスであり、ノーでもある。

 実用的に交通手段として使える者は極めて限られていると言っていい。


 ではなぜ空も飛べるし、快適な防御魔法ライフも送れる俺たちが船で移動するのか。

 まあ、身もフタもないことを言えば、なかば休暇みたいなものであった。

 いまは比較的ヒマですからね、とトゥーリがわざわざ船を手配したのだ。

 シーマは最初こそすこし渋っていたが、なんだかんだと最終的には楽しそうに船旅の準備をしていた。


 俺たち夫婦とルーファーで過ごす時間をすこしでも長くしようというトゥーリの気遣いというやつである。


 ただし、気遣いを受けたもののこういうときになんの話をすべきかわからない俺は、ネスカフェゴールドブレンドの道を突き進むことになる。


「なあ、シーマ。かつて俺がまだパソコンとお友達だったころ、俺はネスカフェゴールドブレンドのCMが、それも外尾悦郎が出演しているCMがとてつもなく好きだったんだ」

「なるほど、なんの話?」

「俺も違いのわかるゴールドブレンドにしようと思ったが、当時の俺にコーヒーは飲めなかった。というか、元世界でコーヒーをうまいと思ったことはいちどもなかった」

「私もそんなに好きじゃなかったけど」

「いま帰ればうまいと思う年になっているのかもしれないな」

「帰れるかどうかは知らないけどね」

「幼いころ、俺はジャスラックとディ○ニーと小○館が怖かった」から始まる俺のどうでもいい話はそのあと延々5分くらい続いた


 ジャスラックは歌った瞬間にやってくるものだと、どこからとも知れずにやってくるものだと信じていた。


 そんなバカなことがあるものかと思いもしたが、著作権の期限はディ○ニーが切れそうになったら延長される、つまりディ○ニーは法律すら操る、とまことしやかな情報が自分を取り戻そうとした幼い俺に降りかかる。

 しかも、ジャスラックは聞いた人数が多いほど金を多くむしりとる。いままでに、利一(りいち)は何人に聞かれたかな? 5人? 10人?

 小遣いが月に1千円前後の時代に、1曲歌うだけでいくら持っていかれるのか、と俺は戦慄した。

 そして同時に俺は憤った。

 その当時の俺にとっては意味不明な料金体系だった。なぜ歌ったくらいで怒られてお金を取られなければならないのか、と。

 無論、大人になって著作権そのものを知らないやつはヤバいが、でもアプリをインターネットと混同するなどという都市伝説じみた生物もいるようなので、もしかしたらいるかもしれない。

 上も下も見れば見るだけキリがない。

 いや、なんの話か。


「あなた、最近アタマのおかしさに磨きがかかってないかしら?」とシーマが言った。

「ずいぶんだ」

「ずいぶん的確?」

「シーマ。いまさら断るまでもないと思うが、ジャスラックは口ずさんだくらいでは来ないことを俺は理解している。なによりここは異世界だ」

「そうね」とシーマは笑った。

「とかく。幼い俺に誰がジャスラックとディ○ニーと小○館に対する誤った知識を植え付けたのかはさだかではない――いや、まあ、おそらく母方の伯父だろうけどね、あれはろくでもなさではジビルガフといい勝負をするから」

「会ってみたいわね」

「会うと意外とふつうの顔するんだよなー、あのオッサン」

「それはふつうのひとなのよ。アタマのおかしいひとは――あなたみたいに、アタマのおかしいひとは、取り繕いもしないから」

「やめて。なんかダッシュ入れてアタマのおかしいひと、言い換えると俺、みたいな流れやめて」

「事実でしょう。で、ゴールドブレンドの話、オチついてないわよ」

「ああ、そうだ」と俺は続きを話す。


 ちなみになんだか長々と話してはいるものの、とくにネスカフェゴールドブレンドが俺たちの今後の重要な伏線とかにはなっていないと違いのわかる神・オーリは思う。

 だから、なにげない夫婦の会話と言えないこともない。


「俺はあるときそのふと幼いころの恐怖を思い出して、ジャスラックのページに行ったんだよ。ネスカフェゴールドブレンドのテーマ、とジャスラックにはハッキリと記載してあった。そして作詞(・・)って項目があったんだ」

「曲だけでも一応書いとくもんなんじゃないの?」

「俺もそう思ったさ! だから、俺は久石譲の『SUMMER』をすかさず検索した。権利者の欄に作詞者(・・・)はなか(・・・)った(・・)。つまり、ネスカフェゴールドブレンドのテーマには詩が存在し、ジャスラックが管理している以上、やつらはやってくるのだ!」

「やっぱりあなたはアタマのおかしいひとみたいね」とシーマは残念そうに言った。

「いや、待て。待つんだシーマ! あれは歌詞か? あれは歌詞なのか? 俺だって自問自答したさ」

「答えは出たの?」

「ついで現れたのはインテルだった」

「インテル? 入ってる?」

「そう」

「ぱんぱぱぱん?」

「そうだ。ウォルター・ワーゾワだ」

「誰よ」

「作曲者だ。ちなみにインテル関連のワードではジャスラックに該当はなかった。よって俺は、ぱんぱぱぱん! と言い続ける。ぱんぱぱぱんぱんぱぱぱんぱんぱぱぱんぱんぱぱぱんぱんぱぱぱんぱ――ガフッ!」

「ウケなかったお笑い芸人の一発芸みたいになってたから、いちおう止めておいたけど、続きがやりたかったらどうぞ」とシーマはにこやかに言った。

「じつは俺もやめるタイミングを見失っていた」

「それはなによりね」

「というわけで、俺はうかつに濁音を口ずさまずに、ちゃららーちゃーら、と字面ではわかりづらいネスカフェゴールドブレンドを口ずさみ、ぱんぱぱぱんとインテルを大合唱するおとなになりました」


 つまりこの話のオチは、ネスカフェゴールドブレンドのテーマには歌詞が存在し、迂闊に引用しようものならば著作権料が発生するので諸君も気をつけろ、というものだ。


「しかし、何年ぶりかしらね、ふたりでふつうの交通手段を使うのなんて」といちおうのとりとめのない話にオチがついたようなつかなかったような、温情でついたような気がする的なあれの流れで、シーマは言った。

「結婚式の馬車以来な気がする」

「それは遡りすぎ。メカリアに進出する前までは結構乗ってたよ」

「それは私じゃないわ! いったいどこの男よ!」

「新しいわね。攻めていくスタイルは好きだけど、3倍にして返すことになるよ?」とシーマは言った。


 3倍に恐れおののいた俺はなんとかインテルとゴールドブレンドの話に戻す方法を考えたが、そんなに広がるわけがない話題でむしろあれだけ引っ張ったのは引っ張りすぎだったという気しかしてこなかった。

 つまり手詰まりである。


「まあ、いいけど。それより、ちゃんと子供に顔見せなさいよ。エーヴィルはもう結構あなたのことを知らないオジサン扱いし始めてるわ」

「マジで!?」

「嘘だけど。イルのことはイルとーさんとしか呼ばないのよ、あの子。お父さまって言ったらあなたのことね。まあ、最近は呼ぶ機会もあんまりないけど」

「……帰る気はあるんです。本当に」

「聞いたわ。ホアソンから。ずいぶんとキョリが近いって言ってた」

「言いがかりだ! 冤罪だ! 自意識過剰すぎる。業務上相当と考えられるキョリだ」

「近いのは近いわけね?」

「……遠くはない」

「……へんねえ」とシーマはふと笑った。「いつもなら怒りたくもなるんだけど、ここでこうしてると不思議と多少は笑えるわ。あなたの話もつまんないと思って聞いてるとつまんないんだろうけど」

「微妙に辛辣だ」と俺は抗議する。


 シーマはルーファーの額をそっと撫でる。


「この子もそのうちしゃべり出したら、すぐよ」

「楽しみだな」

「そんなこと言って、エーヴィルのときも、ワイゼンのときもあなたは初めてしゃべったの聞いてないでしょ」

「エーヴィルはだいぶしゃべり出すまで会えなかったからなあ……」と俺はすこしのリグレットを述べてみる。

「ルーファーはちゃんと聞けるといいわね」

「どういう感じなんだ?」

「まあ、最初はことばじゃないわ。とり、とか、まま、とかそのへんよ。ことばをしゃべるのはもっとあとね」


「とうさま、かあさま」


「そうそう。こんな感じに――!?」


 ルーファーがつぶらな瞳でこっちを見ている。


「え」と俺は言った。

「え」とシーマも言った。

「え」とルーファー()言った。


「……しゃべった?」

「うん。しゃべった」

「とうさま。かあさま」とルーファーは繰り返した。


 早すぎた。

 超絶すぎる。

 あの絶対神(キルシュリーゲン)には逆らってはいけないと心から俺は思った。


 そしてそのアンタッチャブルの言ったとおりに、ここから、ルーファーの異様な成長は始まった。

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