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婚約シリーズ(仮)

そんな彼女たちの婚約者

作者: あかね

 不本意。

 そう言いたげな顔をリーナは隠さなかった。その気持ちはローゼリアにもわかる。呆れた顔をしているフィーリアほど彼女は割り切れない。

 なんかもやっとする。


「なんです。これ」


「我々の婚約者様はこれ以上、婚約者を増やすつもりなのでしょうか」


「本人はそのつもりはないでしょうが、外堀が埋められています」


 そろえたようにため息が重なる。それは第十回婚約者会議の最初の議題としては重いものだった。




 ローゼリア、リーナ、フィーリアは現在ある一人の男の婚約者である。通常、国王ですら妻は一人と定められているこの国おいては例外的だ。それは建国王が相当女癖が悪かったせいでもある。

 そして、そのせいで残った法律の結果、彼女たちは一人の男を共有することになる。


 前世の記憶を持って生まれる者がこの世界にはよくいる。大都市には一人はそんな者がいて、それは取り替えっ子などと呼ばれた。この国の建国王が取り替えっ子であり、何を思ったか複数の妻をもてる法律を建国のどさくさに紛れて突っ込んだ。

 かの王は偉業を成し遂げたが、死ぬまで女癖の悪さは治らなかったという。


 そして、その法は改正されることもなく忘却の彼方へ。

 それを思い出したのがリーナである。国の歴史を洗い直していた時に見つけた偶然の産物と言えた。

 これで、選ばれない誰かが泣くこともないと単純に考えたのではない。

 リーナは別に実質的な夫婦であることは必要ないとしていた。保護してくれる相手として、必要としていただけだ。そして、その分十分な働きもするつもりだと言う。

 そんなところまで力説したが、ローゼリアにその決断をさせるには数ヶ月かかった。本来は他人と夫を共有するなど認めたくはない。

 しかし、リーナの有用さを認めた点が大きい。ローゼリアは上級貴族として教育はされていたが、学者になれるほど賢くはない。リーナはあらゆる事を記憶することを得意とし、記憶同士を連結し発展させることにたけていた。

 国のために必要である。


 ローゼリアは苦笑混じりでその提案を受けた。以前あった色々については既に謝罪はされている。リーナには罰としてルース家が所有する領地の改革を命じられていた。無理難題を言う父に一歩も引かず、しかし、情熱をもって領地改革に励んだ結果、認められるという偉業を成し遂げている。


 某人は、なにその喧嘩して強敵と書いてライバルと呼ぶみたいな関係、とぼやいていた。


 この話にフィーリアが加わったのは偶然と言える。

 王に目をつけられたので、全力で他国逃亡し親類に身を寄せていた。そこで、過去の婚約者と遭遇すれば運命を感じてもおかしくはない。


 まるで、物語のように。


 聞けば聞くほどひどい国王のようで、近隣の国であって良かったとローゼリアは思った。過去、現王太子妃も言い寄られて困ったとか、良い噂は聞かない。

 そして、国自体が傾いている。現在、フィーリアの実家であるディルファ家を足がかりに浸食中だという。属国となる日も近いかもしれない。


 他国に侵入するために商人という形を装う以上、彼の家の力は必要だった。そして、いいわけとしての婚約が必要とされた。そのうち婚家となるのだから援助してもおかしくはない。


 ローゼリアとて、この国に彼を縛り付けるために用意されたも同然だ。

 それなのに関わらず、彼の笑顔は甘い。

 手紙にさらっと会えなくて寂しいとか書いて寄越すくらいにはひどい。他の誰にも手紙を書いていないと知っているから、期待してしまうほどに。


「……ほんっきで、ローゼリア様がお気に入りなのですね。なにかこう、激甘過ぎて、胸焼けがしそうです」


 リーナは手紙をローゼリアに返してくる。綺麗に折りたたまれたそれは、意外に神経質なところの現れだろう。

 その手紙を横から覗いていたフィーリアはうんうんと肯いている。

 ローゼリアは赤面しつつ、手紙を胸に抱いた。


「ひ、人に見せるものではありませんわ。今回は例外ですもの」


「……例外であればよいですね」


 リーナが指摘しなくてもローゼリアもイヤな予感はしている。

 彼女たちの婚約者というのは。


 アーヴィ・ジン・ティアル。18歳。

 長身で細身ながら体を動かしているせいか、そこそこの筋肉はついている。整っていると言えるが、ややつり目できつそうな顔立ちだが、笑うと目尻が下がりやけに子供っぽく見えた。本当に笑うときしかみれないレアものである。

 栗色の髪は短く切っているが、時々寝癖がついてたり、制服も着崩している事が多く、それで怒られたりしている。真面目そうで、うっかりもの。時々、ものすごく油断した顔で寝ていることが目撃されている。そして、女性には等しく優しい。別に男に厳しいわけではない。友人同士楽しくじゃれているところの素の顔はただの青年にしか見えなかった。

 黙って立っていれば貴公子然としているのになんだか親しみやすい。そう、手が届いてしまうのではないかと思わせてしまうほどに。


 結果、学園に通っていたころは第二王子と人気を二分していた。ただし、本人は首をひねっていた。同時期に通っていた事もあって第二王子はとても意識していたようだがそれも僕のほうができが悪いでしょと笑うような人だ。


 この話題についてはローゼリアは徒労感をいつも感じる。もてると自覚する前に取り巻きが出来て統率されてしまったのが遠因であり、側に近づく女性を排除し続けたファンクラブの罪は重い。


 しかし、そのおかげでここまで彼が特定の誰かを決めずに済んだのだからローゼリアは糾弾するわけにもいかない。

 普通の環境では間に合いはしなかったのだ。

 他の婚約者がいる身では、どうにもならない。知り会いにもなりはしなかっただろう。

 倫理観がしっかりしすぎるからか婚約者がいる女性には用事がない限り話しさえしないのだ。余計な勘違いをさせては困るでしょう?と曖昧な笑顔で。


「でも、今回のコレは腹立たしいから許しましょう。早く、ここに連れてきて欲しいものです」


 フィーリアは気分を切り替えたのかそう言う。ローゼリアもリーナもそれに異論はない。


「ああ、そうですわ。王太子妃殿下にもお伝えしましょう」


 ローゼリアがぱちんと手を叩く。

 それはとても良い案に思えた。


 ラブレター公開という彼の羞恥プレイ以外は。


 数日後、祖国から分厚い手紙が届き彼が目眩を起こすことになる。


 えー、僕、ロールプレイとか苦手なんだけどとぼやきながら中に入っていた指南書の通り動き、結果、二人での帰国となるのは少し先の話である。

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