気付いたら一風変わったスライムになっていた
作者は暑くて疲れてるんだ。
――知恵の実、食すとIQが百上がる。副産物としてステータスを見ることができる。
ほほぉ、なるほど。これ食ったから俺ってば前世の記憶なんか思い出しちゃった上に日本語まで使えてるわけね。
でも、百も上がって日本人だった頃の感覚を取り戻すって、食べる前の俺はどんな馬鹿だったの?
いや、まぁ、いいんだけどさ。
傍らの池に映ってるコレがいまの俺の姿なんでしょ?
そりゃぁ、百上がって人並ですよ。だって脳みそないだろうし。
「きゅー」
日本語を発音しようにも口もなければ歯もないこの生物。体の伸縮で鳴き声らしきものは出せるらしい。
俺は池を覗き込んでうにょんうにょんと身を震わせてみる。
こんにちは。俺、スライムになってるっぽいです。
ステータスを見てみる。
――氷嚢スライム、体内に氷を蓄えているスライムの一種。決意が固まると体積が増す。
へぇ、氷嚢スライムって言うの、俺。
決意が固まると体積が増すってのはどういう事だ。もしかして、水が凝固すると体積が増すから、俺こと氷嚢スライムも体積が増しちゃうの?
体内にあるという氷はどうも俺自身の体温で溶けない様にしているらしい。俺は生体冷蔵庫か。
池に映った軟体生物、氷嚢スライムな俺は柔軟体操などしてみる。七百二十度ほど体をねじってみたり。
遊んでいると、体内の氷が溶けたのかどろりとした状態の氷嚢スライムが対岸に現れた。
第一お仲間発見である。
身に着けたばかりの七百二十度ねじりからのお辞儀をする。紳士的な動作に遊び心を入れる俺、超カッコいい。
あれ、なんかバカっぽいな、この体勢。
しかし、対岸にいた氷嚢スライムは俺のお辞儀に心打たれた様子で近付いてくる。
ずいぶん動作が鈍い。弱っているのだろうか?
こちらからも距離を詰めて、溶けちゃった系氷嚢スライムと交流する。
「きゅー」
「ききゅー」
スライム言語で情報交換してみると驚愕の事実が発覚した。
この溶けちゃった系氷嚢スライム愛称トケミは人間に乱獲された氷嚢スライムの一匹らしい。
どうやら、トケミたち氷嚢スライムは卑劣な人間たちに生け捕りされて桶に放り込まれ、汗まみれの足で踏みつけられたようだ。
あぁ、これは涼を取ってますねぇ。
「ききゅーきゅーっき」
トケミがうぬぉんりゅと身を捩る。なんだ、この躍動感。
どうやら、仇を取ってほしいらしい。
私、汗臭くなっちゃった、などと言って落ち込んでいるトケミを見ると、精神的被害の大きさが良く分かった。
「きゅー」
分かった、俺が仇を取ろうでは――
「お、氷嚢スライムみっけ」
野太い男の声が聞こえたかと思うと、俺はいきなり天高く持ち上げられた。
驚いて周囲を見回すと、三十代ほどの男がいた。盛り上がった筋肉が汗にテカっている。
……おい、もしかしなくても、俺ってば捕まってないか?
男は調子っぱずれな鼻歌交じりに森を歩き出す。
「いやぁ、良い拾いもんしたなぁ」
ふざけんな、離せ!
身を捩って逃れようと試みるが、男はいきなり俺を上下に激しく振り回してきた。
天地が何度もひっくり返り、目が回る。
「これで静かになったな」
うげぇ、吐き気が……。
吐き気を堪えているうちに人間の村に着いた。
男の家の軒先に吊り下げられている籠に放り込まれた俺を近所の娘さんが羨ましそうに見ている。なにあの綺麗な娘さん。足ほっそいなぁ。白くて肌もきめ細かくて、爪の形もいい。足モデルって言っても通じるよ。顔も十人並みだし、目の保養だわ。
娘さんに見惚れていると、俺を捕まえた筋肉だるまが桶を片手に戻ってきた。
……桶?
ちょっ、待って! やだ、トケミの二の舞はやだ!
やめて、籠から出さないで!
いやだ、桶は嫌だ。
やだ、やだ!
その汚くて汗臭くて脛毛ボォボォの足をこっち向けないで!
いや、嫌なの、マジで嫌なの! フリとかじゃないの!
やめて! せめてさっきの綺麗な娘さんのおみ足にしてくれください! お願いしますから!
いやぁあああ!
「きゅ……」
「夏はやっぱりこれだよなぁ」