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入学式でございます

 正門には既に馬車の行列が出来ていた。正確に表現をするのであれば、子爵のご子息・ご令嬢が使う正門が混雑し、行列となっているのだ。

 この学園には、4つの登校用の正門が用意されている。王公爵用、侯爵用、伯爵用、子爵用の正門だ。それぞれ親の持つ爵位に従って、どの門を使うかが決まってくる。もちろん、王公爵なんて滅多にいるものじゃない。よって、王公爵用の正門は空いている。身分社会のピラミッド構造で言えば当たり前なのだが、底辺にいけば行くほど、その人数は増えていくものだ。だから、子爵の子息、息女が一番多く、彼等が下車する正門は、行列となるのだ。

 ちなみにこの学園に通学する生徒に、徒歩通学という概念は存在しない。身分的にこの国のトップ オブ トップの子息、息女が通うのだ。当然の如く全員、馬車通学である。


 馬車通学が贅沢かと思うかも知れないが、馬車なんていう贅沢はまだ可愛い方である。というのも、この国のエリート養成機関は、このマリジェス学園だけである。つまり、国中から身分の高い子供が集中するのだ。王都からも少し離れた場所にあるし、遠方に領地を持つ貴族の子供は、住む場所が問題となる。

 私も設定では、このマリジェス学園から東に300キロくらい離れた場所の貴族の娘ということだ。通学できる距離ではない。じゃあ、学生寮にでも住んでいるのかと問われると、そうではない。私が学園に通っている間に住む屋敷というのを親が購入してくれたのだ。そして、実家と同じような生活が行えるように、何人もの執事やメイドや料理人を雇ってくれている。これは、主人公の家、ヴァレンティノ家が裕福ということではなく、ここに通う生徒は大体同じことをやっている。


 まぁ、そういう訳で、みんな馬車で登校するし、馬車から降りるといっても、車からひょいと降りるような簡単なものではなく、一定のマナーが存在する。令嬢となると、優雅に降りる故に、時間がかかる。御者が、馬を留める。そして使っていた黒い手袋を、儀礼的にというか仰々しく履き替える。馬車から下車するための階段を設置したり、馬車の扉を開けるために、わざわざ別の手袋を履き替えたりと、めんどくさいことをやっている。そして、やっと扉を開けると、階段をゆったりと降りる令嬢の登場。

 そんなことをやっているから、時間が掛かるし、長蛇の列になるのだ。そもそも、歩いても30分かからない場所にみんな住んでるのだから、今日のような桜が綺麗な日くらい、歩いて登校しなさいよ、と私は思う。


 ちなみに、この登校の時に絡んだイベントも存在する。王子様であるブリキット・アレクサンデルと公爵の息子で、ブリキット・アレクサンデルの親戚でもあるファーガス・ボルドとの親密度が一定以上になると、発生するイベントである。子爵専用の正門で下車するために並んでいる主人公の馬車を見つけた彼等は、「一緒に校舎まで行こう。こっちの門を使えよ」と、主人公を王公爵用の門から登校するようにと誘う。当然、ライバルキャラ達から見れば、子爵の中でも身分の低い方である主人公が、多少気に入られたからといって何を調子に乗って! と逆鱗に触れることになる…… そして、当然、ライバルキャラ達からその日中にお声が掛かる。女子トイレに呼び出されて……。 ガクガクブルブルッ……。


 ・


 長い馬車の行列を抜けると、入学式であった。私の頭は白くなった。

 入学式の主賓中の主賓である、この国の王様の挨拶が気持ち悪かった。「諸君等が、学園で学びに努めるを以て、我への忠誠と為す」とか言ってた。ブルスプでは、入学式の王様の演説はカットされて初めて聞いたが、なんだか恐い。何が恐いかと言うと、それを当たり前だというように聞いている周りが恐いのだ。国を守る為に、特攻して来い! ハイ、ヨロコンデ! 的なノリのように感じる。


 3年生で生徒会長のファーガス・ボルド、ちなみに攻略対象なんだけどね、彼のスピーチは長かった。要約すると、「我等の忠義を示すため、共に獅子奮迅! 獅子奮迅! とにかく頑張ります! 」ってな感じ。スカートとスピーチは、短ければ短いほど良いのよ? と私は思う。


 そして注目の新入生代表ブリキット・アレクサンデルのスピーチ。彼のスピーチは、オープニングでも一部分が採用されている。それは「私はこの3年間で、信頼に足る側近と、そして私の傍らに立つ本妻を、そして側室を見つけたいと思っている」と高らかに宣言するシーンだ。彼がその台詞を吐いた後、会場は熱気に包まれる。ブリキット・アレクサンデルが王位を継ぐのは現状確実で、彼に側近と認められれば、国家の重鎮としての地位が将来約束される。そして、女子生徒に至っては、本妻と側室を求めるのである。この王子は入学式の挨拶で、いきなりハーレム宣言かよ!! ってな感じなんだけど、みんな真剣な目でブリキットと見つめている。まぁ、ここで重要なのは、ブリキット・アレクサンデルが本妻と側室を求めているということを明言したことなのだ。そして、それを、先ほど挨拶した、国王でもあるブリキットの父上が、頷いているということなのである。ゲームの主人公も、頑張るぞ! 的な真剣な目をして、右手の拳を熱くしている描写がオープニングにあった。


 側室は、本妻を蹴落とせば、自分が本妻になる可能性がある。そして、側室にも選ばれていない人でも、側室を蹴落とせば、その空席に自分が選ばれる可能性があるのだ。ブリキット・アレクサンデルに懇意にされた主人公が、悪質ないじめを周りから受ける下地というのは、この場で醸成されてているのだ。それに、主人公は、子爵の中でも身分が低い。登校する門ですら明確に区別する国家において、明確に下の身分であり、虐めやすいのだ。

 これは、筋金入りだわ……と思う。本気で攻略キャラとのフラグを回避する!! と決意を新たにして、私は帰宅した。もちろん、帰りの馬車も、子爵用の門から帰宅する馬車は多く、かなり待たされた……。

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