表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんで私があのゲームの主人公になってるのよ!!  作者: 池田瑛
学園生活 ~唱歌祭と期末テストと私~
25/35

ディジー・エスティバンとキアラン・バータル 1

 テストの掲示がされ、キアラン・バータルが放課後に私に勉強を強制的に教え始めて2週間が過ぎた。そして、幾何学入門の授業を受けていた時、事件は起こったのだった。


 私の後頭部に突然の衝撃があった。何か固いものがぶつかったような、そんな衝撃とぬめりとした感覚があったのだ。何が起こったのかと、私も右手を後頭部に当てて確認をする。

 結論から言えば、生卵をぶつけられたのだった。私のポニーテールの髪に、卵の殻が絡まっている。ブルスプの主人公である以上、もしかしたらそれは起こるかもしれないと密かに心積もりしていたから比較的落ち着いているけれど、突然こんなことをされたら、普通は泣いちゃうわよ、と思う。


 私は教室の後ろを振り返る。私は最前列に座っているし、この教室で何が起こったのか、ということは全員が把握しているようだ。当事者以外の人たちは、貴族の慣例に基づき、無関心を装っている。自分の利権と名誉に関わらない事案はノータッチというのが貴族の暗黙の了解である。

 そして、クラスメイトのほとんどは、この事案は自分には無関係と判断したのだろう。しかし、人間とは面白いものである。無関心を装っていても、事の成り行きを見たいという好奇心は抑えられないようである。彼らの視線は、私と、そして、ディジー・エスティバンに集まっている。卵を投げた、もしくは投げさせた主犯は彼女だと、クラスの視線が語っている。


 私はディジー・エスティバンを見上げる。伯爵家であり、この王国の宰相の娘だけあって、教室の最後尾に座っていた。そして、高い教室の後ろから、私を見下ろしていた。彼女は、自分が犯人であることを隠す気がないのであろうか。

 ブルスプのシナリオから言っても、キアラン・バータルとのイベントが進むと、主人公に嫌がらせをするのは、ディジー・エスティバンである。


 それにしても、私の座っている場所と、彼女が座っている最後尾は、距離がある。正確に私の後頭部に生卵を投げたというのは、よっぽど投擲に自信があったのだろうか…… 見つけた。彼が実行犯ね。このクラスの状況で、1人だけ顔を机に向けて、震えているなんて、自分がやりましたと自白しているようなものじゃない……。私は、ホリー・ヴァレンティノが必死に暗記した貴族名鑑を頭の中でめくる。彼は、エスティバン家の分家に当たる家で、子爵家だ。まぁ、流石はエスティバン家の分家ということで、ヴァレンティノ家と比較すれば格は上なのだけどね。彼の家は、限りなく伯爵家に近い子爵家と言ったところだろうか。まぁ、ディジー・エスティバンがあからさまに私を、敵意の篭もった目で見下ろしていて、主犯であることを隠そうとしないあたり、卵を投げた彼は、言い方悪いけど、彼女にとってトカゲの尻尾なのであろう。


「ホリー・ヴァレンティノ、何をやっているのかね?」との先生が美髯びぜんを撫でながら言う。何が起こったのか、教卓に座って教室全体を見ていた先生が知らないはずはないが、先生は敢えて聞いている。

 生卵を投げつけた生徒を叱るような真似を絶対にしない。なぜなら、それがマリジェス学園の教育方針であるからだ。貴族は、社交会という名の泥沼の上を優雅に泳ぐ白鳥に喩えられる。泥沼の底から、沼の中に引きずり込もうと狙う魑魅魍魎から、自らを守るというのが、貴族が貴族として生きるための必須の能力である。それが出来ない者は、貴族ではいられない。

 降りかかる火の粉を自分で払える能力を培う、それがマリジェス学園の教育方針なのだ。


 同様に、ホリー・ヴァレンティノと恋愛関係となる攻略対象キャラも、主人公に対するイジメを止めようと能動的に動く気は全くない。なぜなら、そんなことも避けることができないのならば、将来貴族となる自分の横に立つことはできないと考えるからだ。

 もちろん、主人公から助けを求められたら攻略キャラは動くだろう。自分の持っているコネなどの人間関係を利用して、降りかかる火の粉を払うことは、貴族として当然だからだ。残念なのは、ブルスプでは攻略キャラに助けを求めるという選択肢が存在しないから、助けを求められないし、助けてもらえないというわけだ……。どんだけ悲惨なゲーム設定なのよ、制作側の悪意を感じるわ……。

 まぁ、そういう貴族社会だからこそ、身分の下位の者はより上位の者と結ばれよう、言葉を換えれば庇護を得ようと奮闘するし、それを阻もうとする者も現われるというわけで、今回のように生卵を投げつけるようなことも起こるのだけどね……。


 私は、席から立ち上がる。

「特に、なんでもありませんわ」と、私は先生に応えるが、


「では、その頭に付けている卵は何なのだね?」と先生は、冷たくもなく、熱くもない声で問い返す。


 先生は、別に悪意を持ってそんなことを私に問うているのではない。あくまで公平なのだ。つまり、先生は口には出さないが、「降りかかる火の粉を払う機会を与えたぞ。後は、お前の力量次第だ。ホリー・ヴァレンティノ」と、言っているのだ。


 あいつが卵を私に投げたんです! なんてことを言っても無駄であることは分かっている。目撃者は、おそらくこのクラスの全員だろう。しかし、目撃証言を得ることは期待できない。たとえ、「あなたが投げたのでしょう」などと私が詰め寄ったとしても、シラを切られてそれで終わりだ。ディジー・エスティバンに「貴女が黒幕ね」と詰め寄ったとしても、取り合ってもらえないだろう。


「これは、王都で流行している髪のお手入れなんです。枝毛があったのが気になっていまして」と、私は答えた。可能な限り堂々と。トリートメント代わりに生卵つけてみた……的な感じ?


 どうせ無駄なら、教室の笑いを取ってやろう。こうなったら自棄だ! と思って言ったのだけど……。笑い声が溢れるどころか、教室は静まり返っていた。


「そうか。だが、今は授業中だ。ホリー・ヴァレンティノ君は、時と場所を弁えておらぬな。今日のところは多めに見るが、次回は厳重注意とする。それでよいな」と先生は言う。


「はい。分かりました」と言って、私も席に着く。なんか、私が大いに滑ったような感じになった。それが逆に悔しくて、泣いてしまいたい。


 私の両隣に座っていた人が、さっと私から距離を取る。生卵で衣服が汚れたくないのだろう。ごめんね、と二人に軽く頭を下げて小声で謝る。

 まぁ、ブルスプでは、こんなの序の口。新鮮そうな生卵なだけまだ幸せである。もっとイベントが進むと、アンモニア臭がキツイ皮蛋ぴーたんを投げられたりするものねぇ。さすがに、教室内ではやってこないだろうけど。

 それにしても、やっぱりキアラン・バータルとのイベントを進めてしまったのはまずかったなぁ、と心の中で反省をする。しかし、幾何学入門だけは、主人公補正で、出来ないようになってるし、仕方ないじゃない、と言い訳と諦めの気持ちが私の心の中を支配するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ