やばい、期末テストだ 2
やはり期末テストは駄目でございました。私は、テスト結果が公示された掲示板の前に立ちすくんでおります。無情な結果の前で私は愕然としております。マリジェス学園の成績掲示の仕方は、成績上位者のみを掲示するというものではございません。全員の成績が科目毎に掲示されるのです。幾何学入門の私の成績は、最下位でございました。ええ、断トツです。銀河ぶっちぎりで最下位でございました。あれほど頑張ったにも関わらず、いざ答案を目の前にすると、頭に靄がかかります。三角形を見ても、はて、この図形は一体なんでございましょう、四角形と呼ばれるものだったかしら、円でございましたっけ? なんていうことしか考えられませんの。恐るべき主人公補正でございます。
そもそも、この学園のテスト制度がおかしいと思うのです。というのも、掲示板を見た限りですと、100点満点の方が大半を占めているのです。他の大部分も、90点以上を確保しており、80点代の方は、1科目に1人いるかいないか、といった状況でございます。おそらく、この学園のテストが、成績の優劣を競う為のものではなく、学んだことの確認という意味合いが強いのでございましょう。満点が普通ということなのでございましょう。かく言う私も、文法学と修辞学に関しては満点でございました。ただ、幾何学入門のテストの点数が、際立っています。
美しく泳ぐ白鳥の群れの中で、真っ黒な烏が行水をしているのを見るかのような光景でございます。なんといっても、私の幾何学入門の点数は、38点でございました。私の健闘空しく……。最下位は私で、ブービー賞の方は、88点という成績でございます。それ以外の方は、皆様、90点以上、満点ほとんどといった分布具合になっております。偏差値という概念がこの世界にあるかわかりませんが、どんな値になっているのでしょう。
「おい、お前」と後ろから声を掛けられました。
虚ろに後ろを振り向くと、キアラン・バータルが仁王立ちをしております。貴族は、感情を隠すということが基本スタイルであるにも関わらず、キアランは全身で怒りを表しておりますの。彼のメガネの奥からは、鋭い眼光が、私を突きさします。
「お前はあの時の…… まぁそれはいい。俺は、キアラン・バータルだ。クラスの委員長をしているのはお前も知っているな?」というキアランの声が私の耳の中へ入ってまいります。あの時というのは、図書館でのあの出来事のことを仰っているのでしょう。
「ホリー・ヴァレンティノと申します」と私は淑女の礼を取ります。
「お前、あの点数はなんだ」とキアランは、掲示されている幾何学入門の私の点数を指差します。
「申し訳ありません」と、私は頭を下げます。
「先生より、クラス委員長として問題に対応しろと言われた。この意味分かるな?」とキアランが言います。
彼は、私の答えを待たず「今日の放課後からお前に幾何学を教える。時間を空けておけ」と言いました。
この言葉は、私の半規管を揺らし、思わず眩暈がして参りました。
私は、キアランとのイベントを回避できなかったようでございます。
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放課後、私に幾何学入門を教えるキアラン・バータルは大変気の毒だ。彼の性格なのか、理路整然と、そして分かりやすく説明をしてくれているということは私にも分かるのだけれど、主人公補正が邪魔をして、私は理解したことをアウト・プットすることができない。
「これを解いてみろ」とキアランに言われても、私の筆は微動だにしない。
時間をかけ、優しく丁寧に噛み砕いて説明をしてもらっても、私の学習成果の向上が見られない。完全に、キアランの忍耐力を試すような場となっている。
静かに苛立っているということは私にも分かるのだけれど、本当にどうしょうもない状況なのだ。教科書よりも分かりやすい説明ということで、いろいろ工夫してくれているキアラン・バータルに申し訳ないと思う。心なしか、日を追うごとにキアラン・バータルの顔色は悪くなっていっているような気がするし、早く解放されたいのだけど、主人公補正という名の呪いが、解けないのであった。
クラス人数が30人、クラス全体の平均点が95点の時の偏差値を計算してみました。
ホリー・ヴァレンティノの38点の場合、偏差値は-0.87でした。
88点の場合は43.75。100点で54.46。
偏差値マイナスって、初めて見た……。




