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なんで私があのゲームの主人公になってるのよ!!  作者: 池田瑛
学園生活 ~唱歌祭と期末テストと私~
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春の香り漂う穏やかな日々 1

 マリジェス学園での生活が始まってから1か月が過ぎた。私がこのブルスプの世界に迷い込んでから1か月が経ったということでもあるのだけど、無事平穏に過ごすことができた。

 ブルスプでの1か月と比較すると、私はイベントの進行を大分抑制できたと自分の立ち回りに関心をし、そして穏やかな春の季節を過ごせることに感謝をする。


 攻略対象キャラと自己紹介、つまり知り合ってしまったのは、王族であるブリキット・アレクサンデル、生徒会長であるファーガス・ボルド、そして同じクラスの二アール・アンドレイだけである。

 3人の攻略キャラと接触をしてしまったという風に考えると少し落ち込むが、ブルスプのシナリオでは、初日に攻略キャラ全員と知り合いになってしまうということを考えると、上手く避けることができたと考えて良いと思う。プラス思考にならないとやってけないしね。


 私の日々の生活は、午前中の授業を受けて、昼休みは夏の園の秘密の花園の中で過ごし、午後の授業を受けて、放課後はせっせと本を書架に戻すという作業を淡々と繰り返すという日々だ。


 夏の園に隠されていた秘密の花園は、簡単に発見することができた。秘密の花園の存在を知っているからこそ発見できたのだと思うけどね。やはり、秘密の花園へ抜ける隠し通路は、私の目星通りの場所に隠されていた。夏の園の迷路園の中、行き止まりだと明確に分かる行き止まりを構わず進んで行くと、生垣に小さな穴が開いている。その高さ1メートルくらいの屈まないと入れないような木のトンネルの中を潜っていくと、その先に花園がある。真ん中には噴水と一本の木、そしてその木が作る木陰の下に机と椅子があるだけの、小さな花園。そこが私の昼休みを過ごす隠れ場所だ。その場所で昼食を取りながらゆっくりと読書をして過ごすというのが私の日課。


 1人で寂しくないのか? 確かに寂しいと感じる時もあるのだけれど、週に1度くらい、オリヴィアと昼休みに食事をしたりしている。オリヴィアと食事をするときは、この秘密の場所に連れて行くことなどできないから、噴水前のであったり、校舎の中庭の木陰で食事をしたりしている。


 ・


「私、唱歌祭で、ゴウィン・ニールさんと一緒に出場することになりましたの。ゴウィン・ニールさんを覚えていらして?」とオリヴィアが私に問いかける。今日のお昼は、オリヴィアと一緒に噴水前で食事をしている。嫉妬心に狂う前の、と言ったら失礼かも知れないけれど、今のオリヴィアは、少し人見知りをする、内気な女の子というような感じだ。オリヴィアが気を使ってくれているのかも知れないけれど、会話の話題はほとんどオリヴィアが提供してくれている。ライバルキャラということを除けば、最高の友人になれるような気がするのだ。

 

「もちろん覚えていますわ。音芸部に見学に行ったとき、一緒のグループで歌った方でしょ? オリヴィアの声も透き通るようだったけど、彼の声も、どこか惹きつけられるような声だったわね」と私は言う。


 オリヴィアとゴウィン・ニールが6月の唱歌祭に出ることになったと聞いて、私は少し気持ちが落ち着く。無事にオリヴィア・フロストとゴウィン・ニールは、無事にイベントを進めているようである。このまま二人がゴールインしてくれたら、オリヴィアとはずっと友達でいられるだろう。

 ブルスプ上で、ゴウィン・ニールを攻略しようと思ったら、彼と一緒に唱歌祭に出場するということは必須のイベントとなる。ちなみに、私が唱歌部に入っても入らなくても、ゴウィン・ニールと唱歌祭に出場することは可能だ。そしてどちらも、オリヴィアと出場することが決まっていたのをゴウィンがキャンセルして、ホリー・ヴァレンティノ、つまり私と組むという展開になる。オリヴィアから恨みを買わざるを得ない展開となるのだ……。だが、その展開を私はあまり心配していない。なぜなら、唱歌部の見学に行った日以来、ゴウィンと私は顔を合わせていないからだ。彼とは別のクラスであるからということも大きいが、まぁ、私がゴウィンを見かけたら全力で逃げているというのが大きな理由であろう。


「ゴウィンの声は、優しいと思うわ」

 吹き上げられた噴水の水が、春風で霧のようになっていた。そして、差し込む太陽は、そこに虹を作り出している。


「オリヴィア、見て。虹が見えるわ」と私は噴水を指さす。


「いち、にい、さん、よん…… あぁ。虹が消えてしまいましたわ。全部の色を数えることが出来ませんでしたわ」とオリヴィアは残念そうに言う。


 この世界で、虹は何色だと言われているのか私は知らない。ただ、全色数えることができたら、願いが1つ叶うという言い伝えがあるのをホリー・ヴァレンティノは知っていた。


「何を願おうとしたの? オリヴィア」と私は聞いた。


「唱歌祭で歌が上手に歌えるようにです」とオリヴィアは言う。初詣で願った内容は、誰にも言ってはいけない、という文化に育った私は、内緒です、なんていう答えを想定していた。え? 内容を言っちゃうの? と驚くが、願いとは多くの人と共有するものだとホリー・ヴァレンティノが私に囁く。


「オリヴィアは、随分と唱歌祭を楽しみにしているのね。最初、人前で歌うなんて恥ずかしいとか言っていたのにね」と私はオリヴィアをからかう。


「私は、今でも不安です。私1人が歌うということだったら、とっくの昔に出場を辞退していると思います。いえ、出場登録自体をしていないと思います」と、ルビーの瞳は強い確信を持って私に言っている。


 噴水と春風と太陽が、また虹を作り出した。


「あ、また虹が」と私は言う。オリヴィアは一差し指で、虹の色を数えている。この世界で、虹は何色だと言われているのか私は知らない。オリヴィアも、自分自身がゴウィンに対して抱いている想いのその名を、まだ知らないのだろう。

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