なんで二択しかないのよ! あ、でも選択肢を狭めたのは自分です 4
となりのクラスの教室の最前列。オリヴィア・フロストの姿があった。クラスの中で談笑しているグループが何人もいる中で一人、俯き、机に顔を向けてご飯を食べている。
そっか、と私は思う。フロスト家は、ヴァレンティノ家同様、子爵の家だ。身分の関係上、誰かに話しかけてもらえないと、誰とも話をすることができない、という私と同じ状況なのだ。そう気づく。
ゴウィン・ニールはオリヴィア・フロストを放置して何をやっているのかと私は教室の後ろを見上げる。教室の後方で、数人の男女で談笑をしている輪の中にゴウィン・ニールはいた。ニール家は侯爵の家だから、身分が高い。周りで談笑している男女も、侯爵と子爵家の子息令嬢だ。
ゴウィン・ニールとオリヴィア・フロストが知り合ったのは昨日。まだ、お互い音芸部に入ると決まったわけではないようだし、親密になるのは先の話なのだろうか。
オリヴィアからしても、昨日知り合っただけの侯爵子息に、教室の後ろを上がっていき図々しく話しかけることは出来ないのだろう。それにそんな大胆な行動をしたら、他の子息令嬢はオリビアに対して眉をひそめるだろう。
そっか、彼女は今の私と同じ状況なのか、と気づいた。彼女のクラスでは、彼女が話をできる人がいない。だから、昼休みに私のクラスに来て食事に私を誘ったのだろう。
そういえば、オリヴィアが最初に探していたのはチューティアだった。私ではなかった。私がオリヴィアに対して抱く感情を、彼女は既に昨日の時点で感じ取っていたのだろう。だからチューティアを探しに来たのだろう。一緒に昼食を取ろうと。しかし、チューティアはいなかった。そして、私の感情を推し量りつつも、昼食に誘ったのだろう。そして……。
私は彼女を傷つけてしまったのだろうか……。というか、オリヴィアって、そんな繊細なキャラだっただろうか? ゴウィン・ニールとのイベントがある程度進んでから登場する。その時は、自分の歌声に絶対的な自信を持った、勝気なそして高飛車な女の子ではあったはずだ。
そんなことを考えていたら、どうやら私がこの場にいることをオリヴィアに気づかれてしまったようだ。オリヴィアは私を見ていた。私がオリヴィアの視線に気づいたとき、さっとルビー色の瞳を机に向けるオリヴィアだった。そんなにあからさまに視線を反らさなくてもいいじゃない、まるで私がいじめっ子のようじゃない。ゴウィンと私の恋愛ルートが進んだときの、嫉妬や憎悪、人間のあらゆる醜い感情をその目に宿したルビーの瞳は、はっきり言って、生き血を吸うヴァンパイアのような凶悪な瞳の色だったわよ。ホリー・ヴァレンティノとゴウィンが舞台でデュエットをしているCGがブルスプにはあるけど、そのCGの後方をよく見ると、舞台裏から睨んでいるオリヴィアが小さく描かれているのを知ってるんだからね!! なんて心の中で叫んでも、それは詮無きことではないかと思う。
オリヴィア・フロストは、別のクラスの私なのだ。同じ境遇なのだ。身分が低く、同じ学園の生徒でありながら人間として視られない、そんな曖昧な世界で頑張っている一人の人間なのだ。
はっきりと断言できる。この、身分が上の者が名乗り話しかけなければ、下の者は人間としてすら扱われない、というこの身分制度は歪んでいる。おそらく、ブルスプで、主人公が攻略キャラ以外の男性と接点がないというのが、この身分制度という名のブルスプでの設定であろう。だって、クラスにも他の男性がいるし、共学であるのだから、当然のごとく攻略キャラ以外の男性とのイベントなり描写なりがあって良いはずだ。だが、ブルスプではそんなのは一切ない。王子様や騎士や商人の息子のハートを射止めるような美貌溢れる主人公、まぁ私ということなんで恐縮なんだけど、そんな主人公で、しかも高嶺の花ではなく、この学園から下から数えた方が遙かに早い身分の低い子爵の家の娘なのだ。身分の高い家の男性の方が多いというような状況なのだが、話かけてくるようなそぶりの男性はいない。へたれなの? 攻略キャラ以外で、性格がよくて、私を大事にしてくれるなら、即、身も心も任せますが何か? 私はチョロインですよ、なんて思う。
私は、オリヴィアの所へと歩いて行く。当然、彼女は私が近づいてくるのを直ぐに気付いた。
「オリヴィア・フロストさん、昨日からのあなたへの態度。心から謝罪致します」と私は淑女の礼を取る。そして、「改めて私とお友達になって下さいませんか?」と私は言った。
「ええ。喜んで」とオリヴィアはルビー色の目を虹色に反射させながら言った。
「私のことはホリーと今後呼んでください」
「では、私のこともオリヴィアと呼んでください」
私達は、友人になったのだった。それが、仮初めかは知らず。
「オリヴィア、もしよかったら、クラブ活動の見学をご一緒させていただいてよろしいかしら?」と私は聞く。少し、オリヴィアと呼び捨てにすることに緊張した。
「ほ、ホリ—。ごめんなさい。私、音芸部に入ることに決めましたの。今日は、音芸部に入部届けを出しい参ろうと思っていましたの」
あ、オリヴィアはブルスプのシナリオ通りに音芸部に入るのね。
「ああ、そうでしたの。昨日、オリヴィアの歌声を聞いた限りですけど、素敵でしたものね」と私は言う。ブルスプの経験8割、昨日聞いた実感2割というような成分で、彼女を賛辞する。声の良し悪し、技巧の有無なんて、素人の私に分かるわけ無いしね……。
「いえ、そんなことわ」とオリヴィアが反応する。顔が紅潮する。きっと、ゴウィンから口説かれたら、彼女のルビー色の瞳よりももっと深紅に、頬を染めるのだろうなんて思ってしまう……。
「ああ、もうすぐ昼休みも終わりね。では、また明日、よかったらお昼をご一緒したいわ」と言って、私は自分の教室に戻った。




