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なんで二択しかないのよ! あ、でも選択肢を狭めたのは自分です 2

 アネモネの香りに惹かれてか、多くの白い蝶が花々の上を舞い踊っている。赤、紅紫、桃、紫、青のアネモネの花々の上を、モンシロチョウのような蝶が蜜を集めている。

 春の園に広がる芝生は、木陰はないものの、春の優しい日差しとそよ風で、どこか眠気を誘うような和やかさがある。


「ホリー・ヴァレンティノさんは、どの季節がお好きですか?」

 オリヴィアがクロワッサンにジャムを塗りながら聞いてきた。


「春と秋、どちらも好きね。選び難いわ。一番嫌いなのは、夏と断言できるのですけれど」


「そうですか。私は秋です。紅葉の中を散歩するのが子供の頃から好きなのです。マリジェス学園にも、紅葉が綺麗な場所があればよいのですけど……」


「これだけ木々が有れば、きっと紅葉も綺麗だわ。冬の園へと続く並木道も、真っ赤に染まるんじゃないかしらね」


「そうだすと、とてもうれしいですわ。恥ずかしながら、少し故郷が恋しくなっておりまして……。お父様とお母様、弟と離れて過ごすのは初めてですし」

 オリビアのルビー色の瞳が、幽かに揺らめく。オリヴィア・フロストって、弟が居たんだと私は思う。そんな設定もあったんだ、と驚くばかりである。


「実家で家庭教師に教えてもらうということができればいいのですけどね」と私は言う。もしそれが出来るならば、こんな危険な学園からさっさと逃げ出したい。


「私もそう思いますわ。ですが、貴族には子女を学園に入学させる義務がありますものね……」とオリヴィアはため息を吐きながら言った。


「オリヴィア・フロストさんは、この学園に入学したくなかったのですか?」と私は聞く。


「ええ。私と友達になってくださる方がいらっしゃるのかが心配で……。お父様もお母様も、両方とも子爵家だったもので、友人を作るのに最初苦労したという話を聞いていましたし」とオリヴィアは言う。

 フロスト家も子爵の家である。まぁ、ヴァレンティノ家よりも格上の子爵家だけどね……。


「お父様もお母様も、マリジェス学園に通っていらしたの?」


「え? ええ。ホリー・ヴァレンティノさんのご両親は違いますの?」とオリヴィアは首を傾げながら聞き返してきた。


「あ、変な質問をして申し訳ございません。私の家が子爵の地位を戴いたのが、祖父の代なのです。そのころは、父と母はすでに成人しておりましたの。ですので、ヴァレンティノ家でこの学園に通うのは私が初めてなのです」と私は答える。


「そうでございましたか。ヴァレンティノ家は、勢いがある子爵家で羨ましいですわ。フロスト家は、歴史は長いものの、領地には豊かな森と豊富な水量の川があるだけの、王都からも遠い、田舎貴族でございますから」とオリヴィアは言う。


「いえいえ、そんなことはありませんよ。オリヴィア・フロストさんの所作は、王都近郊の貴族の方と比べましても、勝るとも劣らない、洗練されたものだと思いますわ」と私は言う。


 新興貴族を、勢いのあると表現したりするあたり、オリヴィアが根っからの貴族だと分かる。そういう風に好意的に受け止められてうれしいと思うのは、「私」ではなく「ホリー・ヴァレンティノ」の方であろうかと思う。「私」は、乙女ゲーム、ブルスプに迷い込んでしまった「私」なのだけど、ブルスプの設定以外で、「私」が知るはずのないことも知っていたりする。貴族の家名を聞いただけで、その家の爵位と格式がわかってしまうのは、貴族家名事典を必死に暗記させられた「ホリー・ヴァレンティノ」の記憶であろう。また、淑女の礼など、絶対に「私」が知るはずのないマナーなども、「私」が自然に行えるのは「ホリー・ヴァレンティノ」が体得した結果なのであろう。「私」は「私」であるのだけれど、「ホリー・ヴァレンティノ」でもあるのだろうか。そうすると、「私」は、「私」と「ホリー・ヴァレンティノ」が交じり合った結果生まれた人格であって、「私」は既に「私」でなくなっているのではないだろうか。では、一体「私」とは誰なのであろうか……。


「ホリー・ヴァレンティノさん?」と私を呼ぶ声で私はふっと顔を上げる。そこには、心配そうに私を見つめるルビー色の瞳があった。


「あ、ごめんなさい。少し考え事をしていましたの」と私は言う。


「とても思い詰めた顔をされておりましたわ。具合が悪いのでしょうか? あそこの日陰に参りましょうか?」

 オリヴィアが、少し離れたところにある小さな木の方を指し示した。


「大丈夫です。失礼いたしましたわ。私も昼食を戴きますわ」

 私は、バスケットの中からサンドイッチを取り出し、それを口に加える。ブルーベリーの香りが口いっぱいに広がった。


「ホリー・ヴァレンティノさん、お食事に誘ったのはご迷惑だったでしょうか……」

 少しかじっただけのパンを持った両手が膝の上に置かれ、オリヴィアは下を向いてしまった。


「いえ、そんなことはないわよ。どうしてそんなことをおっしゃるの?」


「ホリー・ヴァレンティノさんは、ずっと…… 何か恐ろしいものを見るような目でわたくしを見ていらっしゃいますわ。昨日、最初にお会いしたときから……」


 私の心臓が鼓動が急速に早くなっているのが分かった。ライバルキャラだから恐ろしく思うのは当然じゃないかという思いと、見抜かれたという焦る気持ちが混ざり合う。

 私は確かに、このオリヴィア・フロストが恐い。顔や表情に出ないように取り繕ってはいたが、恐ろしい者だと心の中でずっと思っていたということは事実だ。上辺だけの言葉で、オリヴィアの指摘を否定できるが、おそらくそれは嘘だとオリヴィアに伝わるだろう。かと言って、「あなたが恐いです」と言えるだろうか。なんと答えてよいかが分からない……。


「お食事の時間を台無しにしてしまって申し訳ありませんでした」と、オリヴィアが俯きながら言った。

 オリヴィアの顔から涙が落ち、膝とパンに一粒ずつ落ちるのが見えた。オリヴィアは、食べかけのパンをバスケットにすばやく詰め込み立ち上がる。


「お先に失礼いたします」

 涙をいっぱい溜めたオリヴィアは、淑女の礼を取り、そのまま走り去った。私はその場を動けずにいたのだった。

登場人物一覧を作った方が良いのかどうか、迷い中の作者です……。

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